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フワちゃんがやす子に仕掛けた「悲しい笑い」、認識不足だった「笑いとは受け手があってのもの」ということ

田辺ユウキ芸能ライター
フワちゃん(写真:長田洋平/アフロ)

タレントのフワちゃんが8月4日、お笑い芸人のやす子のXの投稿「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆 優勝でーす」に対し、不適切な表現を含めて「お前は偉くないので」「予選敗退でーす」と引用投稿した件が波紋を広げている(フワちゃんの該当投稿は削除済み)。

やす子は「とっても悲しい」と、フワちゃんの意見への反応と思われるポストを投稿。フワちゃんは謝罪文を載せたものの、人道的な点で見てショッキングな投稿内容だったため、批判が相次いだ。

8月5日には、ラジオ番組『フワちゃんのオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)も「不適切な投稿が確認された」として同日深夜の放送の休止を発表。今後も、フワちゃんが出演する番組は対応に追われることが想定される。

「自分より弱い」と感じた相手のやることを茶化す「いじめの構図」に似ている

この騒動の大きな問題点はまず、小さな子どもから大人までそれぞれの環境にある「いじめ問題」に通じるところだ。

フワちゃんの該当投稿のテンションは、「○○してくださーい」という風な、いかにも彼女らしい軽い感じだった。一方それは、SNSのユーザーの指摘にもあったが、確かにいじめっ子のノリを想起させるものでもあり、精神的な面で相手の首を絞めたり、崖っぷちまで追い込んだりするような類にも思えた。

フワちゃんは、いろんな人を応援する気持ちでおこなったやす子の投稿を、「予選敗退」という残酷にも受け取れる言葉を使って、大勢の人が見る場所で笑い者にしようとした。フワちゃんが考えるおもしろさとは、つまりそういうことだったのだろう。しかしそれは、「自分より弱い」「自分より下だ」と認識した相手のやることを、周囲を巻き込みながら茶化す「いじめの構図」と似ている。

フワちゃんは揉めごとを演出して「お笑い」にしようとした?

もう一つ問題点としてあげたいのが、投稿する時点でフワちゃん自身がそのノリの良し悪しに気づいていなかったであろう部分だ。

きっとフワちゃんは、このやりとりが「おもしろい」と思ったから投稿したはず。その上で、やす子からなんらかのリアクションやツッコミがあることを期待していたのではないか。つまり、揉めごとを演出した「お笑い」をやろうとしていたと推察できる。

そもそもフワちゃんの「お笑い」には、そういった暴言や、不届きさをもとにしたものが多かった。どんな相手であっても呼び捨てにしたり、あえて敬意を示さなかったり、相手を下げたり、友だちっぽく接したり。そして、相手が反論したり、タジタジになったりすることで、フワちゃんの「お笑い」が成立していた。

またそうやって、フランクなキャラクターとしてイメージ付けされ、「誰も言えないことをズバリと言う」という日本のバラエティがいかにも大好物な芸風の持ち主として捉えられた。つまり、不躾が「お笑い」に変換されていたのだ。

マツコ・デラックスが指摘「フワちゃんだから許されるところってある」

ただそれらはあくまで、受け手の寛容さと納得があって成立することだった。

マツコデ・ラックスは2020年11月7日放送『マツコ会議』(日本テレビ系)で、ゲストのフワちゃんに「フワちゃんだから許されるところってあると思う」「フワちゃんがテレビに合わせようとするんじゃなくて、それをおもしろがってくれるスタッフと仕事をするべき」とキャラクター分析をしていた。この「フワちゃんだから許されるところってある」は、まさにその通り。許されるかどうかは、「受け手次第」なのだ。フワちゃんの「失礼芸」がここまでウケて、売れっ子になったのも、まわりの「受け手」に恵まれていたと言えるのではないか。

たとえば、2020年2月16日放送『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)で大泉洋を「ムロツヨシの類似タレント」と称したり、2022年10月20日放送『VS魂 グラデーション』(フジテレビ系)で相葉雅紀のことを「みんな忘れてると思うけど、相葉くん、元祖バカだぜ」と言ったり。大物タレントたちがこういった言葉に本気で怒るとは考えられないが、それでもやはり受け手の寛容さと納得がないと成立しない。

ほかにも、千原ジュニアのYouTubeチャンネルで青山フォール勝ち(ネルソンズ)が、フワちゃんが飛行機に搭乗し、客室乗務員の指示を守らず離陸前から座席を倒していたエピソードを語っていたが、これも「フワちゃんはやっぱりヤバい」という一種の笑い話に“してもらっていた”のだ。

フワちゃんの芸風は受け手に左右されるところが大きい

それらを考えると、フワちゃんの芸風が「笑い」になっていたのはやはり受け手のおかげだったと言える。

ただこの話は、フワちゃんだけではなくお笑い全般に当てはまること。筆者も過去に出演した番組で見た目いじりをされたことがあったが、笑ってやり過ごすことができた。そこに先立つのは、やはり「バラエティのノリだから」「自分も一緒になっておもしろい番組にしたいからスルーした方がいい」という気持ちだ。なにより筆者の場合はそういうことで嫌な思いになったりしないタイプ。それでも人によっては、いわゆる「毒舌芸」「失礼芸」に対して気分を害したり、傷ついたりするだろう。受け手次第で、「笑い」にもなるし、そうでなくなりもする。

やす子が決して受け手としてスキル不足で、不寛容だというわけではない。今回の件であらためて分かったのは、フワちゃんの芸風は、非常に受け手に左右されるところが大きいということである。そしてフワちゃん自身、それに気づかず(もしくは忘れてしまって)ここまできてしまったのではないか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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