相続がガラッと変わる!2019 vol.2~残された配偶者の居住権を保護する権利の創設
今回は、改正の目玉でもある、「配偶者の居住権を保護する権利の創設」について取り上げます。
たとえば、夫が所有していた建物に居住していた妻は、夫死亡後の遺産分割の内容によっては引き続き住めなくなる可能性があります。また、妻がその建物(自宅)を引き継いだとしても、遺産に占める自宅の割合が高ければ、その他の金融資産等の遺産を引き継ぐ割合が低くなってしまいます。そうなると、生活費が乏しくなってしまって夫亡き後の人生に支障を来すこともあります。
そこで、生存配偶者の居住権を確保し、なおかつ生活費に困らないようにするために創設したのが、配偶者の居住権を短期的に保護するための方策である「配偶者短期居住権」と配偶者の居住を長期的に保護するための方策である「配偶者居住権」の二つの権利です。
この権利によって、夫が所有していた建物に住んでいた妻は、夫の死後もその建物、つまり自宅に住むことができて、なおかつ遺産分割で生活費の確保をしやすくなります。
なお、改正相続法の原則的な施行期日は2019年7月1日ですが、配偶者の居住権を保護する権利に関する施行期日は、2020年4月1日となります。
では、配偶者短期居住権と配偶者居住権についてそれぞれご説明します。
配偶者短期居住権(施行期日2020年4月1日)
配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に無償で居住していた場合に、その居住していた建物(居住建物)に一定期間(注1)、引き続き無償で居住建物に住み続ける権利を創設しました。この権利のことを、「配偶者短期居住権」といいます。
残された配偶者が被相続人の建物に居住していた場合には、配偶者短期居住権によって、被相続人が居住建物を遺贈(注2)した場合や、反対の意思を表示した場合であっても、配偶者の居住を保護することができます。他に、残された配偶者は常に最低6か月間は居住の利益を保護されることになります。
(注1)遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間
(注2)遺贈とは、遺言によって自らの財産を無償で他人に与える行為をいう。遺贈によって利益を受ける者を受遺者という。
配偶者居住権(施行期日2020年4月1日)
遺産分割における選択肢の一つとして、配偶者に相続開始時に居住建物を対象として、所有権とは別に、終身または一定期間、その使用収益を認める権利を創設しました。この権利のことを、「配偶者居住権」といいます。
配偶者居住権は、権利を取得した配偶者が居住建物に住み続けることができる権利ですが、完全な所有権とは異なり、譲渡することや自由に増改築や第三者に貸したりすることができない分、評価額は所有権より低く抑えることができます。このため、配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金等の他の遺産も取得できるようになり、老後の生活の安定を図ることができます。なお、被相続人は遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。
このように、残された配偶者は、配偶者短期居住権と配偶者居住権によって住居と生活費を確保しやすくなり、生活の安定を図りやすくなります。
一般に、遺産に占める居住建物(自宅)の占める割合は高くなります。したがって、この二つの権利によって、相続の姿は大きく変わることになります。
特に、親が自宅を所有している方は、配偶者短期居住権と配偶者居住権について、しっかり押さえておきましょう。
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