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オンライン診療vs対面診療!慢性炎症性皮膚疾患治療の最新エビデンス

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

慢性的な炎症性の皮膚疾患を抱える患者さんにとって、定期的な通院は欠かせません。しかし、新型コロナウイルスの流行を機に、世界的に遠隔医療(テレメディスン)への注目が高まっています。オンラインを活用した診療は、慢性皮膚疾患の患者さんにとっても新たな選択肢となるのでしょうか。今回は、国内外の最新の研究から、その可能性について探っていきます。

【テレダーマトロジーとは?皮膚科領域での遠隔医療の活用】

テレダーマトロジーとは、皮膚科領域における遠隔医療のことを指します。具体的には、ビデオ通話やオンラインプラットフォームを活用し、患者さんと医療従事者が直接会わずにコミュニケーションを取る診療方法です。

COVID-19の流行により、感染リスクを避けるためにテレダーマトロジーの導入が加速しました。実際に、多くの皮膚科クリニックでオンライン診療が取り入れられるようになっています。米国では、遠隔医療の利用が急速に拡大し、皮膚科領域でも積極的に活用されています。

テレダーマトロジーには、同期型(リアルタイムのビデオ通話)と非同期型(写真や情報をやり取りする)の2つのタイプがあります。非同期型は、患者さんが都合の良い時間に症状を報告でき、医師も柔軟に対応できるというメリットがあります。一方、同期型は、リアルタイムのコミュニケーションが可能で、よりスムーズな診療が期待できます。

【慢性皮膚疾患治療におけるテレダーマトロジーの有効性とは】

それでは、慢性的な炎症性皮膚疾患の治療において、テレダーマトロジーはどのような効果が期待できるのでしょうか。

海外の研究では、乾癬やアトピー性皮膚炎の患者さんを対象に、オンライン診療と対面診療を比較したものがいくつか報告されています。それらによると、疾患の重症度やQOL(生活の質)の改善において、オンライン診療は対面診療に劣らない結果が示されました。

例えば、乾癬患者を対象とした米国の研究では、オンライン診療群と対面診療群で、PASI(乾癬の重症度を評価するスコア)やDLQI(皮膚疾患に特化したQOL評価尺度)の改善に有意な差は見られませんでした。また、アトピー性皮膚炎患者を対象とした別の研究でも、オンライン診療群と対面診療群で、症状の改善度に大きな違いはありませんでした。

ただし、これらの結果は慎重に解釈する必要があります。なぜなら、エビデンスレベルがまだ十分とは言えないためです。今後、大規模かつ質の高い研究によるさらなる検証が求められます。

【テレダーマトロジーのメリットと課題】

テレダーマトロジーには、利便性の向上というメリットがあります。患者さんは移動時間や交通費を節約でき、待ち時間も少なくて済みます。特に、遠方に住んでいる患者さんや、仕事や育児で多忙な患者さんにとっては、大きな助けになるでしょう。

また、医療機関側にとっても、効率的な診療が可能になります。対面診療に比べて、1日に診られる患者数を増やせる可能性があります。さらに、医療資源が限られている地域でも、専門医の知見を得られるようになるかもしれません。

一方で、課題もあります。オンライン診療では、皮膚の状態を直接確認できないため、診断の精度が下がる可能性があります。特に、初診の患者さんや、重症度の高い患者さんには、対面診療が適しているでしょう。また、医師と患者さんとの信頼関係の構築が難しいといった指摘もあります。

さらに、高齢者などのデジタルリテラシーが低い患者さんへの対応や、セキュリティの確保など、運用面での課題も残されています。オンライン診療を導入する際は、使いやすいシステムの選定や、十分なサポート体制の整備が欠かせません。

加えて、保険適用の問題もあります。現在、日本では、オンライン診療の保険適用は限定的です。慢性皮膚疾患の治療において、オンライン診療が広く活用されるためには、適切な診療報酬の設定が望まれます。

以上のように、慢性皮膚疾患治療におけるテレダーマトロジーの活用は、利点と課題の両面があります。患者さん一人ひとりのニーズに合わせて、適切な診療方法を選択していくことが大切だと言えるでしょう。

遠隔医療は、医療アクセスの向上や効率化に寄与する可能性を秘めています。今後、エビデンスの蓄積とともに、慢性皮膚疾患患者さんにとってのベストな医療提供体制の構築が期待されます。皮膚科医として、テレダーマトロジーの動向には注目していきたいと思います。

【参考文献】

- Acta Dermato-Venereologica: https://journals.lww.com/joeems/fulltext/2024/05000/is-telemedicine-suitable-forpatients-with.45.aspx

- Journal of Medical Internet Research: https://www.jmir.org/2020/8/e18350/

- JAMA Dermatology: https://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/fullarticle/2765744

- 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00014.html

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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