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乾癬からアトピーまで!甲状腺機能異常が引き起こす皮膚疾患の真実と最新研究

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【甲状腺と皮膚疾患の深い関係】

今回は、意外と知られていない甲状腺と皮膚疾患の関係について解説します。

甲状腺は首の前側にある蝶々のような形の臓器で、体の代謝を調節する重要なホルモンを分泌しています。一方、皮膚は体の表面を覆う最大の臓器です。一見関係なさそうに思えるこの二つの器官ですが、実は深い関わりがあるのです。

最近の研究で、甲状腺の自己免疫疾患と様々な皮膚の自己免疫疾患に関連があることがわかってきました。自己免疫疾患とは、本来外敵から体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の体の組織を攻撃してしまう病気のことです。

甲状腺の自己免疫疾患として代表的なのが、橋本病(慢性甲状腺炎)とバセドウ病です。橋本病は甲状腺機能低下症を、バセドウ病は甲状腺機能亢進症を引き起こします。これらの疾患と関連が指摘されている主な皮膚疾患には、乾癬、扁平苔癬、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、白斑などがあります。

甲状腺と皮膚の関係が注目される理由の一つに、両者の発生学的な共通点があります。甲状腺と皮膚は、胎児の発達過程で同じ外胚葉という層から発生します。この共通の起源が、免疫システムの反応においても類似性をもたらしているのではないかと考えられています。

【5つの皮膚疾患と甲状腺との関連性】

1. 乾癬:

乾癬は、皮膚の細胞が通常より速く増殖することで、赤い斑点やかさぶたのような症状が現れる病気です。乾癬患者さんでは、甲状腺機能低下症や甲状腺自己抗体が一般の方より多く見られることがわかっています。特に、乾癬性関節炎を伴う患者さんでは、その傾向がより顕著です。

乾癬と甲状腺疾患の関連性については、炎症を引き起こす免疫細胞であるTh1細胞やTh17細胞の働きが両疾患で重要な役割を果たしていることが指摘されています。また、IL-23受容体遺伝子の変異が、乾癬と橋本病の両方のリスクを高めることも分かってきました。

2. 扁平苔癬:

口の中や皮膚に白っぽい網目状の模様ができる病気です。扁平苔癬の患者さんでは、橋本病の発症率が一般の方より高いことが報告されています。特に、口腔内扁平苔癬の患者さんで、その傾向が強いようです。

扁平苔癬と甲状腺疾患の関連性については、両疾患でT細胞を介した免疫反応が重要な役割を果たしていることが分かっています。また、ストレスや環境因子も両疾患の発症や悪化に関与している可能性があります。

3. アトピー性皮膚炎:

かゆみを伴う慢性的な皮膚の炎症性疾患です。アトピー性皮膚炎の子どもたちでは、甲状腺自己抗体が検出される割合が高いという研究結果があります。特に、IgE(免疫グロブリンE)が高値の患者さんで、その傾向が強いようです。

アトピー性皮膚炎と甲状腺疾患の関連性については、Th2細胞を中心とした免疫反応が両疾患で重要な役割を果たしていることが指摘されています。また、ビタミンD不足が両疾患のリスクを高める可能性も示唆されています。

4. 円形脱毛症:

突然、円形や楕円形の脱毛が起こる病気です。円形脱毛症の患者さんでは、甲状腺機能異常や甲状腺自己抗体が見つかる確率が高いことがわかっています。特に、広範囲の脱毛を伴う重症例でその傾向が強いようです。

円形脱毛症と甲状腺疾患の関連性については、両疾患でTh1細胞を介した免疫反応が重要な役割を果たしていることが分かっています。また、CTLA-4遺伝子の変異が両疾患のリスクを高めることも報告されています。

5. 白斑:

皮膚の一部が白くなる病気で、色素細胞が破壊されることが原因です。白斑と甲状腺自己免疫疾患には強い関連があり、白斑患者さんでは甲状腺機能異常のリスクが高くなります。特に、全身性の白斑患者さんでその傾向が強いようです。

