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アトレティコが抱える深刻な問題。シメオネイズムの揺らぎ。

森田泰史スポーツライター
トーマスとシメオネ監督(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

チャンピオンズリーグのベスト16でユヴェントスに敗れた傷は、まだ癒えそうにない。

7日にリーガエスパニョーラ第31節が行われ、アトレティコ・マドリーは敵地カンプ・ノウでバルセロナに0-2と敗れた。前半28分にジエゴ・コスタが退場するという厳しい展開で、ルイス・スアレスとリオネル・メッシの決定力を前に崩れ去り、アトレティコの優勝の可能性はほとんど消滅した。

■シメオネのプラン

ボールではなく、空間を支配する。それがディエゴ・シメオネ監督の戦い方だ。

ただ、今季のアトレティコは、中盤が肝だった。コケ、ロドリ・エルナンデス、サウール・ニゲス、トーマス・パーティーを軸に、セントラルハーフ型の選手を巧みに使い、戦術に多様性がもたらされた。クアトリボーテ(4人のボランチ)への期待は高まっていった。

アルダ・トゥランが2015年夏に退団して以降、シメオネ監督はサイドアタッカーの起用に腐心してきた。コケのサイドハーフ起用で、一時は解決策を見いだしたかに思えた。だが、チアゴ・メンデスの負傷離脱と退団で、コケをボランチにせざるを得なくなった。その起用法では、守備で脆さを露呈する。また、コケのアシスト数は15-16シーズン(公式戦17アシスト)、16-17シーズン(10アシスト)、17-18シーズン(7アシスト)と、年々減っていった。

そして、クアトリボーテは、その解決策になるはずだった。

この夏のロドリの加入で、安定感は増した。サウールあるいはトーマスをボランチに据え、コケを左MFに配置する。コケが偽ボランチになり、加えてフィリペ・ルイスが中盤に上がってビルドアップに参加する。これが縦型ボランチの機能性を高め、ポゼッション率増加につながった。先のバルセロナ戦では、ジエゴ・コスタが退場するまでアトレティコ(53%)はポゼッション率でバルセロナ(47%)を上回っていた。

■矛盾

しかしながら、それはある種のパラドックスを孕んでいた。

ユヴェントス戦のファーストレグでは、クアトリボーテが見事なパフォーマンスを見せた。MFラインに一列に並んだコケ、ロドリ、トーマス、サウールが躍動して中盤の構成力と回収力で勝利を引き寄せた。

そして迎えた、ユヴェントス戦のセカンドレグ。中盤の回収力を高めることが、勝利に繋がるはずだった。しかし、トーマスを出場停止で欠き、クアトリボーテが使えなくなると、シメオネ監督はそれ以外の策を持っていなかった。

ホセ・ヒメネスをアンカーに起用するという案が、シメオネ監督からは出てこなかった。ヒメネスをアンカーに据えて、4-1-4-1を形成すれば、中盤の回収力は高まり、ロングボールへの対応としても抜群の効果を発揮していただろう。ステファン・サビッチがベンチスタートだった事実を顧みれば、この戦術がオプションとしてあるべきだった。

対して、ユヴェントスのマッシミリアーノ・アッレグリ監督は強(したた)かだった。エムレ・ジャン、ミラレム・ピアニッチ、フェデリコ・ベルナルデスキに中盤を蹂躙され、フアンフランが左SBに入った左サイドを崩された。その対応に追われている間に、逆サイドでジョルジョ・キエッリーニが高い位置でビルドアップに参加してくる。アトレティコは完全に後手を踏んでいた。

■揺らぐ信念

もとより、ポゼッション型のチームではない。今季のチャンピオンズリーグにおける、アトレティコの1試合平均ポゼッション率は48.7%だ。

ただ、8試合中5試合で、ポゼッション率で相手を上回った。先のバルセロナ戦を含め、この辺りの数字が今季のアトレティコの矛盾を象徴している。

クアトリボーテに賭けた事が、逆に本来の特徴を殺してしまった。

無論、その裏にはある事情があった。今季、アトレティコの選手が筋肉系の負傷で離脱を強いられた回数は40回を超える。これでは、思い通りにチーム作りが進むはずはない。

一方で、アトレティコはこれまで1-0の勝利を拠り所としてきた。だが、ユヴェントス戦では2点差をひっくり返された。この現実からは目を背けられない。

シメオネイズム(シメオネ主義)の揺らぎーー。放置できない課題が、クラブと指揮官の眼前に横たわる。それは、タイトルを逃す以上に、大きな問題としてアトレティコに襲い掛かっている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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