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エンカーナシオンが惜しくも逃したメジャーリーグ史上初の快挙――サイクル本塁打

宇根夏樹ベースボール・ライター
エドウィン・エンカーナシオン(トロント・ブルージェイズ)Aug 29, 2015(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

8月は3人の投手がノーヒッターを達成した一方で、2人の打者がメジャーリーグ史上初の本塁打記録に近づいた。

ヨエニス・セスペデス(ニューヨーク・メッツ)は8月21日、エドウィン・エンカーナシオン(トロント・ブルージェイズ)は8月29日に1試合3本塁打を放った。それだけなら、今シーズン8人目と9人目で、彼らが逃した1試合4本塁打はメジャーリーグ記録ながら、過去に16人が成し遂げている。

だが、セスペデスは2打席目にグランドスラム(満塁本塁打)、3打席目にソロ本塁打、4打席目に2ラン本塁打を打ち、エンカーナシオンは1打席目に3ラン本塁打、4打席目に2ラン本塁打、5打席目にグランドスラムを叩き込んだ。セスペデスは3ラン本塁打、エンカーナシオンはソロ本塁打が出れば、史上初の「サイクル本塁打」だった。

サイクル安打が1試合にシングル・ヒット、二塁打、三塁打、本塁打を打つことであるのに対し、サイクル本塁打は1試合にソロ本塁打、2ラン本塁打、3ラン本塁打、グランドスラムを放つことを指す。今シーズンは2人の他、6月21日に田中将大(ニューヨーク・ヤンキース)から2本塁打を打ったJ.D.マルティネス(デトロイト・タイガース)も、サイクル本塁打にリーチをかけた。

ただ、J.D.とセスペデスに記録を作るチャンスはなかった。J.D.は2ラン本塁打、ソロ本塁打、3ラン本塁打を打ったが、アウトに仕留められた2打席を含め、満塁での打席はなし。グランドスラムは打ちようがなかった。3ラン本塁打が必要だったセスペデスも、塁上に2人の走者を置いて打席に立つことはなかった。

その点、エンカーナシオンにはサイクル本塁打のチャンスがあった(これまで1試合3本塁打を記録した選手でチャンスがあったのは、彼が初めてではない。また、J.D.とセスペデスはキャリア初の1試合3本塁打だが、エンカーナシオンは2010年5月21日の試合で3本のソロ本塁打を打っている)。今回、エンカーナシオンはソロ本塁打を打てなかったが、2打席目と3打席目は無走者だった。また、エンカーナシオンは翌日の1打席目に、ソロ本塁打を放った。

1試合4本塁打を記録した16人のなかでは、6人がサイクル本塁打にリーチをかけたが、エンカーナシオンのように足りない本塁打を打てる可能性があったのは、1993年9月7日のマーク・ウィッテンだけだ。ウィッテンはグランドスラム、3ラン本塁打2本、2ラン本塁打を放ち、無走者だった2打席目は三塁ファウルフライに倒れた。

また、メジャーリーグでは皆無ながら、マイナーリーグでサイクル本塁打をやってのけた選手はいる。1998年7月27日に、セントルイス・カーディナルス傘下のAA、アーカンソー・トラベラーズでプレーしていたタイロン・ホーンが、2ラン本塁打、グランドスラム、ソロ本塁打、3ラン本塁打の順に放って達成した。

ホーンが使ったバットはクーパースタウンの殿堂に送られた。けれども、ホーン自身はマイナーリーグで13年間プレーして144本塁打を放ったが、ホール・オブ・フェイマー(殿堂選手)どころか、メジャーリーガーにもなれなかった。現在、ホーンはコーチとして高校生を指導している。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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