白斑と甲状腺疾患の関連性については、両疾患でCD8+ T細胞を介した細胞傷害性免疫反応が重要な役割を果たしていることが分かっています。また、CTLA-4やPTPN22などの遺伝子が両疾患の感受性に関与していることも報告されています。

【最新の研究と治療法の展望】

これらの疾患の関連性について、遺伝子レベルでの研究が進んでいます。例えば、CTLA-4という遺伝子が甲状腺自己免疫疾患と白斑の両方に関与していることがわかってきました。この遺伝子は免疫システムの制御に重要な役割を果たしており、その機能異常が自己免疫疾患のリスクを高める可能性があります。

また、酸化ストレスという概念も注目されています。酸化ストレスとは、体内で有害な活性酸素が増えすぎた状態のことです。甲状腺疾患と皮膚疾患の両方で、この酸化ストレスが病気の発症や進行に関わっていることが示唆されています。例えば、白斑患者さんの皮膚では、抗酸化酵素の活性が低下していることが報告されています。同様に、甲状腺自己免疫疾患患者さんでも、酸化ストレスマーカーの上昇が確認されています。

最近の研究では、甲状腺と皮膚疾患の関連性を説明する新たな仮説も提唱されています。例えば、チロシンという共通のアミノ酸から合成されるメラニン(皮膚の色素)と甲状腺ホルモンの生合成経路の類似性が、両組織の自己免疫反応の標的となる可能性が指摘されています。

これらの研究成果は、将来的に新しい治療法の開発につながる可能性があります。例えば、甲状腺と皮膚の両方をターゲットにした治療薬や、酸化ストレスを軽減する薬剤の開発が期待されます。また、共通の免疫経路を標的とした治療法も検討されており、JAK阻害剤などの新しい免疫調節薬が両疾患に効果を示す可能性があります。

最近では、がん治療で使用される免疫チェックポイント阻害剤という薬が、副作用として甲状腺炎や皮膚疾患を引き起こすことがあるという報告もあります。これは逆説的ですが、免疫システムと甲状腺、皮膚の密接な関係を示す証拠とも言えるでしょう。この知見は、自己免疫疾患の発症メカニズムの理解を深め、新たな治療法の開発にもつながる可能性があります。

皆さんへのアドバイスとしては、皮膚に気になる症状がある場合、単に皮膚の問題だけでなく、甲状腺機能にも注意を向けることをお勧めします。特に、家族に自己免疫疾患の方がいる場合は、より注意が必要です。定期的な健康診断で甲状腺機能をチェックすることも大切です。

最後に、これらの疾患で悩んでいる方は、決して一人で抱え込まず、専門医に相談することをお勧めします。皮膚科と内分泌内科の連携診療で、より適切な治療を受けることができます。早期発見・早期治療が、症状の改善や進行の予防につながります。

参考文献:

1. Carlucci, P., et al. (2024). Immune-Molecular Link between Thyroid and Skin Autoimmune Diseases: A Narrative Review. Journal of Clinical Medicine, 13(5594). https://doi.org/10.3390/jcm13185594

2. Bagnasco, M., et al. (2011). Urticaria and Thyroid Autoimmunity. Thyroid, 21(4), 401-410.

3. Pedullà, M., et al. (2014). Atopy as a Risk Factor for Thyroid Autoimmunity in Children Affected with Atopic Dermatitis. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 28(8), 1057-1060.

4. Yuan, J., et al. (2019). The Prevalence of Thyroid Disorders in Patients with Vitiligo: A Systematic Review and Meta-Analysis. Frontiers in Endocrinology, 9, 803.

5. Li, D., et al. (2019). Vitiligo and Hashimoto's Thyroiditis: Autoimmune Diseases Linked by Clinical Presentation, Biochemical Commonality, and Autoimmune/Oxidative Stress-Mediated Toxicity Pathogenesis. Medical Hypotheses, 128, 69-75.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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