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処理水放出反対派はワクチン反対派か?→ちょっと違う

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
(提供:イメージマート)

先日,処理水の放出に反対しているのは誰かという記事を出したところ,X(旧Twitter)で,「処理水反対派はコロナワクチン反対派ではないか?」というコメントを見かけたので,調べてみました.

結論:

・放出反対派の40%程度はワクチン反対派

・放出反対批判派の26%程度もワクチン反対派

放出反対派にワクチン反対派だけがワクチン反対派と言うわけではない

処理水関係のデータとしては,2023年7月の一か月間に「汚染水」「処理水」を含む159,885アカウントによる投稿1,010,349です.また,ワクチンに関しては2023年1月~7月に収集された「ワクチン」を含む18,282,559個の投稿です.

クラスタリングの手法を使って分析をすると,ワクチンツイートは大きく二つに分類されました.2022年段階くらいまでは,二つに分かれた一つはコロナワクチン反対派,一つはコロナワクチン賛成派だったのですが,すでに2023年にもなるとコロナワクチン賛成派というカテゴリというより,ワクチン一般の話題として分類されました.ワクチン一般の話題には,コロナワクチンの話題もありますが,それ以外にも狂犬病ワクチンやHPVワクチンの話も多く含まれています.そういったワクチンと同レベルでコロナワクチンも扱われるようになってきたというところでしょうか.もちろん,ワクチン一般の話題の中にはコロナワクチン接種についての情報もありますので,コロナワクチンという視点から見れば賛成派と言っても良いとは思います.

ワクチン関連投稿の分類(筆者作成)
ワクチン関連投稿の分類(筆者作成)

では,処理水放出に関する投稿を行ったアカウントの中で,ワクチン関連のどちらかのクラスタに所属している投稿の拡散を5回以上行ったアカウントを見てみましょう.処理水投稿関係については,下記のようなクラスタに分類されています.

処理水放出に反対するクラスタ,放出に賛成するクラスタ,そして放出に反対する人たちを批判するクラスタです.

詳細は前回の記事をご覧ください.

処理水関係ツイートのクラスタ再掲(筆者作成)
処理水関係ツイートのクラスタ再掲(筆者作成)

これら3つのクラスタと,ワクチン関連投稿との関係は以下の通りになりました.

処理水への反応とワクチンへの反応の関係(筆者作成)
処理水への反応とワクチンへの反応の関係(筆者作成)

これをみると,放出反対クラスタの投稿を拡散したアカウントの40%がワクチン反対の投稿を5回以上拡散していたことが分かります.

40%というのが多いか少ないかという点では,放出賛成派ではワクチン反対情報を拡散しているアカウントがほとんど見られないことから,それなりに多い数であると考えても良いかと思われます.

しかし,こちらのグラフを見てもらうと分かる通り,実は放出反対派を批判しているクラスタも26%のアカウントがワクチン反対情報を拡散していることが分かりました.放出反対派を批判しているアカウント群も1/4がコロナワクチンに反対しているということで,どちらのグループにもそこそこワクチン反対派が存在していると言ってよいかと思います.なお,放出賛成派と比較して反対批判派ではワクチン賛成派がほとんどいないというのも興味深い点かと思います.

ちなみに,一般的なアカウントはワクチンに言及しているのかというと,一般性の高い話題の代表として3月に行われたWBC2023を取り上げると,WBC2023に言及したアカウント群は3~6%しかワクチン賛成反対を拡散していません.これと比較するとはるかに多いことから,ワクチン反対派は普遍的にいるわけではなく,特異的に放出反対派と放出反対批判派に多いという事になりそうです.

もともとコロナワクチンに関しては異なる理由から左派右派双方に反対派が存在しているというのは知られていたことなので驚くべきことではありませんが.

というわけで,追加分析として,コロナワクチンへの賛否と処理水放出の賛否の関係について分析を行いました.

もともと,放出賛成派と反対批判派が分かれたクラスタになっていたのが興味深いと思っていたのですが,コロナワクチンへの反応という観点から見ると二つのクラスタの違いが浮き彫りになってさらに興味深いです.

世の中単純に二分化されているわけではないということで,今後も様々な角度から分析を行う必要性はありそうです.

ちなみに,今後も分析が必要だとは言っても,いつまでこのデータ分析を続けられるのかという問題もあります.これまでのペースで分析をしようと某社からデータを購入しようとすると,年間で日本の平均年収の2倍程度かかるみたいですのよ.

継続的に分析を行うためには大規模な資金調達が必要そうです.計算社会科学の研究にもお金がかかるようになってきてしまいました.どうしよう.

追記:

タイトルしか読まない方が一定数いらっしゃるようなので,誤解のないようタイトルを変更,結論にも追記しました.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会前編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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