北欧社会のタブーを扱う絵本作家グロー・ダーレ、新作は「ポルノを見てしまった子ども」
子どもがパソコンやスマホで、ポルノやエッチな動画をたまたま見てしまったとしたら?
「ポルノを見ることは悪いことではないのよ。男の子も女の子も、たくさんの人が見ているわ。でも、あれは大人向けの演技で、必ずしも恋愛がそうである必要はないのよ」。
ノルウェーで発売された新作の絵本が話題を呼んでいる。『Sesam sesam』(セサム・セサム)は、「子どもがポルノを見ることは危険」で、「ポルノを見るべきではない」と注意喚起しているわけではない。
ポルノを見てしまった。動揺する子どもの心情をテーマとしたこの絵本は、読んだ後に色々と考えさせるものだった。
グロー・ダーレ氏の作品では、どれも明確なひとつの正しい答えや解決策が提示されているわけではない。会話のきっかけとなり、本を閉じた後に、読むものを考えさせる。
ノルウェーの「タブー」を扱うことで有名な絵本作家グロー・ダーレ氏は、これまでも離婚した両親を持つ子ども、母親に暴力をふる父親に怯える子どもを主人公にした作品を発表してきた。
『パパと怒り鬼―話してごらん、だれかに』は日本でも翻訳されている。同作は映画化もされており、筆者もオスロ大学メディア学科で期末試験レポートの題材にしたことがある。
大人と子どもが互いに話しにくいテーマを取り扱い、イラストの多くはカイア・ニーフース氏が担当している。
ノルウェーでは、「セックスに興味があるが、オープンに話せないので、ポルノ作品を参考にしなければいけなかった」という若者の声が目立ち始めている。
『Sesam sesam』を購入しようと筆者がオスロの本屋を訪れると、完売している店舗もあった。同作は、様々な新聞社で批評が掲載されており、その反応はさまざまだ。タブーな話題がテーマなので、絶賛ばかりではない。
絵本を出版しているCappelen Damm出版社に問い合わせ、アンネ・ウステゴール(Anne Ostgaard)氏にメールで質問に答えてもらった。
「子どもとポルノについての絵本は、これまで出版したことはありませんでした。他の出版社からも出ていないのではないでしょうか。ノルウェーではタブーのテーマですから」。
「強姦、育児問題、離婚など、子どもと大人にとって難しいテーマを、グロー・ダーレは勇気をもって、賢い方法で伝えることができます」。
このようなシリーズの絵本はノルウェーではどれほど普通なのでしょうか?
「物議を醸す、難しいテーマを取り扱った絵本は、これまでにもノルウェーにはありました。でも、グロー・ダーレのように、その分野の専門家の協力を受けて、社会のタブーを子どもの目線で切り込むことができた作家はいませんでした」。
「彼女のこれまでの作品は、危機的な状況にいる子どもと働く児童保護施設などから要望があったものばかりです。関係者には必要とされていたテーマばかりで、会話の手助けになります。ダーレこそが書くのにふさわしい人だとされたのです」。
どのような人々に読まれているのでしょうか?
「このテーマを専門とする人々からのリクエストでできた作品ばかりなので、子どもだけではなく、テラピー本として専門家にも使用されています。一部の絵本は、教育や精神医学を教える大学などで教材になっています。大人だけではなく、大きくなった子どもにも読まれています。『Sesam sesam』は、大きな子ども、若者、大人、子どもと働く大人がターゲットです」。
このようなタブーを取り扱う本はノルウェーではよく売れるのですか?
「ノルウェーではよく売れていますよ。時間をかけて売れることが多いので、発売されたばかりの『Sesam sesam』に関しては、まだなんともいえませんが」。
「ただ、残念なことがあるとすれば、絵本を読まずに、子ども向けのポルノ本だと誤解して、ネガティブに反応している人がいることです。ノルウェーでは10才から多くの子どもがすでにポルノを見ているという統計があります。子どもと話して、誤解を解き、理解するためにも、絵本は会話の手助けになります」。
今の子どもはポルノを見ている。だからこそ現実との誤解を区別するためにも話をしよう
グロー・ダーレ氏の言葉が出版社の公式HPに記載されていたので、一部を記載する。
『Sesam sesam』はすでにスウェーデンとデンマークでも販売されており、他の国からも翻訳の問い合わせがきているそうだ。
思いがけず、エッチな動画などをインターネットで見てしまうことは、今の時代は避けることが難しい。その時、動揺する子どもがいたとしたら、大人はなにかできるだろうか。
意見は分かれるだろうが、この絵本は考えて、話すきっかけには確かになるのではと筆者は思った。
『パパと怒り鬼―話してごらん、だれかに』
Text: Asaki Abumi
※写真やイラストはCappelen Damm出版社から許可を得て掲載