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どん底に落ちた女子アナ役で絶叫や挙動不審。清楚系・深川麻衣が振り切ったコメディ演技に込めるものは?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
テレビ東京提供

MEGUMIが企画とプロデュースを手掛け、業界あるあるが盛り込まれたドラマ『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』。人気女子アナから不倫報道でどん底に落ちて、カリスマを目指す役で深川麻衣が主演している。清楚なイメージから、今年は『特捜9』の刑事役など幅を広げているが、コメディ演技も初挑戦。滑稽な行動や唐突な絶叫で笑わせてくれている。その裏の取り組みとは?

ぶっ飛んだ一面がある役はやり甲斐があって

――『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』の話は、深川さんには最初どういう形で来たんですか?

深川 方向性などが書かれた企画書とプロットをいただいて、その時点から「テレ東さんがまた面白いドラマを作るんだな」と、半分視聴者目線でワクワクしました(笑)。MEGUMIさんプロデュースで、美容の情報や現代のSNS事情、芸能界あるあるが詰まっていて。今までありそうでなかったドラマだと思いました。

――人気アナウンサーから不倫でどん底に落ちた壱子役も、演じ甲斐がありました?

深川 一見真面目で、実はぶっ飛んだ一面のある役で、振り切った表現も多くて(笑)。話のテンポも速い中、やり甲斐はすごくありました。

――今まであまりやったことがないような役ですかね?

深川 そうですね。ほんのりコメディな作品は、同じ太田(勇)監督の『ダメな男じゃダメですか?』などがありましたけど、テンション含め、ここまで振り切っているのは初めてかもしれません。出演者の皆さんもユーモアたっぷりで、撮影が楽しくて。かもめんたるの(岩崎)う大さんが監督の5話では、ちょっとコントをしているような感覚があったり。でも、コミカルな台詞の裏に深いメッセージが込められてもいて、そのバランスが面白いドラマだと思います。

恥ずかしがってやっていたらダメだから

――コメディのスイッチみたいなものは、深川さんの中にあったわけですか?

深川 わかりませんけど、何人かの方から「コメディいけるね」という言葉をいただいて、純粋に嬉しかったです。脚本がとても面白いので、映像にしたとき、自分が感じた面白さをちゃんと形にしたくて、毎日模索していました。コメディを恥ずかしがってやっていたら、観ている人にわかってしまうので、思い切り振り切ろうという気持ちです。

――コメディを観るのは好きなんですか?

深川 気楽に観られて笑える番組はいいですね。好きなバラエティやコント番組は録画して、お休みの日に一気に観たりしています。『イチ子』は放送が深夜で、仕事や学校から疲れて帰ってきた方の息抜きになったら、最高に嬉しいです。

――1話では、二本指が歩くような“二の足ダンス”が面白かったです。

深川 あれは台本になくて、アドリブだったんです。「二の足」という言葉に絡めて思いつきました。全部カットされるか、すぐ切られちゃうかなと思ったら、放送で意外と長く使ってくださっていて驚きました(笑)。

――深川さんが自分で考えたんですね。

深川 はい。自由度が高い脚本なので、毎シーンどんなことができるか考えるのは楽しくて。出演者の皆さんの面白いアドリブも入って、撮影中に笑いを我慢するのが大変でした(笑)。

日常生活にない叫びやツッコミが新鮮です

――裁判所で「人間だものーーー!」と絶叫するシーンは、それこそ振り切った感じですか?

深川 どこまでやっていいのか、足りてないのか、監督と話しながら表現を調節していきました。テンポ良くサクサク進んでいくので、壱子の喜怒哀楽がハッキリしていたほうがいいかなと思って。

――自分の殻を破るようなところも?

深川 「破るぞ!」みたいな感覚はないですけど、私はコメディの経験が少ないので。受け身のリアクションでなくて誰かにツッコむとき、どういう言い方をすればいいか、う大さんに細かく教えていただきました。お手本を見せてくださるのが面白すぎて、どうにか追いつきたい気持ちでした。

――2話ではカバンから顔だけ出して、不倫相手と話すシーンもありました。

深川 日常ではなかなかないシチュエーションですね(笑)。スタイリストさんが持っているような大きなカバンに、丸まって入りました。壱子本人は至って真剣ですけど、外から客観的に見たら滑稽で「何をやっているんだろう?」みたいな(笑)。

――新しい自分も発見できました?

深川 ドラマ全体に、MEGUMIさんを始めスタッフ陣の遊び心が詰まっているんです。画角も普通のドラマにない横長のシネマサイズだったり、色味やトーンもとてもこだわって練られていて。その中で最大限できることは何か、すごく考えました。壱子は声を張るシーンが多かったり、心情の表現の仕方がすごく新鮮で、今までの作品ではなかったものに出会えたと思います。

出世に向けて突き進むガッツは尊敬します

――一方で、このドラマにはMEGUMIさんらの実体験が織り込まれているとか。深川さん自身は炎上とは無縁のようですが、リアリティを感じるところもありますか?

深川 身近なSNSのツールがたくさん出てくるんです。ツイッター、インスタグラム、YouTube……。壱子はSNSでバッシングを受けながら、自分がカリスマになるために活用しているのもSNS。そういう描かれ方に、共感してもらえるポイントは多い気がします。

――何かでしくじったら一斉に叩かれるところも?

