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自社ブランドPRと保護猫活動支援を両立 「保護猫がうちにやってきた!〜福岡の現場から」(2)

西松宏フリーランスライター/写真家/児童書作家
猫好きの奥さんの膝の上でくつろぐ幼いころのみけ(井上さん提供)

 1人の社員が保護猫を家族に迎えたことをきっかけに、保護猫団体と連携して自社ブランドPRと保護猫活動支援を両立させたプロジェクトを展開し、成果をあげた福岡のある企業を紹介する。

初めて出会った子猫が娘の膝の上に

 福岡市在住の香原隆人さん(43)一家のもとに保護猫の「みけ」(メス、2歳)がやってきたのは2021年8月。化粧品などを扱う会社で取締役を務める香原さんは妻と長女(4)の3人家族。元々、奥さんが猫好きで、結婚後は彼女が飼っていたキジトラの「てと」(メス)と一緒に暮らしていたが、長女が生まれて1年後、てとは20歳で虹の橋を渡った。しばらくは育児で忙しく、「もし縁のある猫がいれば」と願うだけだったが、長女が2歳になったころ、運命の出会いがあった。

 同年5月のある日、香原さんは知人の紹介で、保護猫団体「福ねこハウス」(福岡市、井上恵津子代表)のシェルターを家族3人で訪れた。

 福岡県内には9ヶ所の保健福祉事務所があり、迷い猫として各地の保健福祉事務所、あるいは警察に届けられた猫は福岡県動物愛護センターのホームページに公示される。同団体は、公示期限内に飼い主の元へ戻れず、殺処分が決まってしまった猫たちをレスキューし、新しい家族を見つける活動をしている。

 みけは県動物愛護センターから引き取った。井上さんいわく「4匹兄弟の中の1匹で当時、生後1ヶ月くらい。飼い主不明の猫が産んだ赤ちゃんと思われます」。もし井上さんが引き取らなければ、殺処分されてしまう運命だった。

シェルターで初めて会った日の写真。娘さんの膝の上にみけが自分から乗ってきた瞬間(井上さん提供)
シェルターで初めて会った日の写真。娘さんの膝の上にみけが自分から乗ってきた瞬間(井上さん提供)

 香原さんはみけとの初めての出会いをこう振り返る。「シェルターには生後1〜2ヶ月の子猫が10匹ほどいて賑やかだったのですが、私たちを見つけるやいなや、臆することもなく、トコトコと私たちめがけて歩いてきて、娘の膝の上にちょこんと乗った子がいたんです。それがみけでした。娘はすぐ気に入ってしまい、トライアルをさせてもらうことになりました」(香原さん、以下同)

みけは娘さんの膝の上からしばらく離れなかった(井上さん提供)
みけは娘さんの膝の上からしばらく離れなかった(井上さん提供)

 その時の様子を横で見ていた井上さんは「小さなお子さんは動きが急だったり手加減なくなでたりするので、自分からすすんで寄っていく猫は少ないんですけど、みけはそんなこと全然気にせず、まるで『香原さんの家族になるために生まれてきた』といわんばかりに娘さんの膝の上でくつろいでいました。いつも思うんですけど、人が猫を選ぶのではなく、実は猫が人を選んでいるんですよね。正式譲渡のときご自宅を訪れたら、すっかりもう香原家の子になっていて、私を見ると警戒して逃げようとするほどでしたもんね」とほほえむ。みけの他の兄弟たちもみんな新しい家族のもとへと旅立っていった。

シェルターにいたときのみけ(井上さん提供)
シェルターにいたときのみけ(井上さん提供)

 みけがやってくると、香原家の雰囲気は一変した。「娘は『妹』ができて大喜びでした。妻とはみけのことで毎日、話題に事欠くことがなく、居心地がよくて家にいる時間が増えました(笑)」

 みけの運動不足解消とゆっくり過ごせる場所を確保するため、香原さんは娘さんと一緒にDIYでリビングの壁にキャットウォークを製作したのも楽しかった。

みけのためにDIYで作ったキャットウォーク。みけもお気に入り(筆者撮影)
みけのためにDIYで作ったキャットウォーク。みけもお気に入り(筆者撮影)

 「みけと一緒にすごすようになってから、娘はみけのことをとても大切に扱い、いたわっています。小さな命への思いやりが育まれているなと感じます。父親としてはそれが一番嬉しいです。今ではみけの方が大人になり、娘の相手をする『お姉さん』になりましたけどね(笑)」

みけを抱っこする香原さん(筆者撮影)
みけを抱っこする香原さん(筆者撮影)

会社の「ねこ部」が中心となり支援キャンペーンを展開

 香原さんが勤務する株式会社JIMOS(本社・福岡市、川上裕也・代表取締役社長)は、「マキアレイベル」という化粧品ブランドを通販で取り扱っている。社内には10年ほど前から、猫好きの集まり「ねこ部」(11人)がある。

 活動はメンバーが愛猫のことなどを社内SNSに時々書き込んで、猫に関する情報を交換し合うのがメイン。香原さんも先代の猫のことを投稿するなどしていた。ただ、「ねこ部」として具体的な活動をしたことはそれまでなかった。

