「小説家になろう」商標問題:長年使っている商標を他人が登録してしまった場合どうすればよいか?
「"小説家になろう"名称アウト 山形で19年続く講座、大阪の企業に商標」というニュースがありました。
ということだそうです。twitterでのご指名もありましたので解説することにいたします。
一般に、長年使っていた商標を他人が商標登録してしまうケースはよくあります(不正の目的で出願される「勝手出願」のケースもあれば偶然のケースもあります、今回の件は特に不正目的という感じはしません)。特許法と異なり、商標法には新規性という概念はありませんので、既にある言葉や、他人が使っている商標だからと言って登録できないということはありません。
では、自分が長年使っていた商標を他人に商標登録されて、しかも、警告書送付等されてしまった場合にはどうすればよいのでしょうか?
他人の出願より先にこちらが使用しており消費者に「広く認識」されている状態になっていれば、権利行使(差止め等)を防ぐことはできます。いわゆる先使用権(商標法32条)です。これも特許の場合とは異なり、先に使用していただけではだめで「先に使用」+「広く認識」の両方が必要です。
この「広く認識」がどれくらいのレベルなら裁判で認められるのかについては、弁理士会会報の記事が参考になります。長期間(10年~20年以上)使用されており(全国とまでは行かなくとも)都道府県レベルで知られていれば先使用権が認められる可能性が高いようです。ということで、今回の件では、19年にわたり使用されており、少なくとも山形県では知られている状況であったので、先使用権を主張すれば認められた可能性はあったと思います。もちろん、裁判に持ち込むのは大変なので、商標の使用をやめるという選択肢も合理的ではあります。
なお、先使用権の主張だけではなく、4条1項10号を理由に無効審判を請求することも可能です。ただし、現時点ではなく、出願および登録査定の時点で「広く認識」されていたことが必要ですし、登録から5年を経過するとこれを理由にしては無効審判を請求することはできなくなります(除斥期間(一種の時効))。
なお、法文上は「広く認識」で同じですが、判例上は無効審判よりも先使用権の方が認められやすい傾向があるようです。
さらに、このケースでは「小説家になろう」が、商標として機能するかという問題もあります。仮にセミナーの名称が「小説家育成講座」であって、それのポスター等に「小説家になろう」というキャッチフレーズが付いているといったような使用形態であったとするならば、「小説家になろう」は商標的使用ではないと主張することもできたでしょうが、この件では、「小説家になろう」という名称のセミナーを長年にわたり繰り返し実施していたようなので、この主張は認められにくいと思います。
また、キャッチフレーズとして認識される商標は審査時に識別力がないとして拒絶理由通知が出されることがありますが、いったん登録されてしまうとこれを理由に無効にするのは困難です。
講座事務局ははセミナーの名称を変更し、新名称は商標登録出願するそうです。ポジショントークを承知で言いますが、この手の問題に対する最良の方法は先に商標登録出願しておくことです。五輪エンブレムのようにあらゆる使用形態を排除するために広範囲で出願すると結構な費用がかかりますが、自分が提供する商品(役務)だけを抑えるのであればそれほど費用はかかりません(4月1日より商標登録料が約30%値下げになることもあり総額5万円くらいで登録可能です)ので保険として検討すべきでしょう。