米アラスカで観測史上最大の雨量を記録 原因は「大気の河」
1日に6時間程度しか日が昇らない、そんな暗い冬のアラスカ南部に、記録的な大雨が降りました。洪水や土砂崩れが発生し、数名が行方不明になっています。
大雨が降ったのは、州南東部に位置する州都ジュノー周辺部。ジュノーでは1日(火)朝から2日(水)朝にかけての24時間に観測史上最大となる129ミリの雨が降りました。これはかつての記録であった1946年の118ミリを上回る量です。
またペリカンでは24時間で248ミリ、スカグウェイでは136ミリと、こちらも100年以上続く観測史上で最大の値となりました。
ジュノーから150キロ離れたへイネスという2,000人が住む町では、2日(水)土砂崩れが発生しました。30人が避難したものの、2人が行方不明となっています。
過疎地だからの懸念
アラスカ州は全米でもっとも人口密度が低い州です。その状況をたとえるならば、ニューヨークのマンハッタンに28人しか人がいないようなものなのだそうです。
この、およそ「3密」とはかけた離れた環境のおかげで、災害が起きたへイネスには新型コロナウイルスの患者は一人もいないそうです。
しかし救助の手が入ることで、外からウイルスが持ち込まれる可能性があります。このため当局は救助員にPCRテストを行ったり、マスク使用を求めたりするなど、万全の感染対策を行っているようです。
「大気の河」
ところで大雨の原因はなんだったのでしょう。
それは「大気の河」と呼ばれる現象です。「大気の河」とは熱帯地方から流れ込む、長さ数千キロ、幅200~300キロにわたる水蒸気の帯のことです。流れ込む水量は時に世界最大の河川・アマゾン川のそれよりも多く、カナダとアメリカ本土に一年間で40回もやってきては洪水の原因となります。
ただ今回のように、アラスカ州にこれほど大量の水蒸気が流れ込むことは非常に珍しいことです。
変わる「大気の河」
大気の河は世界中で発生します。日本も決して他人事ではありません。今年の梅雨期に九州や中部地方などを中心に襲った記録的な大雨も、インド付近から流れ込む大気の河が大量の水蒸気移流をもたらしたことが一因でした。
近年の気温上昇により、大気の河がもたらす水蒸気量が増加しているという研究があります。それもそのはず、一般に気温が1℃上がると、大気が含むことのできる水蒸気量は7%増えると言われています。
ミステリーの鍵も「大気の河」
大気の河は、40年来の謎とされてきた南極での異変を解くカギとなったようです。
南極では1973年と2017年、氷床に「ポリニャ」と呼ばれる大きな穴が開きました。下の動画がポリニャです。
その原因は長いこと謎とされてきたようですが、つい最近、UAEのカリファ大学が、大気の河が大量の水蒸気や暖気をもたらしたためではないかと発表しました。
ポリニャの発生は、光を反射する白色の氷が解けて、濃い色をした海水が現れるということです。その結果、太陽光が吸収されやすくなり、南極の温度が上昇してしまうのではないかと懸念されています。