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美人客室乗務員のレイプ殺人も 〜中国発!シェア経済の実態(番外編)

宮崎紀秀ジャーナリスト
21歳の客室乗務員の殺害事件を報じる中国の新聞。犯人は白タクのドライバーだった

 シェア経済大国となった中国で、シェアビジネスに絡む殺人事件が起きた。

 「中国発!シェア経済の実態」の3回に亘るレポートでは取り上げなかったが、中国で成功例とみなされているシェアビジネスの1つに配車アプリがある。

配車アプリ「滴滴」は中国版Uber

 配車アプリといえば世界的にはアメリカ発のUberが知られ、日本人にも馴染みが深い。しかし中国では圧倒的な強さを誇るのが、中国版Uberと称される「滴滴出行(以下、滴滴)」である。

 アプリは使い易い。スマホ上でアプリを開き、出発地点と行き先を打ち込む。すると近くにいる車が配車され、その車の運転手の姓や電話番号、車のナンバーが表示される。車が到着するまでのおおよその時間なども表示される。

 この「滴滴」は、タクシー以外にも、正規の職業ドライバーのものではない車も配車している。言わば白タクである。その中には、白タクを生業としているドライバー以外に、会社勤めなどの正業を持ちながら、仕事終わりや休日に自家用車で小遣い稼ぎをする「パートタイムドライバー」も多い。

「滴滴」のアプリ。近くにいる車が表示される
「滴滴」のアプリ。近くにいる車が表示される

配車アプリが無いとタクシーはとまってくれない?

 最近、北京市内では、「空車」で走っている流しのタクシーを拾おうと手を挙げても、通り過ぎられることが多い。フロントガラス越しのドライバーがしかめ面をして、イヤイヤをするように手を振ったりする様子が見えると、不当に乗車拒否にあったような不快な気持ちになるが、このほとんどは、配車アプリを通じてすでに乗客を見つけた車である。ドライバーにとっては、ワンメーターで降りるかもしれない乗客を拾うリスクを冒すよりは、あらかじめ乗車区間が分かって距離の見込める客を乗せた方が得、という心理も働くだろう。だったらせめて「空車」の表示を消して走ってくれれば良いとは思うのだが。

 北京を始め、中国の多くの都市では、公共交通機関を使って行ける場所には限りがある。そのため、タクシーは日常的に使われる重要な足である。そのタクシーが、配車アプリを使わないとつかまらないという事態が生じつつあるほど、配車アプリが普及した。今や、それを使いこなすのは、便利さの追求という段階を超え、中国で生活する上の必需品とまで言える。

流しのタクシーがなかなかつかまらない(北京にて)
流しのタクシーがなかなかつかまらない(北京にて)

女性は白タクが好み?

 先にも述べたが、「滴滴」はタクシーも白タクも配車している。どちらを呼ぶかは、乗客の側がアプリ上で選択できる。タクシーは車も古く車内が汚れているのに比べ、白タクは、ドライバーが自家用車を使っているだけに、車も新しく清潔なことが多い。日本では、抵抗感の強い白タクだが、中国では、特に女性はタクシーよりもこの白タクを好む人も多い。

 そんな中で起きたのが、今回の事件である。中国の報道によれば、事件の概要は以下である。

 今年5月8日朝、河南省鄭州の空港近く、道路脇の空き地で、下半身がむき出しになった女性の変死体が発見された。遺体には10数箇所の刺された跡があり、性的暴行の痕跡もあった。

白タクのドライバーに惨殺された21歳のCA

 被害者は、格安航空会社の1つ祥鵬航空の客室乗務員の女性(21歳)だった。女性はこの3日前の5月5日の深夜、航空会社が用意したホテルから鄭州市内にある実家に戻り、翌日には友人の結婚式に参加する予定だったという。女性が、ホテルを後にするときに乗ったのが、配車アプリ「滴滴」を使って呼んだ白タクだった。しかしその夜、両親のもとに一人娘は戻っていなかった。 

 警察が容疑者として特定したのが、女性が「滴滴」を通じて呼んだ白タクのドライバーの男(27歳)だった。

 しかし、男は事件発覚から数日後、水死体で発見される。警察は監視カメラの映像などから、男が女性を殺害後、川に飛び込み自殺を図ったと断定した。

容疑者の虚偽登録を見落としたアプリ会社

 白タクとはいえ、「滴滴」はアプリを通じて配車するドライバーや車を審査した上で、登録を許可している。実は、男は過去に交通事故の履歴があったため、父親の免許証を使って「滴滴」に登録していたことが分かった。さらに男はうつ病を患っていたともされる。「滴滴」はそれらを見落としていた。

 「滴滴」は、事件の責任は避けられないと認め、被害者と遺族に対して謝罪するとともに、同様の事件の再発防止を徹底する旨の声明を発表している。

 中国メディアが報じた写真に写っている生前の被害者は、客室乗務員の制服に身を包み、にっこり微笑んでいる。赤い口紅がよく映える色白の女性である。父親によれば、客室乗務員になるのが娘の夢だった、という。

事件が注意喚起のきっかけに

 客室乗務員は中国でも憧れの職業の1つである。羨望の的にあった女性が被害者となったことから、事件は、連日報じられた。同時に、配車アプリを利用する潜在的な危険性についても、今更ながら注意喚起された。ドライバーによるセクハラ、強盗、私自身も何度か経験したが、アプリ上で表示された車と違うナンバープレートをつけた車がやって来るという問題も頻発している。

若い女性が配車アプリで呼んだ車に乗るのは日常的な光景(北京にて)
若い女性が配車アプリで呼んだ車に乗るのは日常的な光景(北京にて)

「(不特定多数の客を対象にし、営利を得ている企業は)その商品の用途や機能に思いもよらない危険性が潜んでいないかを、考えなくてはいけません」

 そう強調するのは、シェアビジネスの取材を通じて知り合った張黔林弁護士(44歳)である。張氏は、シェア自転車に乗って事故にあった少年の遺族の代理人をつとめる。

 中国の技術の進歩や社会の変化の速さには、目を見張るものがある。同時に、急変化という熱病に罹り、浮き足立ってさえいるかのような社会には、今回のような事件が起きて、初めて、管理、監督、法律などの不備に気づくという側面が同居する。皆が一斉に新しいモノに飛びつき、あっという間に広がる気質は、確かに活気を生む。一方で、日本で報じられることはまれかもしれないが、その負の側面が引き起す問題や事件も、度々起きている。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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