LGBT法制度「ワースト2位」の日本。理解増進では順位が変わらない理由
元首相秘書官によるLGBT差別発言を発端に、岸田首相は「LGBT理解増進法案」の国会提出へ向けた準備を進めるよう、党幹部に指示したことが報じられている。
2月15日に開催された、LGBTに関する超党派議員連盟の総会でも、5月に開催予定のG7広島サミットまでに、LGBT理解増進法の成立を目指すという方針を確認している。
しかしこの間、法案をめぐる議論は進んでいない。
G7のうち、LGBT差別禁止法や、同性カップルが法的に保障されていないのは日本だけだ。
たとえG7を前に「LGBT理解増進法」を成立させても、「性的マイノリティの権利を保障した」とは言えず、他の6ヵ国と同じレベルに到達したとはみなされない。
1日の参議院予算委員会で、岸田首相は性的マイノリティに関して「私は差別という感覚を持っているとは思っていない」と答弁している。
差別の問題、人権の保障というのは、「理解」や「感覚」などという問題ではない。各国では「理解増進」などとお茶を濁すのではなく、明確に法律で差別を禁止している。
取り残される日本
性的マイノリティの権利保障が著しく遅れている日本。これはG7という枠組みだけでなく、例えばOECD諸国においても言えることだ。
OECD(経済協力開発機構)は、フランスのパリに本部を構える、38ヶ国が加盟する国際機関だ。
▼OECD加盟国
ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フィンランド、スウェーデン、オーストリア、デンマーク、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、アイルランド、チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロヴァキア、エストニア、スロベニア、ラトビア、リトアニア、日本、イギリス、アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、ノルウェー、アイスランド、トルコ、韓国、チリ、イスラエル、コロンビア、コスタリカ
OECDのレポートによると、性的マイノリティをめぐる法整備の状況は、日本は35ヵ国中34位と、「ワースト2位」という現状だ。
実は1999年時点では22位だったところ、2019年時点で34位に落ちている。
以下の図は、1999年から2019年にかけて、OECD諸国で性的マイノリティをめぐる法制度がどれくらい「包摂的」に変化したかを一部比較している。
これは諸外国が性的マイノリティに関する差別をなくすため、さまざまな法整備を進めるなか、日本は「ほとんど何もしなかった」こと、むしろ「かたくなに性的マイノリティをめぐる権利保障の動きを阻害し続けてきた」ことが如実に表れている。
「差別禁止」はスタート地点でしかない
性的マイノリティをめぐって必要な権利保障は、当然「差別の禁止」だけではない。以下の図は、具体的に各国が進めている法整備の一部を表している。日本がいかに対応していないかが一目瞭然だ。
OECDのレポートによると、例えば「差別からの保護」の中にある「雇用及びその他の幅広い分野における性的指向に基づく差別の禁止」という項目は、「低難易度」とされている。
「理解増進」などという項目は、そもそも存在していない。
差別をなくすために政府がすべきことは、差別の責任を「国民の無理解」に押し付け、「理解を増進する」法律をつくることで、ポーズだけを示すことではないからだ。
まず大前提が「差別の禁止」を規定することであり、その上で性の多様性に関する啓発を進めることが当然だ。
当事者との面会はパフォーマンスか
報道によると、LGBT理解増進法案の国会提出について、自民党の閣僚経験者は「今は頭に血が上った状態。しばらく冷却期間を置く必要がある」と語り、党内では統一地方選が終わった4月末以降に議論をはじめるべきだという声があるという。
ただでさえ「理解増進法案」ではG7各国の水準には到底およばず、性的マイノリティをめぐる法整備を進めたとは言えない状況だ。たとえ「冷却期間」を置いたとしても、5月のG7広島サミットの議長国として再度国際的な注目が集まり、この間の「成果」が検証されるだろう。
岸田首相は2月17日に、性的マイノリティの当事者らと面会している。これがただのパフォーマンスでしかなかったのかが問われている。