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『呪術廻戦』で、五条先生が放った虚式「茈」は、どれほどすごいワザなのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『呪術廻戦』でモーレツに気になるのは、もちろん五条悟先生だ。

自他ともに認める最強の呪術師。東京都立呪術高等専門学校の教師を務め、普段はサングラスやネックウォーマーで目を覆っているが、それは五条先生が「六眼(りくがん)」の持ち主だから。六眼とは、呪力や術式が詳細に見える特殊な目らしく、目を隠していないと、さまざまな情報が流れ込んで、疲労する(らしい)。能力が高すぎる!

「渋谷事変」では、特級呪霊・漏瑚(じょうご)に「貴様は何を持ち得ないのだ!!」と言わしめ、特級呪霊・真人が作り出した人造人間およそ1000体を299秒で倒した。1秒に3.34体というモノスゴさ! 

五条悟が消えれば呪術界も人間社会もひっくり返り、五条悟が生まれたことによって、世界の均衡が変わったという! どれだけオソロシイ人なのでしょーか。

この五条先生が放ったワザのうち、ここでは虚式「茈(むらさき)」について考えたい。

これは、特級呪霊・花御(はなみ)との戦いで見せたもので、地層が見えるほど深々と地面をえぐった。信じがたい威力だが、どうすればそんなコトができるのか?

◆「茈」の破壊力がすごすぎる!

『呪術廻戦』では「呪術」などについて、しばしばていねいな解説がなされ、これがヒジョ~に楽しい。

たとえば、この世界には「呪力」と「術式」があって、五条先生は呪力を「電気」に、術式を「家電」にたとえて説明していた。ここから考えると、呪力はエネルギーに近いのかもしれない。

無限の空間に相手や周囲のものを引きずり込むのが、術式順転「蒼(あお)」。相手をはね飛ばすのが、術式反転「赫(あか)」。この2つを組み合わせたのが、虚式「茈」だ。

先生はこのワザについて「順転と反転 それぞれの無限を衝突させることで生成される 仮想の質量を押し出す」と説明した。

実際に「茈」は驚異的なワザだった。

高専が多数の呪霊に襲われ、特級呪霊・花御が虎杖悠仁(いたどりゆうじ)たちを攻撃しようとしたとき、はるか上空に先生が現れる。このヒト、空も飛べるのだ。目隠しはあごの下に下ろされていて、本気モードである。

先生は、まず別の場所で暴れていた呪霊を拘束。その場から花御を見て「残るは特級か アレも逃げが上手い 悠仁の所まで距離があるな 仕方ない」「少し乱暴しようか」と、術式順転「蒼」と術式反転「赫」の構えに入った。

それに対して呪霊・花御は「五条悟を相手にする程 傲っていない」と逃げようとしていた。なんと五条先生は、その姿を見ただけで特級呪霊が逃げ出すほどに恐れられているのだ。

直後、虚式「茈」が放たれる。何かが炸裂し、ドドドドドと轟音が鳴り響いたかと思うと、悠仁の眼前に「巨大な溝」ができていた!

マンガのコマで計ると、その巨大な溝の幅は12mほど。断面は半円形と見られ、すると深さは6mだ。

長さは不明だが、先生は「悠仁の所まで距離があるな」と言っていたから、その溝が先生の足元から始まっているとしたら、全長1kmはあるのではないだろうか。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

「茈」の原理から考えると、先生は、仮想とはいえ質量のあるものを押し出して、この巨大な溝を作ったことになる。

地層がハッキリ見えているから、その「質量のあるもの」は、地面を溶かしたのではなく、削り取ったのだろう。その場合、削り取った岩石の重量は31万tになる。

岩石を破壊するには、1kgあたり100Jのエネルギーが必要だ。31万tなら310億J。TNT爆薬で同じことをやるには7.7tが要る。

筆者が気になるのは、31万tもの岩石がどこへ行ったのかということだ。

近くに落下して、近隣に被害をもたらしても不思議はないが、どうやらそんな様子もない。消えてしまったのだろうか?

だとしたら、空気との衝突で熱が発生し、蒸発してしまった……のかもしれない。

その場合、31万tの岩石は、二酸化ケイ素(多くの岩石の主成分がこれ)が蒸発する2230度まで温度が上昇したはずで、そこまで加熱される速度とはマッハ7。

つまり「茈」のエネルギーが、31万tもの岩石を、マッハ7で吹き飛ばしたのだと思われる。

これに必要なエネルギーは、877兆J=TNT爆薬22万t分。

五条先生にとっては、これが「少し乱暴」というのだから、なんとオソロシイ人なのか。

◆「威力が2.5乗」とは?

五条先生はなぜ、これだけのエネルギーに匹敵する呪力を出せるのだろう?

ヒントは「黒閃(こくせん)」にあるのではないかと、筆者はニラんでいる。

呪術師たちは、パンチにも呪力を込めるが、打撃と呪力の当たる誤差が0.000001秒以内なら、空間が歪み、威力は通常の2.5乗になるという。これが「黒閃」で、使える呪術師はわずかしかいない。

気になるのは、2.5乗である。

一例を挙げると、5の2.5乗は55.9だが、「威力が2.5乗になる」というのは、数学的には不可解な話。たとえば、正方形の面積は「一辺×一辺」だから「一辺の2乗」ということもできる。このように「長さ」を2乗すると、「長さ」とはまったく別の「面積」になる。

したがって「威力」を2.5乗すると、何か別のものに変わりそうな気がするのだが……。このあたり、筆者にはちょっとわかりません。

とはいえ、それは現実の数学の話である。呪力の場合は、2.5乗しても呪力なのかもしれない。

その場合、どうなるか?

2.5乗した結果が「877兆Jに相当する呪力」になるのなら、もともとの呪力は、95万Jに相当するはずだ。これは227kcalで、なんと120gのおにぎり1.06個分。

これはホントにオソロシイ。五条先生は、黒閃を応用して、おにぎり1個分のエネルギーで巨大な溝を作ったのかもしれないのだ……!

すごい。呪霊が気の毒になるほどすごい五条悟先生である。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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