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全日本卓球 男子ダブルス決勝 存在感際立つ ”現代卓球の神秘” 戸上隼輔の高速チキータ

伊藤条太卓球コラムニスト
チキータをする戸上隼輔[明治大](写真:森田直樹/アフロスポーツ)

29日に行われた、全日本卓球の男子ダブルス決勝は、宇田幸矢/戸上隼輔(明治大)が、張本智和/森薗政崇(木下グループ/BOBSON)をゲームカウント0-2の劣勢から逆転し、見事初優勝に輝いた。

1、2ゲーム目は接戦で落としたが、宇田、戸上ともに競った場面でもひるまずにフルスイングし続けたのが後半の爆発力につながった。それを可能にする体力も勝利の鍵だったと言える。

この決勝を見てあらためて感じさせられたのは、男子ダブルスにおけるチキータの重要性である。決勝を戦う4人が4人ともチキータを得意とする選手であり、横回転チキータ、遅いチキータ、速いチキータと自在に使い分けた。お互いにチキータをされることに慣れているため、それを外すためにあえてチキータをせずにツッツキ、ストップといった旧来のつなぎの打法で逆を突く戦術も多く見られたが、それらさえもが、チキータの存在を浮かび上がらせた。

チキータをする宇田幸矢[明治大]
チキータをする宇田幸矢[明治大]写真:森田直樹/アフロスポーツ

チキータをする張本智和[木下グループ]
チキータをする張本智和[木下グループ]写真:西村尚己/アフロスポーツ

チキータをする森薗政崇[BOBSON]
チキータをする森薗政崇[BOBSON]写真:西村尚己/アフロスポーツ

チキータは、それまでは不可能だった、卓球台の上の低く短いボールに強烈な前進回転をかけることを可能にした、卓球史上最大の技術革新だったと考えられる。

「チキータ」とは何か 卓球史上最大の技術革新

しかし、チキータは人体の構造上、バックハンドでしかできない。そのため、フォア側の端に来たボールに対してはよほど速く移動しないと難しいし、できたとしても次のボールを空いたバックに振られると間に合わなくなる。だからシングルスでは、チキータをしたくてもできない場面が出てくる(そういうサービスを「チキータ封じ」などと呼ぶ)。

ところがダブルスでは、相手のサービスはコート半面にしか来ないので、大きく動く必要がない。さらに、パートナーと交代で打つために、チキータをした後の戻りもシングルスよりは時間に余裕がある。こうした条件によって、まさにチキータし放題なのがダブルスなのだ。そのため、2010年頃に中国が攻撃的チキータを使い始めたのは、ダブルスで連発したのが最初だった。

女子では男子ほど威力のあるチキータを打つ選手は限られているが、男子ではとんでもない威力のチキータを打つ選手が多いため、ダブルスにおいては上位に食い込むための必須技術となる。それをあらためて確認させられた男子ダブルス決勝の面々だった。

チキータをする戸上隼輔[明治大]
チキータをする戸上隼輔[明治大]写真:西村尚己/アフロスポーツ

その中でも戸上のチキータは群を抜いて速く、ときおり見せる「あり得ない」スピードのチキータにしばしば相手は茫然と見送るほどだ。ネット際の低いボールをどうしたらあのスピードでネットを越して卓球台に落下させることができるというのか。激しい前進回転をかけて軌道を下に曲げているという理屈はわかる。しかしそんなスイングスピードが可能なのか。この目で見てさえも信じることはできない。

まさに”現代卓球の神秘”とさえ言いたくなる戸上隼輔の高速チキータ。明日30日の男子シングルス準決勝で、再びその神秘を堪能したい。

卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、一般企業にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、執筆、講演活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。NHK、日本テレビ、TBS等メディア出演多数。

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