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爪は単なる付属物ではなく、全身の健康状態を反映する大切な器官

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

爪は皮膚の一部であり、皮膚科医が診察する対象ですが、実は全身の健康状態を反映する重要な器官でもあります。しかし、残念ながら多くの皮膚科医が爪疾患の診断と治療に自信を持てていないのが現状です。

爪疾患の診断と治療が難しい理由の一つに、爪が皮膚科、整形外科、内科、足病医学など、複数の診療科にまたがる器官であることが挙げられます。そのため、各科の視点が偏りがちで、爪疾患の病態生理を総合的に理解することが難しくなっているのです。

また、爪白癬(つめはくせん)のように、治療法が確立されていない、あるいは治療費が高額になる爪疾患も存在します。このような疾患に対して、医師が適切に対応できていない可能性があります。

【爪疾患の原因は感染症だけではない】

爪疾患の原因として真っ先に思い浮かぶのは、白癬菌などの感染症ですが、それだけではありません。

爪は、皮膚病(乾癬、扁平苔癬など)、指や関節の異常、神経障害など、さまざまな病態の影響を受けます。特に足の爪は、外反母趾(がいはんぼし)などの足の変形によって、力学的ストレスを受けて爪の変形を来たすことがあります。

また、レイノー症候群や末梢血管障害、その他の全身疾患も爪の健康に影響を与えることが知られていますが、これらは見逃されがちです。

爪疾患の多くは、複数の要因が絡み合って発症するのであって、単一の原因で起こることは稀だと言えるでしょう。

【爪疾患へのアプローチ~各科の垣根を越えた連携を~】

爪疾患の診療レベル向上のためには、各科の垣根を越えた専門家チームによる診療が有効だと考えられます。

現在、一部の大学病院の皮膚科には爪専門外来がありますが、足病医学科、血管外科、放射線科、整形外科(手の外科)などの専門家が同じ場所で診療する体制は整っていません。

診療報酬が低いことなどが障壁となっているのは確かですが、各科の専門家が一堂に会して患者さんについて討議することで、爪疾患の病態がより深く理解できるはずです。さらに、爪疾患に特化した研修プログラムを整備することで、爪疾患の教育と研究が発展していくことが期待されます。

これからの爪疾患診療には、従来の「感染症 vs 変形」という二分法的な考え方から脱却し、全身を見渡す多角的なアプローチが求められています。皮膚科医が中心となって、各科の専門家と連携しながら、爪という小さな器官に隠された病態の全容解明に取り組んでいきたいと思います。

参考文献:

1. Nails as Dynamic, Not Static, Entities—Rethinking the Approach to Nail Disorders. JAMA Dermatology. Published online April 24, 2024. doi:10.1001/jamadermatol.2024.0400

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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