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台湾の写真家・猫夫人もやってきた!「看板猫密度おそらく日本一の温泉地」 鹿児島・妙見温泉の猫写真展

西松宏フリーランスライター/写真家/児童書作家
「猫夫人」の愛称で知られる簡さん。「田島本館」のすずめと(8日 筆者撮影)

「看板猫密度おそらく日本一の温泉地」といわれる鹿児島県霧島市の妙見温泉。現在開催中の「第2回妙見温泉ねこ写真展」(2月1日〜29日)に7日、台湾の写真家・「猫夫人」こと簡佩玲(チェン・ペイリン)さんが来訪し、地元の人たちと交流した。猫を一つのきっかけに、活性化をはかろうとする温泉地を取材した。

「自ら興味を持ってやってきてくれるファンを大切にしたい」

 妙見温泉は、霧島山麓から流れ出す天降川に沿って旅館やホテル10数件が建つ、南北約1キロのこぢんまりとした温泉街。明治維新のころ、西南戦争で戦った薩摩軍の兵士たちが傷を癒し、「効能が高い」と評判になったことから湯治場として栄えるようになった。鹿児島空港から車で約15分とアクセスもよく、個性的な高級宿から長期滞在できるリーズナブルな宿まで、バラエティに富んでいる。

妙見大橋からみた温泉街。国道223号線沿い天降川が流れ、風光明媚な景色が広がる(筆者撮影 以下同)
妙見大橋からみた温泉街。国道223号線沿い天降川が流れ、風光明媚な景色が広がる(筆者撮影 以下同)

 看板猫は、妙見温泉振興会加盟の宿泊施設10軒中7軒に計15匹以上がいる。写真展の会場となっている「妙見温泉ねむ」では、白猫でオッドアイのユキ(オス、推定7歳)が来場者を出迎えている。このユキを含め、7軒にいるそれぞれの看板猫たちは、ほとんどが各々の施設近辺などで迷ったり傷ついたりしていたところを保護された子ばかりだ。

只野さんとユキ。ユキは18年2月、雪が降る日に宿の入口でけがをしているところを只野さんに保護された
只野さんとユキ。ユキは18年2月、雪が降る日に宿の入口でけがをしているところを只野さんに保護された

 同温泉振興会会長で妙見温泉ねむ支配人の只野公康さんはこう話す。「ここ数年、妙見温泉の宿泊者数は年間5万人ほどで、ほぼ増減なく推移していますが、昔から来ていただいている湯治客の高齢化や人口減少の影響で、今後、来訪者数は減少していくと思われます。駅前でビラをまいたり、誘客イベントを行なえば、お客さんは一時的に増えるかもしれませんが、私たちはこれまでそういったことはしてきませんでした。それよりも、『私はここへ行きたいんだ』と自ら興味を持ってやってきてくれるファンを、少しずつでも地道に増やしていくことが大切だと思っています」

 ユキを保護したころ、只野さんは「そういえば猫を飼っている宿が温泉街には他にもたくさんある」と思った。「“看板猫密度”が高いことに気づき、それを一つの誘客のきっかけにして、泉質の良さなど妙見温泉の魅力を発信していければと、昨年から写真展を始めたんです」(只野さん)

フロントの後ろでたたずむユキ。「幸運を招く」といわれるオッドアイが美しい
フロントの後ろでたたずむユキ。「幸運を招く」といわれるオッドアイが美しい

台湾の写真家「猫夫人」が来訪

 昨年2月の第1回写真展では、プロ、アマ7人の写真家が妙見温泉の看板猫たちを撮りおろし、1ヶ月間でのべ1100人が来場。盛況を博した。今年は8人の写真家が撮影した同温泉の看板猫に加え、一般からも写真を公募。温泉街を貫く国道223号線にちなんで計223枚の写真が展示されている。

妙見温泉ねむの特設会場で開催されている「第2回妙見温泉ねこ写真展」
妙見温泉ねむの特設会場で開催されている「第2回妙見温泉ねこ写真展」

「猫夫人」との愛称で親しまれている台湾の写真家・簡佩玲(チェン・ペイリン)さんが撮影した猫写真も展示。7日に来日した彼女は、同温泉の看板猫たちの愛らしい写真を見ると、「地元の人たちが猫を大切にしているのが伝わってきて感銘を受けた」と微笑んだ。

 ちなみに「猫夫人」という愛称は、動物病院を営み、猫診療で第一人者の夫が「猫博士」と呼ばれ、その夫人だから。本人もお気に入りだそうだ。

 簡さんは、田舎のまちや港など、台湾の昔ながらの美しい風景が残る場所で、猫が自由に生きている姿を撮影するのが好きで、長年、そうした猫の写真をブログやSNSで発表してきた。2008年ごろ、彼女は、台北駅から鉄道で1時間ほどの場所にあるホウトンという、かつては炭鉱街として栄えた小さなまちで、たくさんの猫たちがいるのを発見する。ネズミ駆除のために飼われていた猫が増え、その数100匹を超えていた。

温泉街を撮影して歩く簡さん
温泉街を撮影して歩く簡さん

「写真を撮りに行くと、猫がたくさんいるのを見つけ、写真をブログやSNSにアップして知らせたのが始まりです。村の老人たちは猫たちと仲良しでしたが、数が多く、世話も行き届いていなくて、不衛生でもありました。そこで、村の人たちのために何かしてあげたいと、有志に呼びかけ、餌やり、清掃、不妊手術、予防接種などのボランティア活動をずっとやってきました。その結果、猫たちの暮らしは改善し、猫好きの観光客が大勢訪れるようになって、土産物屋やカフェなどの店もでき、村の人たちは喜ぶようになりました」(簡さん)

