収穫期を迎え、危機感増す生産者たち。支援を続ける直販サイトと、現地の声
元に戻るまでは数年…。余剰農産物に対し、農水省の支援も
緊急事態宣言が解除され、日常が戻りつつあるが、新型コロナの影響によるダメージは、様々な業界で長期化しそうな見込みである。とりわけ飲食店の危機については様々なメディアで取り上げられ目にしてきたが、それを支える生産者や取次業者では、スーパーや小売りの好調を受けて思わぬ利益を得た企業がある一方で、このままでは廃業を免れないという危機にある企業や生産者もいまだ少なくない。
そうした生産者を支援する目的で、廃棄の危機にある産物を直接消費者が購入できるようなネット販売サイトが今年3月頃からいくつか立ち上がっている。その中のひとつが、「たべまる~食卓から応援!食べてつなげよう支援の輪~(以下、「たべまる」)」。同サイトの運営人の一人、株式会社リトルワールドの荒金貴裕さんは、農林水産業の6次産業化支援を行う「チーム・シェフ」の活動の中で1000商品以上の生産者やメーカーとつながりがあり、新型コロナによって困っているという声が多く寄せられたことから、同サイトを立ち上げた。「モノの流れが、この数ヵ月でガラっと変わってしまいました。外食、 宿泊施設や土産屋、 商業施設、イベントや催事、 学校給食関係が取引先だった食材や商品は販路を失い、営業活動もしにくく、元の状態に戻るには数年かかると予想されます。そこで、できるだけ多く生産者に還元できる座組みでこのサイトを立ち上げました。当初は半年くらいの予定でしたが、少なくとも年内、あるいはもっと長期的に生産者支援に取り組んでいきたいと考えています」(荒金氏)。
国産農林水産物の余剰在庫が発生している現状を受け、農林水産省でも、5月末より「国産農林水産物等販売促進緊急対策」をスタート。指定する品目に対して、1.インターネット販売促進事業、2.食育等推進事業、3.農林水産物の販路の多角化事業、4.地域の創意による販売促進事業、の4つの柱で、支援を行っていく方針だ。このうち1の取り組みでは、特定のインターネット販売サイト(「たべまる」を含む6社)で消費者が指定生産物を購入した場合、配送費を国が負担してくれるのだが、その対象となる品目は、「牛肉」、「野菜・果物」、「水産物」、「茶」、「花き」でわずか12品にとどまる。例えば「野菜・果物」では、メロン、イチゴ、マンゴーの3品で、野菜は含まれない。「たべまる」に掲載されている60品目で見ても、該当するのはわずか3品だ。
西表島の名産品「ピーチパイン」の余剰在庫が、1日200~300玉
今回、「たべまる」に出品している生産者に話を聞くことができた。
沖縄・西表島のパイナップル農家「アララガマ農園」。創業者の池村英勝さんは、1980年代、それまで主流だった大型のハワイ種のパイナップルから、小ぶりだが沖縄品種のピーチパインの生産に舵を切り、西表島にピーチパインの栽培を広めた第一人者でもある。2代目の海仁さんは、4年ほど前からこのピーチパインを県の特産品として積極的に営業をスタート。その結果、沖縄本島のホテルや土産物店をはじめ、都内の百貨店やレストランなどにも卸すようになり、その品質はプロの認めるところとなった。だが今年は3月以降、卸先からのキャンセルが相次ぎ、約2000~3000万円の減収となる見込みだという。
主力商品であるパイナップルは、3月から7月に収穫期を迎え、6月の今がちょうど折り返し地点。パイナップルは20万玉、マンゴーは1万3000玉を栽培しているが、6月現在でピーチパインは1日200~300玉の余剰在庫が発生。ハワイ種のパイナップルは2万玉、マンゴーは約5000玉が行き場を失ってしまう見込みだ。「さらに、船や飛行機の減便で、これまで内地まで中2日で届いていたのが、中5日くらいになってしまっているのです。うちのパインは、完全に熟してから収穫し、その日のうちに発送するのがこだわりですが、配送の遅れを考慮して収穫のタイミングも見直さなくてはならず、さらなる負担が生じています」(池村さん)。
「アララガマ農園」では、2年かけてパイナップルを育て、1つの苗木から収穫できるのは1玉のみ。今年は勝負の年と見込んで栽培量を5万玉ほど増やしていたところに、新型コロナ危機に見舞われた。「6月末頃から、沖縄にも徐々に観光客が戻ってくるのではという見込みもありますが、果物は熟すのを待ってはくれない。毎日、行き場のないパイナップルやマンゴーが大量に出てしまうのがつらい」と池村さんは漏らす。
一番茶の価格は下落。2番茶以降も厳しく、商談も中止に…
静岡・袋井の「まるご安間製茶」。生産者の安間孝介さんは、結婚を機に妻の実家であるお茶農家の仕事を始めて、今年で7年目。近年、低迷していたお茶の価格の下落に加え、今年は静岡県の降雨量が少なかったことによる収量の低下や、新型コロナの影響により厳しい状況を迎えている。すでに製造を終えた一番茶は市場でも思うような値が付かず、売上は昨年度の2~3割減となる見込み。これから製造が開始される二番茶以降も大きく落ち込むことが予想される。さらに、本来ならば夏以降、お茶に関連するコンテストやイベント、商談会などが行われるはずだったが、今年はすべて中止が決定しており、貴重な直接販売の機会も失われてしまう見込みだ。「近年はお茶の保存技術が進み、茶商も在庫をたくさん抱えている状態なので、茶商への卸も厳しい。さらに、予定していたホテルや飲食店への卸も消えてしまった。今年はお茶の出来がいいだけに、とても残念です」(安間さん)。
「まるご安間製茶」では、5月末に専用のオンラインショップを立ち上げ、パッケージにアマビエを描いた一番茶などを販売。直販の強化を図ってはいるものの、独自に研究して商品化した白い葉のお茶「白葉茶」といった自信作の高級茶ほど売れ残ってしまっているという。さらに新型コロナは、深刻化する茶農家の高齢化・後継者不足問題にも、さらに追い打ちをかけている。「静岡県内でも、急須でお茶を飲むような習慣が薄れていると感じています。新型コロナで心が疲れてしまっている人も多いと思うので、美味しいお茶を飲んでほっとリラックスする時間を楽しんでもらえたら嬉しいです」(安間さん)。
生鮮品に比べると売れにくい…。加工品の状況も深刻化
すでに在庫を抱えてしまっている生産者だけでなく、これから先訪れるであろう危機に頭を抱える生産者もいる。さくらんぼ狩りがメインの観光農園「大橋さくらんぼ園」(北海道・芦別)では、さくらんぼ狩りの時期(7~8月)に訪れる15,000人~20,000人のうち、約5割は海外から、1割は本州からの来園者。そのため、最悪の場合、約10tのさくらんぼが廃棄されてしまう可能性があるという。
また、これら農林水産物だけでなく、加工品も深刻な状況にある。「加工品にも賞味期限があるのですが、生もので傷みやすいイメージのある生鮮品に比べると(消費者に)選ばれにくい傾向があり、販売の難しさを感じています」(荒金さん)。「たべまる」でも、予定数を完売して出店を終了した生産者がいる一方で、まだまだ在庫を抱えている生産者も少なくない。国内の農林水産業が衰退してしまうと、食料自給率のさらなる低下を招くなど、その影響は計り知れない。多くの人が日常生活に戻りつつある中で、私たちの食を支える生産者がいまだ危機的状況にあることを改めて見つめ直し、日々の食事に少しでも取り入れることが、大きな救いの力になると信じたい。