 香原家にとって、次第にみけはいなくてはならない家族の一員になっていた。「コロナ禍でペットを飼う人が増えた一方、飼育放棄も増えた」というニュースを聞き、胸を痛めた。そして、「ねこ部のメンバーたちが中心になって、保護猫を支援するための活動を会社としてできないか」と思うようになった。

マキアレイベルねこ部のみなさん(同プロジェクトHPより)
マキアレイベルねこ部のみなさん(同プロジェクトHPより)

 香原さんの呼びかけで、社内SNSの交流だけにとどまっていた「ねこ部」が、実際に動き出した。

「弊社のブランドPRをしっかりと行いながら、保護猫に興味を持ってもらえる内容はどんなものか、メンバー同士で何度も話し合いました。押し付けがましくなく、参加して楽しんでいただけるもの、また、お客さまと保護猫団体と弊社が『三方よし』となるバランスのよいものになるよう心がけました」

 そうして始動したのが、香原さんがみけを譲渡してもらった「福ねこハウス」と提携し、保護猫が幸せになれるようサポートする「SAVE THE NYANSプロジェクト」だった。

 その内容は、①保護猫を家族として迎えると、マキアレイベルの商品1点を生涯8割引で届ける②「#マキアレイベルねこ部」のハッシュタグをつけてインスタグラムに投稿すると、1投稿につき22円を福ねこハウスに寄付する③「お出かけセット」(ハンドジェルやメイク仕上げ用化粧水、オリジナルのねこトートバッグの3点)を購入すると、売上の一部を同じく同団体に寄付する、というもの。

 実施期間は2021年11月16日から2022年5月31日までの約半年間。①は「福ねこハウス」から保護猫の正式譲渡を受けた人が対象。「猫の一生を引き受けていただくわけですから、こちらとしても生涯寄り添っていくとの覚悟を込め、生涯8割引としました」と香原さんは振り返る。

今では娘さんの「お姉さん」的存在に(筆者撮影)
今では娘さんの「お姉さん」的存在に(筆者撮影)

 プロジェクトの結果は、保護猫の正式譲渡を受け、生涯8割引の特権を得たのは2人。インスタのハッシュタグ投稿総数は9967件。「おでかけセット」の販売総額は16万円。その結果、計約23万円が福ねこハウスに寄付された。

 同団体の井上恵津子代表は「寄付金で病気の猫たちの医療費の不足分をまかなうことができ、本当に助かりました。動物愛護団体はどこも資金難のところが多いので、このようなご支援をしていただける企業が増えてくれたら嬉しいです」と、感謝と期待を込める。

 香原さんはこう総括する。「今回はプレスリリースを作るなど大々的なPRをしたわけではなく、SNSでの発信がメインでしたが、弊社のSNSフォロワーは約10%増え、福ねこハウスさんの活動に注目してくれた方もたくさんいました。『こうした企画をやってくれてありがたい』『気軽に参加できてよかった』などの声が寄せられ、弊社ブランドPRと保護猫支援を両立させることができたと思っています。特にのべ1万人弱の方々が参加してくれた②(ハッシュタグをつけてインスタに投稿)は、気軽に参加できる良い方法だと改めて感じました。猫を迎えるなら保護猫という選択肢がある、ということを、微力ながらお伝えすることができたのではと」

 2022年6月、同社は環境に配慮した製品づくりやサービス、環境保全への支援、社会貢献活動など幅広い取り組みが評価され、「第2回 日本中小企業大賞」(株式会社中小企業のチカラ主催)の「SDGs賞 優秀賞」を受賞。受賞理由となった取り組み内容には「様々な立場への配慮」項目の中に、このプロジェクトも含まれている。

 同じ目標をめざしてプロジェクトを無事に終えることができたことで、ねこ部メンバー間の絆がより深まるという相乗効果もあったそう。「この経験を活かして次回の企画、展開へと繋げ、継続的な支援ができないか、模索していきたい」と香原さんは話している。

優しくておっとりした性格。「やや運動音痴で、たまにキャットウォークからずり落ちそうになることも。ごはんの時間がくると、ほぼ確実にお皿の前で待ち構えています(笑)」と香原さん(筆者撮影)
優しくておっとりした性格。「やや運動音痴で、たまにキャットウォークからずり落ちそうになることも。ごはんの時間がくると、ほぼ確実にお皿の前で待ち構えています(笑)」と香原さん(筆者撮影)

*保護猫にまつわる話、課題などを福岡から紹介します。

フリーランスライター/写真家/児童書作家

1966年生まれ。関西大学社会学部卒業。1995年阪神淡路大震災を機にフリーランスライターになる。週刊誌やスポーツ紙などで日々のニュースやまちの話題など幅広いジャンルを取材する一方、「人と動物の絆を伝える」がライフワークテーマの一つ。主な著書(児童書ノンフィクション)は「犬のおまわりさんボギー ボクは、日本初の”警察広報犬”」、「猫のたま駅長 ローカル線を救った町の物語」、「備中松山城 猫城主さんじゅーろー」(いずれもハート出版)、「こまり顔の看板猫!ハチの物語」(集英社)など。現在は兵庫と福岡を拠点に活動。神戸新聞社まいどなニュースで「うちの福招きねこ〜西日本編」連載中。

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