 この「ホウトン猫村」は、米テレビ局CNNから「世界6大猫スポット」に選ばれるなどメディアでの紹介が相次ぎ、観光客が急増。簡さんによれば、現在、「100人ほどの村民に猫は約120匹。年間100万人近くの観光客が世界中から訪れている」という。

滞在中は看板猫のいる宿をめぐり、温泉や食も満喫した
滞在中は看板猫のいる宿をめぐり、温泉や食も満喫した

 そんな台湾の猫村ブームの立役者である簡さん。妙見温泉の看板猫たちは各施設内で飼われており、基本的に室内飼いだ。台湾の猫村と比べれば猫の数も少ない。「正直ちょっとさびしい」と漏らしてはいたものの、愛情に満ちた眼差しで宿の看板猫を写真に収めていた。そして、満足そうな笑みを浮かべ、簡さんはこう話した。

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「いい温泉と美味しい食べもの、そして、愛らしい看板猫たち。観光客のニーズは人それぞれだけど、この場所にしかない良さや魅力を味わいたいと思う人たちがやってきて、喜んでもらえるなら、それで十分じゃないかしら」

リュックサックにも猫!
リュックサックにも猫!

「人と猫との幸せな関係を温泉地から発信したい」

 写真展開催のきっかけを作ったのは、日本温泉地域学会理事で、全国1500か所以上の温泉取材を重ね、只野さんとも旧知の仲の温泉作家・西村理恵さん(横浜市在住)だ。西村さんは東日本大震災が起きたとき、ペットを置いて温泉街へ一時避難していた、インターネットが使えない高齢の被災者に対し、自分たちのペットがどこに収容されているかを知らせるため、ポスター掲示するなどの活動を福島県内で行なった。

「愛するペットと離れ離れにならざるを得ず、『シェルターに行けば、連れて帰ってもらえると思って逆に犬猫につらい思いをさせてしまうから』と、会いたくても行けない人たち…。被災地では、突然仲を引き裂かれ、悲しむ飼い主さんや犬猫たちを数多く見聞きしてきました。少し落ち着いたころ、自分に何ができるかと考えたとき、温泉地で暮している幸せな犬猫たちの姿を伝えていきたいと思うようになりました」

温泉作家の西村さん。写真展会場にて
温泉作家の西村さん。写真展会場にて

 そこで彼女が仲間と立ち上げたのが「ねこ温泉いぬ温泉プロジェクト」だ。「昔から温泉地は傷ついた者、弱い者を受け入れてきた場所。人と犬猫の幸せな関係を、温泉地から発信したいとの思いがあります」と西村さん。2015年からは全国各地の温泉地で、そうした犬猫たちの写真展を開催してきた。一昨年、只野さんから「猫の写真展を一つの誘客のきっかけにできないか」と相談を受け、協力することに。西村さんは昨年2月、日本と台湾の計70か所の温泉地の猫たちをまとめた「ねこ温泉」(KKマガジンボックス)も出版した。

「妙見温泉は、狭い地域に7軒も猫を飼っている宿があり、ある程度の規模のある温泉地では、おそらく看板猫密度日本一だと思います。全国どこでもそうなんですが、温泉地はいま、日本人の宿泊者数が減少傾向にあります。これからは海外との交流をもっと進め、世界中からお客さんに来ていただかないと。私は特に台湾の温泉が好きで何度も通っているので、第2回目の今回は猫好きさんが多い台湾の方々にPRしてみてはと提案したんです」。簡さんの来日もコーディネートし、簡さんが滞在中は地元の人たちとともに猫談義などでおおいに盛り上がったそうだ。

「田島本館」の看板猫・すずめ。宿泊者の朝食どきを上から眺めるのが日課
「田島本館」の看板猫・すずめ。宿泊者の朝食どきを上から眺めるのが日課

 只野さんによれば、写真展を見に来た人が帰りに温泉に立ち寄り、泉質を気に入ってリピーターになったり、「看板猫ちゃんに会いたい」、「温泉と猫、ダブルで癒されたい」と訪ねてくれるようになったりと、昨年から温泉、猫好きの来訪者が世代を問わず増えているという。まさに“猫の手を借りる”形で、妙見温泉の看板猫たちがきっかけとなり、ファンを着実に増やしているようだ。「今回、著名人の簡さんに来て頂いたことで、台湾の方々にこの温泉地のことをもっと知ってもらえたら」と、只野さんは期待を込めた。

フリーランスライター/写真家/児童書作家

1966年生まれ。関西大学社会学部卒業。1995年阪神淡路大震災を機にフリーランスライターになる。週刊誌やスポーツ紙などで日々のニュースやまちの話題など幅広いジャンルを取材する一方、「人と動物の絆を伝える」がライフワークテーマの一つ。主な著書(児童書ノンフィクション)は「犬のおまわりさんボギー ボクは、日本初の”警察広報犬”」、「猫のたま駅長 ローカル線を救った町の物語」、「備中松山城 猫城主さんじゅーろー」(いずれもハート出版)、「こまり顔の看板猫!ハチの物語」(集英社)など。現在は兵庫と福岡を拠点に活動。神戸新聞社まいどなニュースで「うちの福招きねこ〜西日本編」連載中。

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