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「ミルクっ子」の世話ができる人を増やす試み「保護猫がうちにやってきた!〜福岡の現場から」(3)

西松宏フリーランスライター/写真家/児童書作家
(Stand by Animalz提供)

「生まれてすぐの赤ちゃん猫の育て方から最終的な譲渡に至るまで“ミルクっ子”(=子猫)についての知識と技術を持った人材を育てたい」と、福岡県内で保護猫活動や推進に携わる3団体が10月と11月、「ミルクっ子セミナー〜目が開いていない子猫は最初が肝心!新しい飼い主さんに繋ぐまで〜」を福岡市内で開催した。「世話主や預かり主を増やすことで、1匹でも多くの子猫の命を救いたい」との思いからだ。

セミナーを主催したのは、同県内で譲渡会やイベントなどを企画、運営する「Stand by Animalz」(代表 田中美香さん)。「人間と動物のよりよい共生を目指し、動物愛護を知る人を増やしたい」「今の自分にできることをする」をモットーに活動している。「子猫との出合いはいつやってくるかわかりません。知識を少しでも持っていれば安心ですし、ケアの対処法を身につけた人を日頃から増やしていければと企画しました」と話す。

田中さんは「ライフリレー博多ねこ」(代表・木本美香さん)、「那珂川ねこネットワーク」(小林綾子さん)の2団体と協力し、10月21日と11月18日に全2回のセミナーを開催。講師として招かれた木本さんと小林さんは、ともにこれまで数多くの子猫たちを世話し、譲渡に繋げてきた経験を持つ。セミナーには保護猫活動に関心がある10人が集まった。

全2回の講義に10人が参加した(筆者撮影)
全2回の講義に10人が参加した(筆者撮影)

「ライフリレー博多ねこ」は福岡市を中心にさっ処分ゼロを目指し、飼い主のいない猫たちの不妊去勢手術や里親探しをしている人たちの手伝い、相談などのフォローを行っている。木本さんによると、予期せず子猫を保護したとき、どうしたらいいかわからず、動物愛護団体に引き取り依頼の連絡をする人は少なくないという。「そういう方はまず『自分にはできない』が前提にあるんですよね。でも私たちだってもちろん初めてのときがあったわけで、知識とコツさえわかれば、赤ちゃん猫を育てたり譲渡活動に繋げたり、といったことはできるよと伝えたいです」

「ライフリレー博多ねこ」代表の木本美香さん。「野良猫の不妊去勢手術を推進することで、元栓を閉める活動に力を入れています」と語る(注・同団体には猫の預かり施設や預かりシステムはない)。(筆者撮影)
「ライフリレー博多ねこ」代表の木本美香さん。「野良猫の不妊去勢手術を推進することで、元栓を閉める活動に力を入れています」と語る(注・同団体には猫の預かり施設や預かりシステムはない)。(筆者撮影)

「那珂川ねこネットワーク」は那珂川市で地域猫活動をしているボランティアの集まり。「人も猫も幸せに暮らせるまちづくり」を掲げ、行政と手を携えながら活動している。小林さんは「ネットを調べれば、子猫の世話の方法はわかるかもしれませんが、知識以外のちょっとしたコツなどは、教えてもらったり体験したりしないとわからないことも多いんです」と話す。

セミナー講義の主な内容は次のとおり。

(1回目)

・目が開いていない子猫を見つけたら?

・ミルクっ子のお世話フェーズ(=段階、局面)

・ケアのポイント、テクニック(保温編、血糖値確保・受診編、授乳編、排泄編)

(2回目)

・ケアのポイント、テクニック(離乳食編)

・子猫期の病気、気を付ける症状

・子猫期の安全対策

・検査・予防接種・不妊去勢手術

・お世話主、預かり主のメンタルケア

・譲渡につなげよう(里親募集記事の作成、PR方法、審査、トライアル、譲渡契約に関する留意事項など)

もしも、まだ目が開いていないひとりぼっちの子猫に遭遇した場合、まずすべきことは周囲に親猫がいないか様子を見ること。子猫しかいない場合は放置しておくと命の危機に繋がるため、保護して応急手当をする。その際、大事なのは保温と血糖値を下げないこと。そして、できる限り早く動物病院へ行く。つまり「保温、血糖値確保、受診」が最初のステップという。

