「PANDA EXPRESS」日本再上陸に勝算はあるのか?
全米最大のチャイニーズチェーンが日本再上陸
「SHAKE SHACK」「Taco Bell」などアメリカで人気のフードチェーンが、相次いで日本にもオープンして話題を集めているが、今年最大級のフードチェーンがついに日本市場に参入した。それが、1983年に創業しアメリカを中心に世界に約2,000店舗を展開するチャイニーズレストラン「PANDA EXPRESS」である。純然たる中国料理ではなく、アメリカでアレンジされた「アメリカンチャイニーズ」だ。
かつて、PANDA EXPRESSは日本企業へのライセンス供与という形で一度出店し、残念ながら撤退した過去がある。満を持しての日本再進出のパートナーに選んだのは、国内外で「一風堂」などの飲食ブランドを多数展開する「力の源ホールディングス」。運営は力の源ホールディングスの子会社であり、PANDA EXPRESSとの合弁会社である「I&P RUNWAY JAPAN」が手掛ける。(プレスリリース)
これまでもアメリカで人気の外食チェーン店が鳴り物入りで日本進出するも撤退し、数年後に再上陸というケースがあった。ハンバーガーチェーンの「バーガーキング」は1993年に日本に初上陸するも十年足らずで撤退。その後、ロッテリアのグループ会社によって再上陸を果たしている。また、スイーツチェーンの「シナボン」も1999年に初進出したがこちらも十年で撤退。3年後にパートナーを変えて日本再出店をしている。
PANDA EXPRESS日本1号店はラゾーナ川崎
新生PANDA EXPRESS日本1号店は、JR川崎駅直結の大型商業施設「ラゾーナ川崎」のフードコートに11月25日オープンした。本場アメリカでも大型ショッピングセンターへの出店で勢力を伸ばしてきたPANDA EXPRESSだけに、日本有数の集客力を持つラゾーナ川崎へ1号店を出店するのは自然な流れであるように思える。さらに日本で運営する力の源ホールディングスは、豚骨ラーメンのフードコート業態「IPPUDO RAMEN EXPRESS」を展開しており、日本のフードコート事情にも精通している。
開放感のある店舗で目を引くのは、およそ38m2ある店舗スペースの大半を占めるキッチン部分。外からも良く見えるオープンキッチンでは、休むことなく鍋が振られて出来立ての料理が次々とスチームカウンターに補充されていく。その場で作っているというライブ感と共に、フードコート全体にまで届きそうな調理の音、そして香り。目の前で作られた出来立てのものを、湯気が冷めないうちに食べられる。このライブ感こそがPANDA EXPRESS最大の武器である。
デリスタイルで9種類の主菜と5種類の主食の中から好みのものを選んで、容器に入れて貰うシステム。これまで日本にはカジュアルなスタイルの中国料理はほとんど無かったので、一見目新しいスタイルのようにも見えるが、このオーダーシステム自体はバフェテリアスタイルのレストランなどですでに日本人には馴染みがある上、「オリジン弁当」などのセルフスタイルでの導入例もあるのでスムーズに受け入れられるだろうし、「プレート」と呼ばれる専用の容器に入った料理の見た目は、日本の弁当さながらでこちらも違和感がない。また、テイクアウトする場合には紙製のボックスになるが、そのボックスで食べるスタイルも若い人を中心に受けそうだ。
メニューはアメリカ流にアレンジされた「アメリカンチャイニーズ」。アメリカでも不動の一番人気を誇るメニュー「オレンジチキン」は、甘辛で程よいオレンジの香りがあるソースをチキンに絡めたもの。今回の日本進出にあたって、原則としてレシピやメニュー構成などをアメリカと同じにしているのは、前回進出の際に日本独自のメニューやスタイルで販売して支持を受けられなかったことへの反省もあるだろうが、やはりアメリカで人気の味とスタイルをそのまま提供したいという思いの表れだろう。これによってPANDA EXPRESSを知らない人は本場の味をそのまま楽しめ、アメリカでPANDA EXPRESSに慣れ親しんでいる人や外国人客などは母国の懐かしい味を味わえることになる。
「ローカライズ」のバランスが成功のカギ
オープン初日は行列が途絶えることのない人気を集め、この人気は当分のあいだ続くだろう。その上で今後PANDA EXPRESSが日本で成功するかどうかは、やはり「ローカライズ」がカギになるだろう。ローカライズと言っても、ただ単純に日本人向けの味にするという話ではなく「程よいローカライズ」のバランスこそが最も重要だ。
前回の日本出店時には、これまで日本にあった既存のフードコートスタイルにアジャストしていたこともあり、キッチンから出来立ての料理がショーケースに並べられ、湯気の立った料理をセレクトするというライブ感あるスタイルが欠落していた。さらに、日本独自のメニューを展開したことから、料理そのものも既視感のあるものが多かった。名前こそPANDA EXPRESSであったが、中身はただのフードコート中華であったのだ。
しかし、今回はスタイルもメニューも、調味料はもちろん包材にいたるまでアメリカのものを使っている。日本にいてリアルなアメリカンチャイニーズを体験出来ることこそ、数あるフードチェーンとの差別化におけるアドバンテージになる。そのシステムや演出はアメリカのままで、細かな部分でのローカライズやシーズナルメニューなどのバランス良い導入が必要なのだ。
実際、今回の出店ではその細かなローカライズが行われている。提供する料理の量を日本人に合わせてアメリカよりもやや少なめにしたり、ソフトドリンクなどは日本人が慣れ親しんだブランドも採用している。また、9種類あるメニューのうち1種類は日本限定のメニューになっており、今後も客の反応などをみてフレキシブルに対応していく予定だという。このあたりは日本人の嗜好を熟知した力の源の得意分野だろう。
さらに、今後の出店場所もブランディングはもちろん、さらに店舗展開する上での重要なファクターになるだろう。今回の大型ショッピングセンターへの出店は、幅広く多くの人たちにブランドと味を知ってもらう狙いがあったはずだ。今後は情報感度が高く発信力のある人たちが多く集まる都心部への出店は不可欠であろうし、さらには外資系やIT系企業などへのデリバリーなどのニーズも高まってくるに違いない。
このPANDA EXPRESSのスタイルが成功すれば、例えば中国料理ではなく日本料理であったりフレンチであったり、別ジャンルの料理をデリスタイルで提供したり、ライブ感ある弁当業態など派生型のスタイルが生まれ、日本の外食産業に新たな流れが出来る可能性が高まる。そういう意味でもPANDA EXPRESSの今後に注視していきたい。