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表現の自由を巡る自民党と百田尚樹氏周辺の倒錯、大西議員のさらなる問題発言

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

安倍首相に近い自民党の若手がつくる「文化芸術懇話会」(代表=木原稔・党青年局長)という勉強会が6月25日に開いた会合が波紋を広げ続けています。

講師の百田尚樹氏の発言は特に物議を醸し、その後、百田氏はマスコミ報道や国民世論から大きな批判を浴びている状況です。興味深いのは、その後「百田氏には表現の自由がある。」というような議論がごく一部で見られることです。代表例はかつて雑誌『マルポコーロ』の編集長を務めているときにいわゆる「マルコポーロ事件」が起き、雑誌を廃刊に追い込まれた経験を持つ花田紀凱氏の下記雑記です。

百田発言第2弾。百田尚樹さんに言論の自由はないのか?

百田氏には言論の自由はあるでしょう。実際、上記会合における講演の後も、「私が本当につぶれてほしいと思っているのは、朝日新聞と毎日新聞と東京新聞です」などと好きなように喋りまくっており、それについて、特に言論弾圧(権力によってツイートを消されたりとか)は受けてませんね。このように、世間を敵に回してでも、自らの主張を展開できるのが表現の自由なのです(なお事実誤認の発言や所謂「ヘイトスピーチ」については別の問題があります)。花田氏は、自らが編集長を務める雑誌で言論封殺をされた経験を持っているのに、好きなように喋りまくっている百田氏について言論の自由云々するのは奇妙というほかありません。

いうまでもないですが、言論の自由とは、批判の自由でもあります。百田氏のように、社会的な知名度と影響力を持った人物が、誤った発言や、不相当な発言をしたときは、他から批判を受けるのはやむを得ないことで、(特に著名人であれば)自分の言論が原因となり、その言論を批判する言論でボコボコにされるのが、正に言論の自由なのです(もちろん百田氏を誹謗中傷をして良い、ということではないでしょう)。憲法の勉強をするときは、このような社会的な作用を「言論の自由市場」などと言ったりもします。ボコボコに批判される百田氏を見て「百田氏の言論の自由・・・」などと言うのは、言論の自由を理解していないか「強者による放言が批判を受けない自由」というありもしないものを想定していることになります。なお、もちろん、百田氏がこの件で放言するほど、百田氏を招いて講師にした、自民党や議員ら傷口は大きくなるわけですが。

議員の発言は別

しかし、国会議員の発言は別です。国会議員は公務員であり、憲法99条で「憲法尊重擁護義務」を負っています。権力者である国会議員は、新聞社やテレビ局などの報道機関の「報道の自由」(これは表現の自由の一形態です)を侵害するような発言をしてはならないのです。マスコミにとって広告料収入は生命線です(この点に関しては上記マルコポーロ事件を例に江川紹子氏が説明した「報道規制を語らう、不自由で非民主的な自由民主党」が大変参考になります)。実際にやらなかったとしても、そういう力を持っている国会議員が「オレはやるぜ、オレはやるぜ」と言うだけで、マスコミにとっては大きな脅威になります。前回も書きましたが、暴力団幹部に「夜道は気をつけなよ。冗談だけどな。」と言われるだけで、夜に出歩くのが怖くなるのと一緒です。

議員たちが会合でした発言は以下のようなものです。

●大西英男衆院議員(東京16区、当選2回)

「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないと思うが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」

●井上貴博衆院議員(福岡1区、当選2回)

「福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。日本全体でやらなきゃいけないことだが、広告の提供(スポンサー)にならないということが一番(マスコミは)こたえる」

●長尾敬衆院議員(比例近畿ブロック、当選2回)

「沖縄の特殊なメディア構造を作ったのは戦後保守の堕落だ。沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくためには、どのようなアクションを起こされるか。左翼勢力に完全に乗っ取られているなか、大事な論点だ」

出典:朝日新聞

長尾敬議員のツイッターより
長尾敬議員のツイッターより

この発言自体が十分に恫喝的なものであり、憲法尊重擁護義務に違反する発言であり、すなわち、これ自体が現法違反の発言と言えるでしょう。国会議員には、憲法に反する発言を放言する自由があるわけではないのです。

マスコミによる上記発言の記録状況については、部屋の内側にいた長尾敬議員が写真撮影しています。筆者は、国民に奉仕し、議員らの邪悪な本音を聞き出した記者の記者魂に感謝したいと思います。この耳が、国民の耳となったのです。一部では、この記者の行動を「盗聴」であるかのように扱おうとする向きもあるようですが、もともと、国会議員がその活動上行った発言について、プライバシーが成立する余地は極めて狭いと思われます。冒頭部分をマスコミに取材させて百田氏にマスコミ批判をさせた上で(つまり自分たちで種をまき)、そう広くもない部屋でマイクを使ってやり取りを行い、窓に耳が張り付いているのが分かっていて発言したんだから、もはや喋った方の問題でしょう。

党内処分は処分になるのか

自民党内部では、この会合を主催した木原稔議員が党青年局長を解任され、上記3議員は「厳重注意」を受けたとのことですが、憲法を侵害した議員らに対する処分としては甘すぎるでしょう。彼らは権力者でありながら、冒してはならない国民の権利を侵害したのですから。もはや議員の資格はありません。この点、安倍首相は「発言した方に成り代わって勝手におわびすることはできない」と述べ、謝罪をしませんでしたが、誰も、成り代われとは言ってないでしょう。自民党は「政府」と「与党」を恣意的にわけ、幹事長の谷垣氏が汚れ役となって頭を下げることで乗り切ろうとしていますがおかしな話です。総裁と幹事長の役割分担は党内部のもので、国民に対して役割分担を言い訳にできる性質のものではないからです。安倍首相は、こういう議員を擁する政党の代表者(総裁)としての責任が問われているのです。この発言を軽視する自民党の体質は安倍首相の発言に最もよく現れていると思います。

全く反省していない大西英男議員の新たな暴言

今日の午後、言論統制3人組の一人である大西英男議員が、さらに下記発言をしました。

自民党の大西英男衆院議員は30日午後、安全保障関連法案に批判的な報道機関について「懲らしめなければいけないんじゃないか」と述べた。また、「誤った報道をするようなマスコミに対して広告は自粛すべきじゃないか」とも語った。国会内で記者団の質問に答えた。

出典:2015.6.30 時事通信

繰り返しになりますが、権力者である自分の立場も、国会議員に課された憲法尊重擁護義務も、表現の自由を守ることの必要性も、何一つ理解しない極めて悪辣な発言です。このような人物に国会議員を続けさせて良いのでしょうか。根本的な疑念を抱かざるを得ません。そして、このようなさらなる暴言を招いたのは、このような人間を処分することすらできない自民党の体質であり、安倍政権の体質そのものです。安倍首相は自らの責任を明らかにすべきでしょう。

追記

産経新聞で大西議員の発言の詳報が出ました。確信に基づいて発言しているように見えます。

自民党の報道圧力発言(1)注意受けた大西氏「朝日報道、懲らしめないといけない」

自民党の報道圧力発言(2)大西氏「民主主義社会の根本を否定する発言はしてません」

自民党の報道圧力発言(3完)大西氏「誤解と言ってもマスコミも国会も許さないじゃないですか」

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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