平和願い上野で無料の美術展 在日中国人画家ら主催 ウクライナ、ロシア出身者の作品も
東京・上野の東京都美術館で10日、無料の美術展「国際美術交流会展」が始まる。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う渡航制限により海外へ行く機会が極めて少なくなる中、来日して30年超の中国人芸術家らが、人々に多様な外国の文化や芸術に触れてもらおうと企画。軍事侵攻による殺戮が深刻さを増すウクライナの出身者や、ロシアにルーツを持つ画家など世界20カ国超のアーティストが参加する。
多文化共生やSDGsの意義、国籍や国境の意味、平和について考えてもらう場として、無料で実施する。15日まで。
中国人画家ら尽力
美術展は、芸術家団体「国際美術交流会」と中国出身の画家、葛新民さんの「新民画廊」(千葉県九十九里町)が年1回程度、定期的に共催している。
葛さんは中国安徽省で生まれ、20歳の頃に現地の芸術学校で学んだ後、シルクロードの仏教芸術や敦煌の壁画をテーマとした書画を多数制作。中国のほか、長野や群馬、京都など日本各地で作品を披露してきた。
葛さんは1980年代後半に来日。日本で個展などを開く傍ら、日中友好の懸け橋としても活動してきた。海外のアーティストらとのネットワークを生かし、「国際美術交流会展」の無料開催に尽力。子どもらに文化の多様性や表現の自由の大切さを訴えている。
2019年には東京・六本木にある「国立新美術館」で第19回を開催。その後、新型コロナウイルス感染が広がる中で開催が危ぶまれたが、2021年8月に「千葉市美術館」で第20回に漕ぎ着けた。葛さんの知り合いのアーティストらが手掛けた動物画や抽象画、宗教画など、幅広いジャンルの作品数十点が展示されていた。
参加予定のアーティスト、来日断念
第21回となる今回は、東京都美術館の公募展の一環として4月10~15日に開催。
20カ国超のアーティスらによる油彩画、水墨画、写真、版画、書、彫塑・立体、工芸、水彩画、日本画が展示される予定だ。
コロナ禍やウクライナ情勢を背景に、多くのアーティストが来日を断念した。残念がる葛さんだったが「アートを通じ、子どもの教育や英会話力を身につけていく大切さ、SDGsの意義を伝えたい。これからも日本のアート界を応援していく」と力を込める。
優しい淡い色
今回、ウクライナ出身のアーティストの作品も展示される。
Victoria Romanovaさんは、ウクライナで生まれ育ち、現在は米国・ロサンゼルスで活動している画家だ。2018年に欧州で開かれたビエンナーレにも出展するなど、グローバルに活躍する。
新民画廊の担当者は「ウクライナの画家達の作品は、淡い色使いが多く、優しい気持ちになれる」と説明する。「祖国が今まさに戦争状態になっている彼女の気持ちを察するに余りある」と語った。
一方、ロシア出身などの芸術家の作品も並ぶ。Valentina Dusavit Skayaさんはロシアでアートギャラリーを運営、Lark Larisa Pilinskyさんは1993年にロシアから米国へ渡った。
このほか、日本在住のアーティストや、中国の著名な水墨画家、唐勇力氏の作品が展示される。
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他国へ渡りづらいコロナ禍の今、そして国同士が凄惨な争いを続ける中、さまざまな国の人々による作品が、国境を越えて飾られている。
※ 休館日など詳細は東京都美術館の最新情報を参照
(画像は新民画廊提供)