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G7で「LGBTQの権利保障」ないのは日本だけ。G7広島サミット「議長国」としての開催資格あるか

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
性的マイノリティに関するG7各国の主要な法律状況(筆者作成)

G7広島サミットが5月に予定されている。

昨年はドイツでG7エルマウサミットが開催された。岸田首相もその一員として参加する中、首脳宣言では、性的マイノリティも含めた「誰もが差別や暴力から保護されること」への「完全なコミットメントの再確認」が示された。

しかし、日本では2021年に性的指向や性自認について「理解」を促進するという「LGBT理解増進法案」が国会に提出される予定だったが、事実上の廃案となっている。

G7各国のうち、性的マイノリティに関する差別禁止法や、同性カップルの法的保障などがないのは今や日本だけだ。果たしてそんな日本が「議長国」として、G7サミットを開催する資格があるのだろうか。

差別からの保護へ「完全なコミットメント」

G7サミットとは、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7ヵ国とEUの首脳が集う国際会議だ。毎年持ち回りで開催され、今年は日本が議長国になる。

サミットは5月19日から3日間、広島で開催される。ジェンダーやセクシュアリティに関しては、G7首脳会議だけでなく、「G7男女共同参画・女性活躍担当大臣会合」が6月に栃木県日光市で開催される予定だ。

G7広島サミット公式WEBサイトのスクリーンショット(筆者撮影)
G7広島サミット公式WEBサイトのスクリーンショット(筆者撮影)

昨年6月末には、ドイツでG7エルマウサミットが開催された。首脳宣言では「ジェンダー平等」の項目において、性的マイノリティも含めた「差別や暴力からの保護」などが明記されている。

「我々は、女性と男性、トランスジェンダーおよびノンバイナリーの人々の間の平等を実現することに持続的に焦点を当て、性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、誰もが同じ機会を得て、差別や暴力から保護されることを確保することへの我々の完全なコミットメントを再確認する。」

「我々は、あらゆる多様性をもつ女性および女児、そしてLGBTIQ+の人々の政治、経済および、その他社会のあらゆる分野への、完全かつ平等で意義ある参加を確保し、すべての政策分野に一貫してジェンダー平等を主流化させることを追求する。」

「トランスジェンダーおよびノンバイナリー」、また「性自認、性的指向」という言葉が明確に述べられ、「差別や暴力から保護される」ことへの「完全なコミットメント」が示されている。

しかし、「国際公約」ともいうべき首脳宣言を出しておきながら、国内において、日本政府はLGBT差別禁止法をはじめ、一向に性的マイノリティの権利保障を進めようとはしない。差別や暴力からの保護について「コミットメント」できていないことは明らかだ。

さらに、首脳宣言では、「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)」について、以下のように強調している。

「すべての個人の包括的なSRHRを達成することへの、完全なコミットメントを再確認」

「ジェンダー平等ならびに、女性および女児のエンパワーメントにおいて、また、性的指向および性自認を含む多様性を支援する上ではたす、不可欠かつ変革的な役割を認識する」

「性同一性障害特例法」によって、日本でもトランスジェンダー等の当事者は、法律上の性別を変更することができる。しかし、その要件の中には、「未成年の子どもがいないこと」「結婚していないこと」「生殖能力をなくすこと」など、「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)」の観点からも大きな問題がある要件が残っている。

G7で「LGBTQの権利保障」ないのは日本だけ

性的マイノリティに関するG7各国の主要な法律状況(筆者作成)
性的マイノリティに関するG7各国の主要な法律状況(筆者作成)

性的マイノリティをめぐる、G7各国の主要な法律状況を見てみると、LGBT差別禁止法や、同性カップルの法的保障がなく、法的性別変更について人権侵害とも言えるような、著しく“厳しい”要件が残っているのは、今や日本だけだ。

本来は性的指向や性自認に関する「差別的取扱いを禁止」する法律が必要だが、2021年には「LGBT理解増進法案」が超党派の国会議員連盟で合意されたにもかかわらず、自民党内の強硬な反対により国会に提出されなかった。

昨年、自民党議員の大多数が参加する神道政治連盟国会議員懇談会で、「同性愛は精神疾患で依存症」「LGBTの自殺率が高いのは本人が悩みを抱えているせい」といった趣旨の内容が書かれた「LGBT差別冊子」が配布されたことも記憶に新しい。

旧統一教会との関係も含め、宗教右派と政治の繋がりが、性的マイノリティの権利保障を阻害している点が改めて浮き彫りになった。

さらに、昨年8月は第2次岸田改造内閣の人事が発表され、「LGBTは生産性がない」「男女平等は絶対に実現し得ない反道徳の妄想」など、さまざまな差別・問題発言を繰り返してきた杉田水脈氏が総務大臣政務官に任命された。

多くの批判を受け、12月末には事実上の更迭となったとは言え、岸田首相によるこの人事自体が、G7エルマウサミットで出された、性的マイノリティの「差別や暴力からの保護」に「コミットメント」する気がないことを如実に表している。

今すぐ法整備を

このような現状で、果たして日本はG7サミットを議長国として迎えられるのだろうか。

昨年10月に小倉将信・男女共同参画担当相は、「男女平等だけでなく、性的マイノリティーのみなさん方の権利も、我が国としてしっかり守っていくと発信できるG7にしていきたい」と発言している。

一方で、1月4日に公開されたG7広島サミットに対する岸田首相のメッセージ動画では、経済安全保障、気候変動、保健、開発といった点が触れられるなか、「ジェンダー」という言葉すら出てこなかった。

LGBT差別禁止法や婚姻の平等は、もはやG7だけでなく、国際的なスタンダードになりつつあると言える。

ILO(国際労働機関)によると、雇用領域における性的指向や性自認等にもとづく差別を禁止している国は、世界80ヵ国以上にのぼる。婚姻の平等(同性婚)を実現した国は、33ヵ国だ。

TGEUによると、欧州や中央アジアのうち、法的性別変更の要件に「不妊要件」がない国は28ヵ国にのぼる。欧州以外の国でも要件を撤廃する国が増えつつある。

宗教右派と保守派議員の繋がりが、ジェンダー平等や性的マイノリティの権利を阻害している現状で、「LGBT理解増進法案」という骨抜きの法案でさえ国会に提出できない。そんな日本が議長国としてG7サミットを開催し、ジェンダーやセクシュアリティについて議論をリードする資格があるのだろうか。

もちろんG7各国においても性的マイノリティをめぐる課題は山積している。しかし、国際社会も、G7の一員である日本がこんな状況にあるとは想定していないだろう。

議長国である日本の現状が知られたとき、国際社会からどのような視線が向けられるかは明らかではないだろうか。そのような事態を招きたくないのであれば、政府はG7に向けて、迅速に国内の法整備を進めるべきだ。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、GQやHuffPost、現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など

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