深川 壱子の状況は特にそうですよね。現実でもあり得ることだと思います。一度の思いもよらない失敗で、華やかな世界からどん底に落ちてしまう。そんな怖さもコメディタッチで描かれています。でも、壱子はどんなときも、努力してきた自分自身を信じていて。パワフルで前向きだから、勇気をもらえます。

――MEGUMIさんが演じる美容のカリスマ社長・不美は、ネット番組でガチガチの台本を作っていたり、イメージを保つセルフプロデュースをしています。深川さんの好感度の高さは自然に生まれたものかと思いますが、落とさないように意識していることもありますか?

深川 好感度が高いとも感じていませんし、万人に好かれるのは無理かなと思います。自分がされたり言われたらイヤなことは、絶対に人にしない、言わない。それを気をつけているだけですね。SNSでも普段の人間関係でも。

――イメージ的には深川さんは穏やかでガツガツしないタイプに見えますが、壱子のアナウンサー時代からの出世欲はわかりますか?

深川 目標に向かって突き進みたい気持ちは、すごく共感できます。壱子は日本人には珍しいくらい、言動がストレート。目標や夢に向けた人生設計を立てて、一番近道で進もうとする。そういうガッツが長所ですけど、傍から見て不快に思う人もいて。

――それで上司に不倫をリークされました。

深川 出世に向けた真っすぐさが、媚びを売っているようにも見えたり。でも、私は自分が演じたからかもしれませんが、壱子は潔くて自尊心もあって、尊敬するところが多いです。あんな崖っぷちに立たされても、光を見失わない。新たな目標を見つけて、一心不乱に突き進んでいく。その前向きさを見習いたいなと思いました。

心が折れそうになることは多いです

――深川さんには壱子のような人生の設計図はありますか?

深川 ざっくりとしかなくて、緻密には考えていません。「こんなお仕事をしたい」「こういう監督さんとご一緒したい」といった夢や目標はたくさんありますけど、将来の設計から逆算する感覚はあまりなくて。逆に、「今いただいているお仕事と向き合い続けた先に、自分のやりたいことや理想の未来に近づけたらいいな」という思考パターンです。目の前のことを真剣に頑張らなければ先に繋がらないと、ずっと思っているので。

――壱子みたいにどん底に落ちた経験はないですよね?

深川 仕事を辞めるとか社会的に抹殺されるようなことは、今のところ、ないです(笑)。でも、心が折れそうになったことはたくさんあります。

――そこから這い上がるために何かしたりも?

深川 悩むべきことはとことん悩みます。落ち込み続けても仕方ないことは、とらわれていたら苦しい時間が続くだけなので、気分転換をしたり、自分なりにスイッチを切り替えます。

ゲームをやって気づくと7時間経っていて(笑)

――このドラマはそもそも、壱子が「カリスマになると決めた」と言い出すところからおかしいですが、カリスマってどんなイメージですか?

深川 リスペクトできて、つい追い掛けてしまう人ですかね。「これから先どんなことをしてくれるんだろう?」と動向が注目される存在、というイメージです。

――具体的にいますか?

深川 お仕事で出会う方々、カリスマだらけです。今回のドラマでも、MEGUMIさんを始め、そうでした。常に遊び心を持ってアンテナを張って、仕事に向き合っている方は尊敬します。

――カリスマはなろうとしてなれるものですかね?

深川 自己プロデュースがすごくうまい方なら、もしかしたら登っていけるのかもしれませんね。でも、やっぱり自称ではなくて、人からリスペクトされて自然になっていくものだと思います。壱子は詰んで、ゼロでなくマイナスからのスタートで、なろうとしていますけど(笑)。

――壱子は不美のネット番組から復帰しました。深川さんはYouTubeで観ている動画チャンネルはありますか?

深川 あります。狩野英孝さんのツッコミが入るゲーム実況が面白くて、よく観ています。あと、マッサージやストレッチの動画を観たりしますね。

――深川さんはゲーマーなんでしたっけ?

深川 自粛期間中に流行っていた『あつ森(あつまれ どうぶつの森)』はやっていました。でも、自分でゲームはあまりしません。ハマるのが怖いんです。一度、アプリの戦うゲームにハマって休みの日にやっていたら、気づくと7時間経っていたことがあって(笑)。だから、手を出さないようにしています。

学びの1年という感じでした

――今年は連ドラで週刊誌記者や刑事を演じたり、ホラーサスペンスの『サワコ-それは、果てしなき復讐-』で準主役を務めたり、女優活動は充実していますね。

深川 いろいろな役に出会えて楽しかったです。『イチ子』もそうですけど、今まで関わってなかったジャンルや役柄が多くて刺激になりました。学びの1年という感じです。

――ちょっと早いですが、年末年始に恒例ですることはありますか?

深川 実家に帰れたときは、お節やお雑煮を食べたり、初詣をしたり、月並みな過ごし方をしています(笑)。今年は友だちと「年末にプチ旅行をしたいね」と話していて。久しぶりに自然の中か温泉で、ゆったりできたらいいなと思っています。

テンカラット提供
テンカラット提供

Profile

深川麻衣(ふかがわ・まい)

1991年3月29日生まれ、静岡県出身。

2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格。2016年に卒業して、本格的な女優活動を開始。主な出演作は、映画『パンとバスと2度目のハツコイ』、『愛がなんだ』、『僕と彼女とラリーと』、『今はちょっと、ついてないだけ』、ドラマ『まんぷく』、『日本ボロ宿紀行』、『青天を衝け』、『特捜9 season5』など。ドラマ『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』(テレビ東京系)、『サワコ-それは、果てなき復讐-』(BS-TBS)に出演中。

ドラマチューズ!『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』

出演/深川麻衣、MEGUMI、野村周平、サーヤ(ラランド)、藤森慎吾ほか

テレビ東京/火曜24:30~ほか

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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