最近の国民負担率は、まるで江戸時代の「五公五民」並み…とは本当か?
国民負担率が、2021年度決算ベースで48.1%と過去最高となったことから、今日における日本の国民は、江戸時代の「五公五民」並みの重い負担に直面しているという見方が出ている。
国民負担率とは、租税負担(国税と地方税を合わせた総税収)と社会保障負担(社会保険料の合計額)に対する国民所得の比率を意味する。国民負担率が50%となると、国民所得に比して租税負担と社会保障負担が半分に達する。
確かに、日本の国民負担率が48.1%と5割に近い値となったのは、コロナ禍で所得が低迷した影響もある。日本の国民負担率は、2019年度は44.3%で、それまでは40%台前半だった。しかし、2020年度から40%台後半となって、2021年度には過去最高を記録した。
コロナ禍で所得が低迷したにもかかわらず、高齢化の影響で社会保障給付は増え、それに連動して社会保険料負担は増えた。税収は、コロナ禍でも過去最高益を上げる企業が多かったこともあって法人税収が伸びた。
しかし、それでも国民への行政サービスに費やす支出の方が多く、引き続き多額の国債発行に依存した財政運営を行っている。少なくとも、国民負担率が5割近い値といえども、それを超える規模で財政支出を行っている。
そう考えると、江戸時代の「五公五民」は国民への何の見返りもなく年貢を取られていたが、現代における5割弱の国民負担率は国民への行政サービスという還元を伴うものであるから、同一視することはできない。
加えて、これまで増税反対派が繰り返していた「景気が良くなれば税収が増える」との主張を支持するなら、こうした国民負担率の上昇は甘受すべきことである。
また、過去のデータで「税収弾性値は4だから、政府の税収見積もりは過少だ」との主張もあった。その主張を支持するなら、やはり国民負担率の上昇は甘受すべきことである。
ちなみに、税収弾性値とは、名目経済成長率が1%高まったときの税収の増加率を意味する。政府の試算でよく使われる税収弾性値は1.1だが、これは過少だとして4、つまり名目経済成長率が1%高まると税収は4%増えると主張していた。
現時点で、まだコロナ禍から完全に脱却できたわけではないが、一部の業種では過去最高益を上げる企業が続出するほど「好景気」である。それが、法人税収の増加を下支えしている。
増税をしなくとも、税収が増えれば、国民負担率は上がりうる。しかも、税収弾性値は4と主張するならば、分母の国民所得の伸び率に近似する経済成長率が1%増えると分子の税収は4%増えるわけだから、その比率である国民負担率は高まって当然である。
だから、「景気が良くなれば税収が増える」とか「税収弾性値は4だから、政府の税収見積もりは過少だ」と主張するなら、国民負担率の上昇を肯定しなければならない。
では、国民負担率が50%を超える事態になれば、国民生活はより苦しくなる、と思うならば、今後どう対応すればよいか。
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