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「ゴジラ-1.0」がノミネート快挙のアカデミー賞視覚効果賞とは。そして受賞の可能性は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(C)2023 TOHO CO., LTD.

1/23に発表された米アカデミー賞ノミネートでは、日本映画3本が入ったが、その中で最も注目を集めたのが『ゴジラ-1.0』だろう。視覚効果賞で日本映画として初めてノミネートを果たしたからだ。同作の山崎貴監督も直前に自身のXで思いを吐露していたように、ノミネートの行方はギリギリまでわからなかった。

アカデミー賞視覚効果賞は、昨年は『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が受賞。革新的な特殊効果に挑み、成功させた作品に与えられるもの。近年は進化したCGIテクノロジーが、その功績に寄与しているが、それ以前、アナログの時代からこの賞は存在していた。起源となったのは、1929年に行われた、第1回アカデミー賞。この時、作品賞に輝いた『つばさ』が同時に受賞したのが「技術効果賞」。第一次世界大戦に従軍したパイロットも動員した空中戦のシーンは今もなお語り継がれており、受賞にふさわしい。

その後、しばらく同賞の受賞は途切れ、1940年(1939年度)の第12回からは、視覚効果と音響効果を合わせた「特殊効果賞」が設けられた。この年は、永遠の名作とされる『風と共に去りぬ』が作品賞など8部門受賞(当時の新記録)を達成。しかし特殊効果賞はノミネート止まりで、別の作品『雨ぞ降る』が受賞。今から80年以上も前、CGがなかった時代に地震や洪水を描いた映像が評価されたのだ。

特殊効果賞が映像と音響に分けられ、特殊視覚効果賞として独立したのが、1964年(1963年度)の第36回から。その最初のノミネートは『クレオパトラ』と『』で、前者が受賞した。1973年の第45回からは、特別業績賞の「視覚効果」として表彰され、現在と同じ「視覚効果賞」となったのが1978年(1977年度)の第50回。『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』がノミネートされ、前者が受賞した。翌年の第51回が特別業績賞に戻り、第52回が視覚効果賞で『エイリアン』受賞。その後も特別業績賞に戻った年もありつつ、ようやくレギュラーとして定着したのが、1992年(1991年度)の第64回、『ターミネーター2』受賞の時からだった。

2010年(2009年度)の第82回まで、基本的にノミネートは3作だったが、第83回からは他の部門と同じく5作のノミネートとなった。

ここまで挙がったタイトルからわかるとおり、まさに映画のテクノロジーを次のステップに導いた受賞作が並ぶ。『風と共に去りぬ』の年の例が示すように、作品の認知度よりも純粋に映像技術を称えるケースが多く、実際に今年も最多ノミネートで作品賞の本命である『オッペンハイマー』は、視覚効果賞ではノミネートされなかった。前哨戦である放送映画批評家協会賞で『オッペンハイマー』は同賞を受賞していただけに、意外な結果ではある。

視覚効果賞と聞くと、莫大な予算を使った超最新テクノロジーが有利な印象はあり、『アバター』2作や、『ロード・オブ・ザ・リング』3作のように過去の受賞例がその事実を証明するが、『アルマゲドン』がノミネートされながら、『奇蹟の輝き』が受賞するなど、一般的な人気ではなく同業者の投票ならではの意外な結果が出るケースもかなり目立つ。『奇蹟の輝き』は、主人公が向かった天国の風景が、油絵のようなタッチのCGで描かれ、斬新だった。

今年の視覚効果賞に、『ゴジラ-1.0』とともにノミネートされた作品を、製作費とともに並べると…

ザ・クリエイター/創造者』 8000万ドル(120億円

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』 2億5000万ドル(375億円

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』 2億9100万ドル(436億円

ナポレオン』 2億ドル(300億円

※1ドル=150円で換算

『ゴジラ-1.0』は15億円と言われている。製作費がケタ違いにもかかわらず、他の大作に引けを取らない映像が完成されたことに、ハリウッドからも称賛が上がっているのも事実。そのためだろうか、アカデミー賞ノミネート発表のライブ中継では、「ゴジラ」のタイトルが読み上げられた際、他の作品よりも会場の歓声が大きかった。

アカデミー賞は同業者による投票なので、こうした製作費のハンデも追い風になる。一方で、純粋に革新的な映像表現とその成功となると、AIが人間と共存する世界を大胆なビジュアルで描いた『ザ・クリエイター』(こちらも他作に比べれば低予算)、大作ならではのスケール感では『ミッション:インポッシブル』が強力とも感じられ、この視覚効果賞部門は最後まで予想がつきにくい楽しみがありそう。『オッペンハイマー』がノミネートから漏れたことで、なおさら混沌としている。

『ザ・クリエイター/創造者』(C)2023 20th Century Studios
『ザ・クリエイター/創造者』(C)2023 20th Century Studios

通常、アカデミー賞に向けて重要なのが、それに先立つ各組合(監督、俳優だけでなく各部門に存在する)の賞で、視覚効果にも組合の賞(Visual Effects Society Awards/VES)が存在する。ただ、このVESは映画も細かく部門が分かれており、『ゴジラ-1.0』はアニメーションキャラクター賞(実写)部門にノミネートされている。メインとなる実写視覚効果賞部門ノミネート5作で、アカデミー賞と重なっているのは『ザ・クリエイター』と『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の2作のみ。この5作には『オッペンハイマー』も入っているが、『ゴジラ』は入っていない。昨年は同賞受賞の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』がそのままアカデミー賞でも受賞した。『ゴジラ』としては、ここでアニメーションキャラクター賞を受賞しておきたいところ。同賞の発表は、2/21(現地時間)なので、ぜひ気にしておいてほしい。アカデミー賞の投票締切は、その後の2/27。

また、こちらのVegas Insiderのようないくつかのサイトでは、アカデミー賞に向けてベット(賭け)も行われているので、受賞の予想の参考となる。

第96回アカデミー賞授賞式は、現地時間の3/10(日本時間は3/11午前)。今年は日本作品が3本ノミネート。さらに日本出身のカズ・ヒロ氏もメイクアップ&ヘア・スタイリング賞にノミネートされ(受賞の確率も高い)、例年以上に日本でも注目が集まる。『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督は、同作のVFXスタッフとしてノミネートされたので授賞式に出席するはずで、もし受賞となれば、映画界最大の祭典の晴れのステージで、どんなスピーチをするのか。受賞の可能性も低くはないので、今から期待を高めておきたい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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