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広島ドラフト5位 河野佳(大阪ガス)はこんな選手

楊順行スポーツライター

 今季の河野佳は、ちょっと物足りない。7月の都市対抗では、JR東日本との初戦に先発しながら、5回途中5失点でKOだ。近畿2次予選では、4試合に先発して防御率1.04と抜群だったから、ドラフト解禁の今季、その時点では文句なしの上位候補だった。なにか異変があったのかもしれない。

 それはともかく、広陵高校を卒業して2年目の昨年がすごかった。大阪ガスが優勝した7月の日本選手権では、初戦の日本製鉄東海REX戦を5安打完封するなど、4試合19回を投げて無失点。最高殊勲選手賞。都市対抗近畿2次予選でも、先発した2試合、15回3分の2を2失点で、2021年の公式戦合計では50回弱で3失点、防御率は0点台中盤という大エースだった。

 小柄ながら、最速150キロのストレートと2種類のスライダー、フォークボールなどを織り交ぜる。効果的だったのが、昨年「初めて試合で投げた」カットボールだ。「曲がり幅の大きいスライダーは、社会人のレベルでは打たれてしまうので」手にした新たな武器が、おもしろいように決まった。もし、プロ解禁の今季に21年のような成績を残していれば、間違いなく上位指名で消えていただろう。

高校時代、2度も投手をクビになった?

 思い出すのは19年のセンバツ、八戸学院光星(青森)との1回戦だ。初回、先頭打者を三振に取ったストレートが、当時の自己最速を2キロ更新する150キロをマーク。ただそれ以降は「7割の力で制球を重視」しながらのクレバーな投球を見せる。8回、2死二、三塁のピンチだけはギアを上げ、三番・武岡龍世(現ヤクルト)を「自信のある直球で勝負」でショートへの小フライに抑えて、結果、3安打完封である。

 実は高校時代、「一度、ピッチャーをクビになっているんです」と、広陵の中井哲之監督に聞いた記憶がある。1年の冬に2カ月、2年の4月に2週間の2回。不調に陥って球速は120キロ台まで落ち、制球も定まらない。いっそ……と、野手転向を命じられたのだ。

「それでも、涙ながらにピッチャーをやりたいと訴えてきた。悔しいなら見返してみぃ、と復帰させると、わずか1年たたないうちに甲子園で完封するわけですから、クビにしようと思ったことを謝るしかないですね」

 と中井監督は笑う。

 その広陵から20年に大阪ガス入りすると、春のキャンプ時点から「いま、ウチのピッチャーで一番いい」と当時の橋口博一監督をうならせ、救援ながら都市対抗のマウンドを経験した。一躍ドラフト候補に躍り出た当時、河野は語っていたものだ。

「野球人生でまだ、全国優勝を経験したことがない。日本一になりたいです」

 入社3年間の全国大会では、いまだにそれを遂げていない。入団する前に、月末からの社会人野球・日本選手権を集大成にしたい。あるいは、故郷・広島に入団してそれを達成すればいいかもね。

■かわの・けい/2001年8月23日生まれ/兵庫県出身/176cm80kg/右投右打/広陵高

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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