イージスアショア用の新型レーダー候補、SPY-6とSSRの選定舞台裏を推察
2023年配備予定のイージスアショアに搭載するレーダーは従来型のSPY-1ではなく、新型のレイセオンSPY-6とロッキード・マーティンSSRが候補に挙がっています。どちらも現時点では完成していませんが、開発状況は以下のような違いがあります。
- レイセオンSPY-6・・・SPY-1の後継として開発されたイージス艦用レーダー。2022年から就役し始めるアーレイ・バーク級フライト3への搭載が予定されている。
- ロッキード・マーティンSSR・・・2020年にアラスカ配備予定の早期警戒レーダーLRDRを元に、レーダーパネルを小型化しイージス・システムと連結したもの。
両者を比較すると「レーダーそのものはSSRが開発に先行している」「戦闘システムとしてはSPY-6が開発に先行している」という差があります。SSRはLRDRとイージスを連結したものですがシステム結合作業はつい最近始まったばかりです。なお昨年の段階でSSRは開発計画が知られておらず、日本側はSPY-6を購入する希望をアメリカ側に伝えていました。しかし2022年に実戦配備するイージス艦用の新型レーダーを僅か1年後に同盟国に渡すことに難色を示され、断られる可能性が出ていました。2017年8月30日にロイターが伝えたところによると、海軍は問題ないとしたもののミサイル防衛局が良い顔をしていなかったのです。
そして年が明けた2018年1月、ロッキード・マーティン社が突如としてイージスアショア用レーダーSSRを発表、日本を名指しして売り込みを始めました。
LOCKHEED MARTIN DEMONSTRATES NEXT GENERATION AEGIS ASHORE SOLUTION
つまりSSRはSPY-6を日本に供与したくないアメリカ側の意向で、代わりに引き渡せる新型レーダーを用意したものと受け止めることが出来ます。そしてこれはSPY-6よりSSRの方が開発に先行していることを意味しません。戦闘システム、完成品として見た場合はSPY-6の方が明らかに開発が進んでいます。しかしSSRに使われているレーダー技術はLRDRと同一であり、こちらは「同盟国に引き渡してよい正式採用年のレーダー技術」と理解することが出来ます。
SPY-6とSSRの詳細な仕様は公表されていないので確かな事は言えませんが、能力的にはほぼ同年代で同様の技術を用いており、レーダーパネルのサイズが同じなら探知距離は似たような性能を発揮できるでしょう。だからアメリカ側は高性能なレーダーを日本に渡したくないという動機ではなく、予定されている正式採用年を気にしている事務的な態度のようにも見えてしまいます。
日本側としては2023年までに急いでイージスアショアを配備するのでなければ、数年待てばSPY-6を供与される事が期待できます。しかし数年とて計画は遅延したくない、配備を急がなければならないとした場合はSSRを選択することになります。ただし、もしSSRのイージス・システム連結作業が遅延した場合のリスクを背負うことになります。
なおイージスアショアの当初見積もり費用2基2000億円は従来型のSPY-1レーダーで算定されているので、新型レーダーを選択した場合はより高額なものになるでしょう。
(2018年7月4日23時42分最終更新)