なぜアメリカ人は靴を脱がない? 航空機内など「米国でしない方が良いこと」
TikTokである動画がバズったとして米メディアが報じ、物議を醸している。
この動画がバズった理由は、リプライを見る限り毛深い上に多指症ということや独特のカメラワークがあるようだが、筆者にとって別の要素が奇妙に映った。それは「素足が前の座席の下にベタッと置かれていること」。
北米の文化では、公共の場で裸足を晒すことは「気持ち悪い!」と忌み嫌われることがあり、この動画のイメージは足の裏の菌を金属部分に「擦りつけている」ように見える。
皆さんも映画などを通じてわかる通り、一般的なアメリカ人は室内(家の中や公共の場)で「靴を脱がない」し、滅多に人前で「素足を晒さない」。航空機内であっても同様だ。
海が近い地域などでは、つま先が空いたサンダルやビーチサンダルが普及しているが、そのような種類の履物では高級店に入れなかったり、ビジネスの場で適合しなかったりする。
なぜアメリカ人は人前で靴を脱がないのか、以下で詳しく説明する。
コロナ禍で広まったニューノーマル。多様化する生活習慣
アメリカ人は伝統的に、室内では靴を履いたまま生活をする。自宅の玄関には、日本にあるような靴を脱ぐための一段下がったスペースは設けられていない。しかし一般的な住居の入り口スペースは日本の玄関より広く、ドア付近には大抵、土落とし用のマットが置かれてある。そこで靴の底をゴシゴシ擦りつけ、土や汚れを落としてから入室する。
しかし文化や生活習慣の多様化と共に、最近は家の中で靴を脱ぐ家庭も徐々に増えてきた。土足禁止の家は主に都市部で、移民や外国人などさまざまな価値観を持つ人が集まっている。「土禁」にする人が増えているのはそういう理由もある。
室内を土禁にすべきか否かについては、アメリカではしばしば議論の俎上に載せられる。ニューヨークタイムズ(以下)によると、花粉アレルギーのある人やハイハイをする乳児がいる家庭では、室内で靴を脱ぐ習慣がさらに広がった。靴底についた細菌による影響についてそれほど神経質になる必要はないが、それでもコロナ禍で靴を脱ぐ人は増えたという。
ニューヨークに今でも多く残る1世紀以上前の古い建物では、靴で歩き回ると階下に響き迷惑だからという理由で、靴を脱ぐ生活を始める人もいる。
ちなみにアメリカでも地域によって生活習慣は異なる。ハワイに住む友人によると、ハワイでは衛生上の理由で靴を脱ぐ習慣が浸透しているという。「日系人が持ち込んだ習慣が取り入れられている」と教えてもらった。
靴を脱ぐ習慣は、世界的に見ると日本をはじめ、中東やヨーロッパの一部などである。冒頭の動画を報じたニューヨークポストは、「室内で靴を脱ぐことはアジア全域、そしてロシアからエチオピアに至るまでの国々で一般的な習慣。そこでは履き物を脱ぐことを清潔さと敬意の表れと考えられている」と述べている。
つまるところ、人種の坩堝の米都市部では、靴を脱ぐ家庭、靴を履いたままの家庭とさまざまな習慣が混在している。それでもやはり筆者の周りを見渡せば、室内を土禁にしていない人は実際に多く、この文化は根強いと感じる。
訪問する際はその家庭のルールを尊重
他人の家を訪問する際に靴を脱ぐか脱がないかについては、前述のニューヨークタイムズの記事で「訪問する家庭のルールを尊重することが大切」と述べられている。
筆者の経験として、例えば日本人である私がゲストを招く場合、ゲストには当然靴を脱いでもらう。ややこしいのはたまにやって来る修理工だ。彼らは大抵、靴を履いたままズカズカと家の中に入ってくる。ただし「靴を脱いでもらえないか?」とお願いすると快く応じてくれる(言うのが面倒なので言わないこともあるが)。
自宅で靴を脱いで生活する人がパーティーを開き、そこにゲストとして行く場合は、「靴は脱いでも脱がなくてもどちらでも良いですよ」と言われることが多い。この場合、一般的なアメリカの生活習慣=室内は土足、だから土禁をゲストに強要しないという心配りから。そのようなケースでは、ゲストはその意思を尊重し、靴を脱いだり脱がなかったりさまざまだ。
アメリカ人はなぜ室内で靴を脱ぎたがらないのか?
