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韓国芸能人を苦しめる「指殺人」悪質コメはどれだけ酷く、なぜなくならないのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(提供:アフロ)

取材やミーティングなどがあってソウルに来ている。知人の記者や芸能関係者と会ってかならず話に出るのは、ここ最近、韓国で問題となっている「テックル」のことだ。

テックルとは「テダプ=答える」と「クル=文字や文章」という韓国語を組み合わせた造語で、書き込みコメントのことだ。悪質なものは「悪性テックル」、もしくは以前紹介した「悪プル」(悪性リプライを略した造語)という。本欄では「悪質コメ」とする。

先月24日に自ら命を絶ってしまった元KARAで歌手のク・ハラや、10月に命を絶ったガールズグループf(x)の元メンバーだったソルリが悪質コメに苦しんでいたことは、すでに日本でも報じられている通りだ。

最近も元WannaOneのメンバーで歌手のカン・ダニエルが健康上の理由で活動を中断。ファンサイトを通じて悪質コメによる苦痛を吐露した。

一部の心ないネットユーザーたちの悪質コメが芸能人たちを苦しめ、死に追いやるとして、韓国では「テックル・テロ」「悪プル怪物」、さらにはキーボードを叩く指で人を殺すということから「ソンカラク(指)殺人」とも言われている。

そんな悪質コメの温床となっているのが、ニュースポータルでもある。

韓国ポータルサイト内のコメントの悪質コメントとそうでないコメントの比率は、4対1で悪質コメのほうが多いという大学教授の研究結果もあるほどなのだ。

韓国のニュースポータルの最大手と言えばNAVER(ネイバー)だが、釜山日報が9月から10月にかけてネイバーの書き込み欄を分析した結果、2929万901のコメントがあり、その11%にあたる340万3019個のコメントが申告もしくは個人の判断によって削除されたものだという。

「そのほとんどが“悪プル”の数値で、侮辱的発言含めない人身攻撃やセクハラなども含めれば悪意の程度はさらに高くなる」(『釜山日報』)。

そんなこともあってf(x)のソルリが自ら命を絶った10月には『オーマイニュース』が世論調査専門機関であるリアルメーターに依頼して、「ポータルサイトニュース記事にテックルは必要か」という調査も行われている。

韓国の成人男女500人を対象に行った調査の結果、「副作用があるので廃止すべき」が37.1%、「純機能があるので維持すべき」が34.0%、「わからない/無回答」が28.9%。意見が三分化されていた。

韓国のポータルサイト2位のDaum(ダウム)はソルリが亡くなったあとの10月25日、「ニュースと検索サービス改編計画」を発表し、芸能ニュースのコメント欄廃止を決定しているが、それもこうした世論を受けてのものだろう。

ただ、『オーマイニュース』は「書き込みを通じた自律的な世論形成と表現の自由の確保は、民主主義社会において放棄できない価値という反論もある」としつつ、こんな意見があることを紹介している。

「交通事故が多いから自動車をなくすことができないように、副作用があるからといって公論の場を閉じてもならない」

それに昨今はポータルニュースだけが悪質コメの温床になっているわけでもない。

SNSの誕生で芸能人や著名人がインタグラムやツイッターなどでアカウントを開設。ファンとコミュニケーションするようになったが、そこにも悪質コメが寄せられている状態だ。ク・ハラやソルリのSNSにも彼女たちが写真などをアップするたびに、悪質コメがかならずあった。

そのため、ニュースポータルのコメント欄廃止やSNSへの悪質コメ禁止を叫ぶよりも、悪質コメに対する処罰を厳格にすべきとの声もある。

というのも、韓国では悪質コメントで訴えられると、主に刑法311条の侮辱罪で処罰されるケースが多いと言われる。

デマの流布行為など情報通信網法違反(名誉毀損)の場合は、3年〜7年以下の懲役または3000万ウォン(約300万円)〜5000万ウォン(約500万円)以下の罰金に該当する刑事処罰を受けることになるが、侮辱罪はその処罰が「綿のバットで叩かれる程度」だという。

「公然の人を侮辱した者は1年以下の懲役もしくは禁固、または200万ウォン(約20万円)の罰金に処する」という内容で、そのほとんどが罰金で終わるというのだ。

例えば新体操界のスター選手で“国民の姪”と言われた人気者だったソン・ヨンジェをネット上で誹謗中傷した30代男性は、罰金30万ウォン(約3万円)の処罰で終わったという例もある。

つまり、悪質コメで訴えても厳しく処罰できず、有名人の場合、訴訟を起こすというニュースが流れるだけでイメージダウンにもつながりかねないので泣き寝入りするしかないという現状なのだ。

それだけに侮辱罪の処罰をさらに厳しくすべきとの声もある。

保守政党・自由韓国党の議員たちが発議した刑法改定案では、「5年以下の懲役もしくは禁固、罰金5000万ウォン(約500万)」にすべきだという意。悪質コメをすれれば厳しく処罰されるという認識を与えてこそ、強力な抑止力が働くというわけだが、はたして。

ク・ハラは今年6月、自身のSNSにこう書き込んで訴えていた。

「皆さんの表現は自由だ。でも悪質なコメントを書き込む前に、私がどんな人間なのか考えてみることはできないでしょうか」

(参考記事:元KARAク・ハラが残した“メッセージ”…なぜ韓国アイドルの死が相次いでしまうのか)

この言葉が限りなく重く悲痛に感じるのは、私だけではないだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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