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「私も、ここに、いるよ!」 NHKドラマ『とと姉ちゃん』の鞠子が体現する「中間子」の性質と役割

大宮冬洋フリーライター

血液型よりはきょうだい構成のほうが性格形成に影響している、と思う。A型の人が「確かに几帳面だ」と感じることは少ないが、姉が2人以上いる男性は会話能力が高いことが多い。

NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』に登場する鞠子(相楽樹)は、同性3人きょうだいの真ん中(いわゆる中間子)の性質をよく表している。リーダーシップと商才のある姉、器用でデザイナーとしての才能もある妹。その間に挟まれた鞠子は真面目であるぐらいしか特徴がない。しかし、その真面目さはときどきトンチンカンな方向に発揮される。姉と妹が尊敬している編集長の花山(唐沢寿明)に対して疑念を感じたり、みんなが雑誌創刊のために一丸となっているときに恋をしていたりする。

中間子はなぜズレるのか。当然ながら生まれ育ちが色濃く影響している。長子は生まれてから数年間は親の注目と愛情を一身に浴びる。末っ子もまた「これで打ち止め」と愛される。親からすれば中間子も同じように可愛いはずだが、注目度は下がることは否めない。野球で例えるなら中継ぎ投手のようなもので、試合が終わったら「途中で投げたのは誰だっけ?」と忘れられやすい。

生まれたときには兄もしくは姉がおり、物心つく頃には弟もしくは妹がいる。中間子の生い立ちには常に「社会」が存在し、相対評価の中で生きることになる。親は子どもたちを比較していないつもりでも、中間子自身は上と下を意識せざるを得ない。そして、「人からどう見られているか」を強く気にするようになる。

家族仲が良くて凝集力が高いほど、中間子の自意識は強くなると思う。かつて流行った『だんご3兄弟』の歌詞でも「弟想いの長男」と「兄さん思いの三男」に挟まれて「自分がいちばん次男」と表現されている。本心から「自分が一番」だと思っているのではない。むしろ自信のなさが過剰な自己アピールにつながるのである。

中間子の性質と言動は一言で要約できる。「私も、ここに、いるよ!」だ。上と下の間に埋もれがちな自分を家族に向かって主張するところから始まるこの性質は、成人する頃にはほとんど血肉と化しており、本人も無自覚なことが多い。本来はおっとりしているはずなのに、学校や仕事選び、結婚などの重大局面で周囲が首をかしげるような奇抜な行動をする。妙なところで意地を張ったり、いじけたり、大言壮語をふかしたりすることもある。はっきり言って面倒臭い性格だ。それらがすべて必死の自己主張であると思えば寛容になれるかもしれない。

筆者も男3人兄弟の中間子なので、最後に鞠子を擁護しておきたい。常に人目が気になり心配性な彼女は主人公にはなれない。家族や会社の和を悪気なく乱すこともあるかもしれない。輝くような才能もなく、重厚な実力もない。組織を引っ張る推進力にはなれないだろう。しかし、真面目なのにトンチンカンな行動が、家族や会社に新しい視点や人材を引き入れることがある。例えば、花山以外は女性ばかりの会社に、恋人候補の水田(伊藤敦史)を入れたのは鞠子の功績だ。

リーダーでも縁の下の力持ちでもない。トリックスター(いたずら者)としての中間子。鞠子が今後どんな人生を歩むのか。地味に注目したい。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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