土足文化がある背景を調べると、地域の気候や環境が関与しているようだ。世界の中で、例えば寒冷地では床暖房が浸透し、足元の暖かい状態を保つために靴を脱がないという。カナダを含む北米は広大な敷地に大きな住居が建てられ、玄関スペースも広いため、室内に汚れを持ち込むことが少ないので、靴を脱ぐ習慣は一般的でないとされる(そんな彼らも1日中ずっと外から帰って来たままの靴を履いて生活をしているのかと言えば案外そうでもなく、室内履きに履き替えたりしているのだが)。
そのような理由以外にも、多くのアメリカ人にとってさらけ出された裸足が「奇妙」「ゾッとするイメージ」に映っているのだなと感じた経験はいくつかある。
筆者は以前、日本からやって来たゲストがマンハッタンの中心地で休憩中に素足になり、また周りの反応を見て、そのように感じた。サンダルや草履を履いている状態と何も履いていない素足では、公に晒されることで人々に与える衝撃度はまったく異なる。
中には例外もある。「健康のために常に裸足で歩いている」というポリシーのアメリカ人に以前会ったことがあるが、足の裏は真っ黒に汚れていた。おそらくこの人は、入店拒否される場所が多いことだろう。
素足を忌み嫌うものとして、以前こんなこともあった。公共図書館の勉強室に座っていた時、隣のアジア系の女性が靴の先を半分脱いでブラブラさせたり足の裏をペタッと壁に当てたりしていた。そうしたら監視員が目くじらを立て「きちんと靴を履くように」と、何度も注意にやって来た。それを見て、アメリカの公共の場ではTPOに応じて、靴をきちんと履くことが求められるのだと改めて思った。当然、高級レストランにハイヒールを履いて行っても、食事中につま先でブラブラさせることはマナー違反と見なされる。
Q&Aのコミュニティサイト、クオーラ(Quora)には、「なぜアメリカ文化では、公共の場で裸足になることが奇妙に思われるのか?」という項目があり、このように書かれている。
裸足のイメージとは...
- 貧困や精神疾患と結びつく(貧困国で専用シューズを買うお金のないサッカー少年が素足でボールを蹴っているイメージなど)
- 汚い、不潔(足の裏の菌や匂いを移す&ほかからもらう両方の意味。よって日本によくある誰が履いたかわからない屋内スリッパなど履きたがらない)
- 醜い
- 怠け者、だらしない
- ヒルビリーやヒッピーを連想させ奇妙
- 失礼、無礼、非紳士的、非女性的
- 晒された状態ではプロテクション(ガード)がないため怪我をしやすく危険
など(あくまでも一般の人の意見)。
「もちろん上記のどれも真実ではない」と補足で書かれているが、一般的にはこのようなイメージが人々に植え付けられているということなのだろう。
筆者の経験でも、きちんと磨かれた高級靴を履いていることは「成功の証」と捉えられることが多々あると感じる。街中にある靴磨き屋に、ビジネスマンがランチタイムに革靴を磨きに行く。伝統的な職種(政治系、金融系、法律系など)において、素足にハイヒール姿の女性を見ることはあっても、(カジュアルなシーン以外で)裸足に革靴を履いている男性を見ることはない。
タイム誌は、Put Your Shoes Back On. Here's the Problem With Going Barefoot(靴を履いて。裸足になると発生するこれらの問題)という記事を発信している。この記事でも靴は「地面の鋭利な物、害虫、熱、目に見えない細菌などさまざまな脅威から足を保護する」として、必要なものと書かれている。
航空機内など「米国でしない方が良いこと」
閑話休題。室内の話から、冒頭の航空機内の話に戻るとする。
日米間の渡航で日系の航空会社の飛行機に搭乗すると、長時間の飛行時間への配慮から簡易スリッパを配布されることがある。そういう時に筆者は周りを観察していて気づいたことがあった。それは大抵靴からスリッパに履き替えるのは日本人だけで、アメリカ人と思われる人たちのほとんどは、そのようなスリッパに履き替えないということ。理由を聞いたことがあるが、靴を脱ぐのが面倒という理由のほかに、アメリカでは人前で裸足にならない習慣があるからと言った人もいた。匂いや足の指の形を晒すことに違和感がある人もいるようだ。
冒頭で触れた、SNSでバズった人がなぜ裸足になったのかについて憶測が飛んでいる。前述のニューヨークポストの記事では、旅行ブロガーの声として「航空機に数百ドル払ったのだから、飛行機内では何をしてもいいと感じているのではないか」と述べた。
しかし多くの人が航空機内で靴を脱がない(素足を晒さない)理由として、航空専門家の意見を交えてこのように書かれている。
「脱いだ靴が乱雑に置かれて通路にはみ出すこともある。また緊急時に靴を履かずに移動しなければならないリスクがあるため危険を伴う可能性があるから」
「飛行中にもっとも危険になりうる離陸時と着陸時は、靴を履いたままにしておくべきだ」
日本人であれば、通路の迷惑になるほど脱いだ靴を乱雑に置く人はいないだろうが、飛行中にスリッパではなくきちんとした靴を履いたままが良い理由は、確かに理にかなっているような気がする。
(Text and some photo by Kasumi Abe)本記事の無断転載やAI学習への利用禁止