ミルクっ子のお世話フェーズ。生後すぐから8週目までを写真で紹介。それぞれの段階でのケアするポイントを確認した(配布資料より。Stand by Animalz提供)。
ミルクっ子のお世話フェーズ。生後すぐから8週目までを写真で紹介。それぞれの段階でのケアするポイントを確認した(配布資料より。Stand by Animalz提供)。

講義では、手元に道具がないときの保温の仕方や血糖値確保の工夫、生後1日から4週目までのフェーズごとのケアのポイント、授乳や排泄の仕方などを、木本さんと小林さんがぬいぐるみや哺乳瓶を用いてわかりやすく解説していった。

「1回あたりの授乳量が5cc未満だったり、自力で吸い付く力がなさそうだったりするときはシリンジやスポイトを使って飲ませます。誤嚥性肺炎を起こさないよう少量ずつ飲ませるように気をつけましょう」「哺乳瓶に入れたミルクは下に向けてポタッ、ポタッっと垂れるくらいがいいのですが、市販の哺乳瓶の中には出がよくないものもあるので、乳首の先端に小さな十字の切れ目を入れるなどの工夫を」「授乳は必ずうつぶせで。仰向けにならないように」などと話すと、参加した人たちは頷きながら、熱心にメモをとっていた。

また、講義の後半では、ミルクから離乳食へ移行する際の見極め方や子猫の口へ給餌するマドラーの使い方なども伝授。さらに、病気への対処法や、成長した子猫をどう譲渡に繋げ、迎え主を選ぶかのポイントなどについても詳細な説明があった。

「那珂川ねこネットワーク」の小林綾子さん。ぬいぐるみを用いて離乳食を与える方法を伝授。(筆者撮影)
「那珂川ねこネットワーク」の小林綾子さん。ぬいぐるみを用いて離乳食を与える方法を伝授。(筆者撮影)

参加者からは「自分ができる範囲で保護猫活動に協力していければと考えていますが、なかなかこうした実務的なスキルを教えてくれる場がなかったので、とてもためになりました」(40代女性)、「講師の方々の豊富な経験に基づいた話は貴重で、とても有意義でした」(30代男性)、「将来、動物に関わる仕事につきたいので、これからも保護猫活動について学びたい」(10代女性)といった声が聞かれた。

実際に地域猫活動をしている人も受講した。大分県日田市でTNRサポート、地域猫推進、里親募集を行っている「ひたねこLink_heart」の小関由香里さんは、「これまでたくさん子猫を育ててきましたが、ミルクや離乳食のあげ方など我流でやっていたところがあり、他の人がどうやっているか知らなかったので、視野が広がり、とても勉強になりました。今後はボランティア仲間を集めて月1回程度、勉強会をやろうと思っています。ここで学んだことを地元で活かしていきたいです」と話した。

「保護猫活動に関心のある人たちが、自分たちのできる範囲で気軽に参加できる社会になれば」と「Stand by Animalz」田中さん(写真左)。セミナーは今後も定期的に開催予定だ。(筆者撮影)
「保護猫活動に関心のある人たちが、自分たちのできる範囲で気軽に参加できる社会になれば」と「Stand by Animalz」田中さん(写真左)。セミナーは今後も定期的に開催予定だ。(筆者撮影)

行政のミルクボランティア制度だけに頼らず、子猫を世話できる人や預かりさんがもっと増えていけば、それだけ受け皿は大きくなる。田中さんは「特に子猫が増える春にまたセミナーを開催したいと思っています。継続的に行って、スキルのある人を少しでも増やしていくことが、1匹でも多くの猫を救うことに繋がるはず」と力を込めた。

*保護猫にまつわる話、課題などを、福岡の現場から紹介します(不定期連載)。

フリーランスライター/写真家/児童書作家

1966年生まれ。関西大学社会学部卒業。1995年阪神淡路大震災を機にフリーランスライターになる。週刊誌やスポーツ紙などで日々のニュースやまちの話題など幅広いジャンルを取材する一方、「人と動物の絆を伝える」がライフワークテーマの一つ。主な著書(児童書ノンフィクション)は「犬のおまわりさんボギー ボクは、日本初の”警察広報犬”」、「猫のたま駅長 ローカル線を救った町の物語」、「備中松山城 猫城主さんじゅーろー」(いずれもハート出版)、「こまり顔の看板猫!ハチの物語」(集英社)など。現在は兵庫と福岡を拠点に活動。神戸新聞社まいどなニュースで「うちの福招きねこ〜西日本編」連載中。

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