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C・ロナウド不発もレアル勝利。 W杯では拝めないクラブサッカーの真髄

杉山茂樹スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 後世に語り継がれる名勝負とまでは言い切れないが、2カ月後に迫ったロシアW杯ではまず拝めそうもない、クラブサッカーの真髄を見るかのようなハイレベルな一戦だった。

 チャンピオンズリーグ(CL)準決勝第2戦、レアル・マドリード対バイエルン。第1戦のアウェー戦を1-2でものにしたレアル・マドリードは、開始4分に先制点こそ許したが、11分に同点ゴールを奪い、そして後半開始早々にもバイエルンのGKのミスで加点。通算スコアを4-2とした。レアル・マドリード優位が鮮明になった瞬間だった。

 サッカーでは2点差は「鬼門」と言われる。楽勝ムードの2点差から、1点差に縮まれば、尻に火がついた状態になる。この精神的な落差が、パニックを誘発し、通常の1点差より危うい状態に陥る、というわけだ。しかし実際に、2-0で勝っているチームが2-3で敗れる試合に遭遇するケースは少ない。鬼門といってもそれは、理屈優先の言い伝えではないかと思うこと、しばしばだ。

 だが、アウェーゴールルールで行なわれるCLの決勝トーナメントは例外だ。アウェーゴール次第で、2点差は事実上、2点差未満になる。1点差にされれば、次の失点は逆転弾を意味する。そのルールはスパイスのような控え目な効果ではない。もっと強烈な劇薬のようなしろものだ。

 この準決勝第2戦では、レアル・マドリードが浮き足立ったというより、バイエルンがモチベーションを上げたという感じがした。

 そして後半18分、試合は動いた。ハメス・ロドリゲスのゴールが決まり、ついに通算で1点差となったのだ。

 通算スコアは4-3。バイエルンが4-4に追いつけば、アウェーゴールは3となりレアル・マドリードを上回る。残り時間は、ロスタイムを含め30分強。事件は起きるのか否か。60対40で、試合の流れはバイエルンに傾いていた。

 手に汗握るこの展開こそ、W杯にない、まさにCLの真髄だ。一発勝負の決勝戦でも、このスリルは味わえない。

 リバプールとローマには申し訳ないが、このレアル・マドリード対バイエルンは、事実上の決勝戦だった。それをたっぷり180分間、楽しめた。むしろ準決勝でよかったとさえ言いたくなる。

 バイエルンにとって痛かったのは、第1戦の開始早々、故障でアリエン・ロッベンを失ったことだ。ロッベンが右ウイングを張っていれば、対面で構えるマルセロに、第1戦でアウェーゴールを許すこともなければ、第2戦の開始11分に、カリム・ベンゼマのヘディングシュートを生んだクロスによるアシストを許すこともなかっただろう。さらに言えば、試合そのもののレベルも、もう何パーセントか高いモノになっていたはずだ。

 一方、バイエルンの左サイドは第1戦より強力になっていた。フアン・ベルナト、ラフィーニャより、デカくてパンチ力があるダビド・アラバがケガから復帰。左サイドバックとしてスタメンを飾ったからだ。対するレアル・マドリードの右サイドは、弱体化しているように見えた。ダニエル・カルバハルが故障。右サイドバックの位置にはルーカス・バスケスが入っていた。

 ルーカス・バスケスは、第1戦の終盤、カルバハルが退場した後も一列、下がり、右サイドバックのポジションをカバーしていた。急造ではないとはいえ、第2戦も立ち上がりからアラバに背後を突かれるなど、本職ではない悲しさを露呈していた。

 しかし、前半の中頃になると形勢は一変する。この試合のポイントだったように思う。

 目には目を。ルーカス・バスケスはまさにそんな感じで、後ろで構えず前方に積極的に突いて出た。対面で構えるバイエルンの左ウイングは、ロッベンと並ぶ準バロンドール級選手のフランク・リベリーだ。そしてその背後にはアラバがいる。にもかかわらず、高い位置をキープ。アラバの攻撃参加は、時間の経過とともに控え目になっていった。

 レアル・マドリードの右対バイエルンの左。このサイドの攻防でレアル・マドリードが負けなかったこと、つまり穴を作らなかったことが、組織が最後まで崩れなかった要因だ。怖がらず前に出たルーカス・バスケスがチームを救ったといっても過言ではない。

 準決勝の2試合。クリスティアーノ・ロナウドは不発だった。惜しいシュートは放ったが、活躍したとは言えない。ベンゼマは2ゴールを決めたが、後半27分ベンチに下がっている。交代で入ったのはガレス・ベイルだった。

 ベンゼマ、ベイル、C・ロナウド。BBCは、バルセロナのMSN(リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)に対抗して命名されたレアル・マドリードの看板だった。2015~16シーズンの決勝は3人そろい踏みしたが、2016~17の決勝は、この日の準決勝第2戦同様、交代でベンゼマとベイルが入れ替わっている。

 BBCは必ずしもチームの看板ではなくなっている。この試合のC・ロナウドも、燦然(さんぜん)と輝く存在ではなかった。それでもチームは勝利を収め、3シーズン連続決勝進出を決めた。

 メッシとスアレスに相変わらず依存したサッカーをしているバルサでは考えられない話だ。その他の戦力の安定性こそが最近のレアル・マドリードの強みだろう。CL3連覇に王手を掛けたレアル・マドリードだが、BBC頼みだったころに比べて、いわゆるチーム力は向上しているのだ。

 決勝は5月26日。ユーロ2012の決勝が行なわれたキエフのオリンピスキがその舞台だ。

 相手はリバプール。レアル・マドリードにとって相手は格下だ。昨季のユベントス、一昨季のアトレティコ・マドリードより、楽な戦いが予想される。過去の例で言えば、リバプールは、2001~02シーズンにレアル・マドリードと決勝を争ったレバークーゼンに相当する。

 当時、ブックメーカーは、レアル・マドリードの3-0での勝利を一番人気に推していた。だが、結果は2-1。試合時間があと5分あれば同点にされていたに違いない、内容的にもアップアップの戦いだった。世間的には、ジネディーヌ・ジダンがスーパーボレーを決めた試合として記憶されるが、歴史的に見ればレアル・マドリードの転落が始まった試合でもある。そこから10年以上、決勝の土さえ踏めなかった。年間予算が欧州で最も多いクラブが、だ。

 油断大敵。特にリバプールの場合は決勝で大番狂わせを演じた過去がある。ミランに対し前半の0-3から3-3に追いつき、延長PKで勝利した2004~05の決勝を想起せずにはいられない。

 注目は、レアル・マドリードのスタメンだ。イスコなのかマルコ・アセンシオなのか。モハメド・サラーという強力な右ウイングを持つリバプールに対し、イスコが同サイドで構える左ウイングとして出場したならば、両者の差は縮まるような気がする。

(集英社 webSportiva5月2日掲載原稿に加筆訂正)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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