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子供の肥満がアトピー性皮膚炎を引き起こす? 最新研究で明らかに

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【子供の肥満が増加中】アトピー性皮膚炎のリスクを高める原因と予防法

近年、子供の肥満が世界的に増加傾向にあります。日本でも、文部科学省の調査によると、肥満傾向児の割合は1980年の2倍以上に増加しているそうです。肥満は、生活習慣病のリスクを高めるだけでなく、皮膚の健康にも悪影響を及ぼすことが分かってきました。

韓国の研究チームが200万人以上の子供を対象に行った大規模調査によると、肥満の子供はアトピー性皮膚炎を発症するリスクが高いことが明らかになりました。4歳時点で肥満だった子供は、その後アトピー性皮膚炎を発症する可能性が高かったのです。一方、太り気味から標準体重に移行した子供では、アトピー性皮膚炎のリスクが低下したそうです。

この研究結果は、子供の肥満がアトピー性皮膚炎の発症に直接的な影響を与えている可能性を示唆しています。韓国だけでなく、世界各国で同様の傾向が報告されており、肥満とアトピー性皮膚炎の関連性は広く認識されつつあります。

日本でも、子供の肥満率が上昇する一方で、アトピー性皮膚炎の患者数が増加傾向にあります。厚生労働省の調査では、アトピー性皮膚炎の有病率は乳幼児で12.8%、小学生で11.8%と報告されています。肥満がアトピー性皮膚炎の発症リスクを高めるとすれば、子供の健康を守るためにも、肥満予防と体重管理が重要な課題となるでしょう。

【肥満がアトピー性皮膚炎を引き起こすメカニズム】皮膚バリア機能の低下が鍵

では、なぜ肥満がアトピー性皮膚炎のリスクを高めるのでしょうか?その理由はいくつか考えられます。

まず、肥満によって皮膚のバリア機能が低下することが挙げられます。皮下脂肪が増えると、皮膚が物理的に引き伸ばされ、微細な亀裂ができやすくなります。また、肥満ではコレステロールや中性脂肪が上昇しますが、動物実験ではこれらの脂質異常が皮膚バリアを乱すことが示されています。さらに、肥満により皮膚のセラミドが減少し、保湿力が低下することも皮膚バリアの破綻につながります。

健康な皮膚バリアは、外部からの刺激やアレルゲンの侵入を防ぐ重要な役割を果たしています。バリア機能が低下すると、アレルゲンが皮膚の深部へ侵入しやすくなり、炎症反応を引き起こします。アトピー性皮膚炎では、皮膚バリアの脆弱性が病態の中心的な要因と考えられており、肥満による皮膚バリアの低下は、アトピー性皮膚炎の発症や悪化に直結すると推測されます。

次に、肥満は慢性的な炎症状態を引き起こします。脂肪細胞からはTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインが過剰に分泌され、全身の炎症レベルが上昇します。炎症は皮膚のバリア機能をさらに低下させ、アトピー性皮膚炎を悪化させる悪循環を生み出します。

肥満による慢性炎症は、免疫系のバランスを乱すことでもアトピー性皮膚炎に影響を及ぼします。アトピー性皮膚炎では、Th2型の免疫反応が優位になることが知られていますが、肥満もまたTh2型の炎症を促進することが動物実験で示されています。肥満によるTh2型炎症の亢進が、アトピー性皮膚炎の病態形成に関与している可能性があります。

さらに、肥満は腸内細菌叢にも影響を与えます。肥満者の腸内では、特定の細菌種が増加し、腸管バリアの機能低下や炎症の促進につながることが報告されています。腸内細菌叢の乱れは、アレルギー疾患の発症リスクを高めることが知られており、アトピー性皮膚炎との関連性も注目されています。

肥満による皮膚バリアの低下は、アレルゲンや刺激物質の侵入を許し、アトピー性皮膚炎の発症や悪化につながると考えられます。また、肥満に伴う慢性炎症やTh2型免疫反応の亢進、腸内細菌叢の変化なども、アトピー性皮膚炎の病態形成に複合的に関与していると推測されます。肥満がアトピー性皮膚炎のリスクを高める詳細なメカニズムは、今後さらなる研究が必要ですが、肥満の予防と管理がアトピー性皮膚炎の新たな対策となる可能性が示唆されています。

【肥満予防と体重管理】アトピー性皮膚炎の新たな対策

アトピー性皮膚炎の治療には、ステロイド軟膏や保湿剤の使用、適切なスキンケアが欠かせませんが、本研究の結果は、肥満予防と体重管理もアトピー性皮膚炎対策として重要であることを示唆しています。

肥満予防のためには、バランスの取れた食事と適度な運動が基本です。規則正しい生活習慣の確立が子供の肥満予防に役立つとされています。また、間食や夜食を控え、野菜や果物を積極的に取り入れるなど、家庭での食習慣の見直しも大切です。

運動面では、子供が楽しく体を動かせる環境づくりが重要です。学校では体育の授業を充実させ、休み時間には外遊びを奨励するなどの取り組みが求められます。家庭でも、親子で公園に出かけたり、スポーツを楽しんだりと、日常的に身体活動を増やす工夫が必要でしょう。

また、母親の妊娠中の肥満が子供の肥満リスクを高めることが分かっているため、妊娠前からの体重管理が望ましいとされています。妊娠中の過度の体重増加は避け、バランスの取れた食事と適度な運動を心がけることが大切です。

すでに太り気味のお子さんの場合は、無理のない範囲で標準体重を目指すことが大切です。急激な体重減少は避け、長期的な視点で生活習慣の改善を図る必要があります。食事療法では、カロリー制限ではなく、栄養バランスを重視した食事内容への変更が基本です。また、運動療法では、お子さんの興味や体力に合わせて、楽しみながら継続できるプログラムを選ぶことが重要です。

肥満の改善には、家族の理解と協力が欠かせません。家族みんなで健康的な生活習慣を実践し、お子さんの体重管理をサポートしていくことが求められます。必要に応じて、小児科医や管理栄養士に相談し、専門的なアドバイスを受けることをおすすめします。

参考文献:

- Kim SR et al., J Invest Dermatol. 2024

- Zhang A, Silverberg JI. J Am Acad Dermatol. 2015

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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