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ヤンキースは新たな黄金時代を迎えようとしているのか

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ヤンキースの急成長若手選手の象徴的存在になったアーロン・ジャッジ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ヤンキースにとって2017年は、凄まじい急成長を遂げたシーズンとなった。アストロズとのリーグ優勝決定シリーズで最終第7戦までもつれる死闘を演じた末、8年ぶりのワールドシリーズ進出を逃したものの、ポストシーズンでは大黒柱の活躍をみせた田中将大投手はメディアに対し、以下のように今シーズンを振り返っている。

 「開幕前は到底ここまで進めるチームだとは思われていなかったですけど、しっかり自分たちが成長できた。チームがどんどんよくなって、ここまで進むことができた」

 昨シーズン中盤でチーム戦略を刷新し、アレックス・ロドリゲス選手を始めとする高額主力選手たちを次々に放出し、若手有望選手に出場の場を与えた。これまでは毎年のようにMLBトップクラスの年俸総額を支払ってきたが、今シーズンは若手主体に切り替えたこともあり、課徴金(ぜいたく税)上限額の1億9500万ドル(約215億円)をはるかに下回る1億7000万ドルまで抑えていた。田中投手が指摘するように、戦前の予想はポストシーズンを争えるようなチームだとは思われていなかった。

 しかし今シーズンの若手有望選手の象徴的な存在となったアーロン・ジャッジ選手を中心に、主力として起用された若手選手たちが皆急成長を遂げた。野手ではジャッジ選手以外にもゲイリー・サンチェス選手、ディディ・グリゴリアス選手、ロナルド・トレイエス選手、また投手陣もルイス・セベリノ投手、ジョーダン・モンゴメリー投手──と、1990年代生まれの選手たちが主力にのし上がった。グリゴリアス選手以外、すべてマイナー組織で育成してきた生え抜きばかりだった。

 1995年から13年連続ポストシーズン出場を続け、ワールドシリーズに6度進出しそのうち4度の世界制覇を達成したヤンキースは、数々の栄光に包まれたチーム史上の中でも特筆すべき黄金時代を築き上げることに成功した。当時もバーニー・ウィリアムス選手、アンディ・ペティット投手、デレック・ジーター選手、マリアノ・リベラ投手、ホルヘ・ポサダ選手──と、次々に若手生え抜き選手たちが台頭し、彼らがチームの中心となり黄金時代を支え続けた。2017年のヤンキースは、まさに当時の創生期とよく似ている。

 だが今回のヤンキースの潜在能力はそれだけに留まらない。先日ヤンキースとは別の2チームでメジャー組織とマイナー組織で働く2人の日本人スタッフが一時帰国し久々に旧交を温めた際、両者が口を揃えて以下のように話してくれた。

 「ヤンキースは当面安泰だと思います。マイナーもめちゃめちゃ選手が揃ってるんです」

 改めて確認すると、ヤンキースの3Aスクラントン、2Aトレントンといずれも今シーズンは地区優勝を飾っていた。しかも3Aはチーム打率、チーム防御率ともリーグ1位。さらに2Aもチーム打率がリーグ3位、チーム防御率も同1位と投打ともに有望な若手選手が揃っているのだ。彼らのうち40人枠に入っていたタイラー・ウェイド選手やタイラー・オースティン選手らはロースター拡大後にメジャー昇格も経験しているし、それ以外にも20台前半の若手有望選手たちが虎視眈々と40人枠入りを狙っている状況だ。

 説明するまでもなく、ヤンキースにはMLB屈指の潤沢な資金力もある。現在の若手選手たちがFA資格を得たとしてもも、チームにとって必要な選手なら高額契約で引き留めることが可能だし、緊急補強が必要な場合でも若手マイナー選手を利用して高額大物選手たちをトレードで緊急補強することも可能なのだ。チームとしての伸びしろはまだまだ計り知れないものがあると断言していいだろう。

 大物FA選手を高額契約で集めるイメージが強いヤンキースだが、これまで何度となく黄金時代を築き上げてきた裏には必ず生え抜きの主力選手の存在があった。有望選手をしっかり育成することも、名門ヤンキースを支えてきた伝統なのだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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