新作ゲーム機ガイドブック、なぜ異例の「発売中止」に? 関係者に取材してみた
ジーウォークが3月29日に発売を予定していた、タイトーのゲーム機「EGRETII mini(イーグレットツーミニ)」のガイドブック「イーグレットツーミニ パーフェクトカタログ」が発売中止になっていたことが、4月4日に掲載されたGAME Watchのニュース記事で明らかになった。
・参考リンク:「『イーグレットツーミニ パーフェクトカタログ』、発売中止に」(GAME Watchのニュース記事)
記事によると、本書の発売が中止になったのは「タイトーからジーウォークに申し入れがあった」のが理由であるとのこと。現在はジーウォークのホームページや通販サイトでも、本書のページが削除されている。
ジーウォークでは、本書以外にも数多くの「パーフェクトカタログ」と称したゲーム機ガイドブックを発売しているが、メーカーの申し入れにより発売中止となったのは初のケースだ。筆者も長らくゲームメディア界隈で働いているが、今回のように発売前に出版を止められたケースは前代未聞のことだ。
なぜ、本書は発売中止になったのか、当事者を取材してみた。
両社で弁護士を立てる事態に
タイトーが本書の発売中止を申し入れたのはなぜなのか? 同社の広報に聞いたところ「弁護士の先生に一任しております関係で、コメントは控えさせていただければと存じます」との返答だった。
同じく、ジーウォークも「弁護士を通してやり取りを進めた状況ですので、コメントは差し控えさせていただきます」とのことだった。
弁護士を立てたうえで発売中止が決定したということは、タイトーから見ればジーウォークに法的な権利を侵害されたとみなしたことになる。ならば、どんな侵害があったのだろうか?
本書をはじめ、各種「パーフェクトカタログ」シリーズを監修している前田尋之氏に伺ったところ「タイトーさんからジーウォークに『著作権を侵害された』との申し入れがありました」という。
実は、本書は「パーフェクトカタログ」と銘打っているが、メーカーの監修は一切受けていない。ほかのシリーズも同様で、編集およびライティングスタッフが自腹で実機を用意して写真を撮影したり、関連資料を集めたりしたうえで制作している。よって、著作権などの法令を遵守しているかどうかは、もっぱら書籍の制作スタッフに委ねられる。
既存の「パーフェクトカタログ」シリーズに対し、メーカーから販売差し止めなどのクレームが入っていないのは、各社の著作物を正当な引用の範囲内で使用したうえで作ってあるからだ(メーカー側が記載内容をチェックしていない可能性も考えられるが)。
なので、今回の「イーグレットツーミニ パーフェクトカタログ」には引用の範ちゅうを超えた、あるいは引用とは別に著作権を侵害する記載があったとタイトー側が判断したと思われる。「著作権の侵害」を理由に、メーカーが本の発売中止を求めた例は極めて少なく、今回のようなケースは「余程のこと」だ。
そもそも、発売前のタイミングで「印刷もしていません」(前田氏)という本に対し、どうやってタイトーが「著作権の侵害」を申し立てることができたのか? 実は、本書を紹介するwebメディアの記事や、通販サイトには書面のサンプル画像が掲載されていたので、タイトー側でも記載内容を把握できる状況だったといえる。
現在は通販サイトだけでなく、本書のプレスリリースをもとに掲載した各webメディアでも関連記事が軒並み削除され、サンプル画像が見られなくなっている。一度掲載された記事がまるごと消えるのは極めて異例の事態だが、本件に関しては「著作権を侵害された画像の掲載をやめるように」との連絡が、タイトーから各メディアにあったのだと思われる。
もし本書の発売中止を求めた理由が、単にゲームの良し悪しを論じた内容が気に入らなかったからだとすれば、それは「表現の自由」に関わる重大な問題となる。だが、今回のところはタイトーが「著作権の侵害」という、発売中止を申し入れる確かな根拠があったので、ジーウォーク側も受諾せざるを得なかったのだろう。
「著作権の侵害」の根拠とは?
では、タイトーが「著作権の侵害」を指摘した記載内容はどんなものだったのか? 前田氏自身は、タイトーからジーウォークに送付された書面などを直接見ていないため、具体的にどの部分が侵害だと指摘されたのかまではわからないそうだ。
本書の発売を中止せず、ジーウォークがタイトーと契約交渉をして「公式パーフェクトカタログ」として売り出したほうが、双方の利益につながる可能性もあるように思えるが、そのような手は打たなかったのだろうか?
前田氏によると「タイトーさんは、あくまで発売中止にさせたい意向のようです」とのことで、タイトーにとってはやはり「余程のこと」なのだろう。さらに前田氏からは、個人的な見解として「タイトーさんが販売されている『攻略本』(※)との競合を避けたかったのかもしれません」とのお話もいただいた。
※筆者注:「イーグレトツーミニ フルパッケージ 豪華特装版(初回限定)」に同梱されている特典DX攻略本「電撃TAITO STATION VOLUME1」を指す。
また、これはあくまで筆者の推測だが、前述した書面のサンプル画像には「イーグレットツーミニ」の入出力インターフェースの説明のほか、本機にファームウェアアップデート機能があることを解説した文章および写真も掲載されていた。本機能は本体に同梱のマニュアルにも掲載されておらず、一般のユーザーには特に触れる必要がないものだ。
もしかしたら、何か特殊な方法を使わなければ起動させることができない本機能の存在を明かしたことで、タイトーは「著作権の侵害」にあたるプログラムなどの改変とみなしたのかもしれない。
改めて意識したい著作権の存在
筆者の取材に対し、前田氏からは、
「以前から我々は、メーカーさんが不利益になることを目的にするとか 、ゴシップを書きたいわけではありません。対象となる物の魅力を、出版物を通じて盛り上げたい、多くの人に興味を持ってもらいたいという思いがあります。今回はメーカーさんに対し、こちらの意図が伝わらなかったのは残念です。
ですが、権利元が『まかりならん』と言うのであれば、我々はアンオフィシャルなので、もうそれ以上のことはできませんし、私個人としては言われたことに対して争う気もありません。自分たちのやってきたことが、すべて正義であると言うつもりもないです」
とのコメントもいただいた。
前田氏をはじめ制作スタッフに悪意がなかったとはいえ、権利元から「著作権の侵害」を通告され、書籍の発売中止に至った今回の事態は、筆者も含めゲームメディアに携わるすべての関係者にも再考を促される事態であったように思う。同様に、個人でゲーム関連の動画配信や同人誌を制作する方々も、著作権には日頃から十分に注意すべきだろう。
今後も本件で何か動きがあった場合は続報をお伝えしたい。