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ちょうどいいシート。ハワイへ快適で財布に優しいANAのA380「プレミアムエコノミー」が化けるかも?

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
4月23日にお披露目されたANAのA380型機のプレミアムエコノミー(筆者撮影)

 ANA(全日本空輸)は5月24日より総2階建ての巨大飛行機エアバスA380型機(以下A380)「FLYING HONU」を成田~ホノルル線に投入する。最終的には3機体制となるが、5月24日から6月末までは1機体制で週3往復、7月1日以降は2機体制で週10往復がA380となる(その他の便は従来同様にボーイング787-9型機などで運航)。

エアバスA380型機「FLYING HONU」(4月23日、成田空港で撮影。以下特記以外筆者撮影)
エアバスA380型機「FLYING HONU」(4月23日、成田空港で撮影。以下特記以外筆者撮影)

 4月23日には成田空港でメディア関係者に機内がお披露目された。1機で520席というのは国内の航空会社では最大座席数となり、「ファーストクラス」「ビジネスクラス」「プレミアムエコノミー」「エコノミークラス」の4クラス設定に加えて、エコノミークラスの383席のうち60席分はレッグレストを上げてベッドになるカウチシート「ANA COUCHii(ANAカウチ)」を搭載することから実質は5つのシートタイプが設定されると言っていいだろう。

エコノミークラス運賃に追加することでベッドの状態になる「ANA COUCHii(ANAカウチ)」も注目
エコノミークラス運賃に追加することでベッドの状態になる「ANA COUCHii(ANAカウチ)」も注目

プレミアムエコノミーを73席用意。記者からも好評だった

 お披露目会では、全クラスのシートに座ってみたが、その中で筆者も含めて記者から好評だったのが「プレミアムエコノミー」だった。ANAやJAL、シンガポール航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、エールフランス航空、ルフトハンザドイツ航空、ニュージーランド航空など世界の主要航空会社(フルサービスキャリア)の多くが、ビジネスクラスとエコノミークラスの中間クラスとして設定している。最近ではデルタ航空も「デルタ・プレミアムセレクト」というプレミアムエコノミーのサービスを日本路線の一部路線で開始した。

 プレミアムエコノミーは20~30席程度に設定しているケースが多く、ANAの長距離路線に飛んでいるボーイング777-300ER型機では24席の設定となっている。JALは同じボーイング777-300ER型機で40席を設定しているが、今回のA380のプレミアムエコノミーは更に倍近い73席の設定となった。

73席というこれまでにない座席数を設置したANAのエアバスA380型機の「プレミアムエコノミー」
73席というこれまでにない座席数を設置したANAのエアバスA380型機の「プレミアムエコノミー」
2名利用なら窓側席がおすすめ。シートピッチも97センチあるので足下もゆったりしている。
2名利用なら窓側席がおすすめ。シートピッチも97センチあるので足下もゆったりしている。

座席数が増えたことで空間の広さをより感じられる

 筆者も国内外の航空会社のプレミアムエコノミーを利用しているが、今回、ANAが投入するA380型機の「プレミアムエコノミー」はハワイへ定期的に出かけるリピーターを中心に支持される可能性を秘めていると思う。これまでのプレミアムエコノミーに比べて座席数が大幅に増えたことで、プレミアムエコノミーのエリアが広くなり、機体幅が広く、天井の高さも高いことからキャビン全体に開放感がある。ボーイング777-300ER型機と比べても空間の広さを乗った瞬間に感じることができるなど快適度はアップしている。

2階席後方にプレミアムエコノミーはある。天井の高さも高いので開放感がある。座席配列は2-3-2となっている。
2階席後方にプレミアムエコノミーはある。天井の高さも高いので開放感がある。座席配列は2-3-2となっている。

 座席配列も2-3-2になっていることで、夫婦やカップルなど2名で利用する場合は窓側席を座席指定することで他の乗客を気にする必要がなくなるほか、3名利用であれば中間の3席を座席指定することで会話もしやすいだろう。そして何よりも足下の広さ(シートピッチ)が97センチ確保されており、横幅も広かった。実際に座ってみても窮屈さを感じることがなかった。

機内での時間も退屈しない。15.6インチのシートテレビは圧巻

 加えて、映画が好きな人にとっては15.6インチ(最前列は11.6インチ)というパーソナルモニター(シートテレビ)の大きさは魅力だろう。大型の画面で映画やビデオプログラムなどの機内エンターテインメントが楽しめるので、特に日中のフライトになる帰国便では思う存分、機内エンターテインメントを楽しめる。大型パーソナルモニターでのクリアな映像は、家のテレビで寛いでいるのに近い感覚で楽しめる。

 また帰国便で仕事をしないといけない場合でも、大型のテーブルでシート電源も完備し、機内Wi-Fiも使えるのもありがたい。

15.6インチのパーソナルモニターで映画・ビデオプログラムを存分に楽しめる
15.6インチのパーソナルモニターで映画・ビデオプログラムを存分に楽しめる

プレミアムエコノミー利用者は成田・ホノルル共にラウンジ入室可

 また、プレミアムエコノミー利用者は成田空港やホノルル空港で専用のチェックインカウンター、更にはラウンジも利用できる。出発の時点からビジネスクラスに近いサービスを受けられる。特にホノルル空港ではラウンジと搭乗ゲートが直結しており、ラウンジからそのまま飛行機に乗ることが可能だ。

 これまでは「エコノミークラスのおまけ」という位置づけでもあったが、A380のプレミアムエコノミーは独立したクラス(キャビン)という位置づけであることを感じる。

ホノルル空港にオープンする予定のANAラウンジはプレミアムエコノミー利用者も入室できる(イメージ写真:ANA提供)
ホノルル空港にオープンする予定のANAラウンジはプレミアムエコノミー利用者も入室できる(イメージ写真:ANA提供)

往復10万円台前半で買える日も多い

 もちろんフルフラットのリクライニングができるビジネスクラスの方が快適なのは言うまでもない。ハワイへは出張需要が限定的でレジャー需要がほとんどであり、その多くが複数人で利用する。夫婦・カップル・家族で出かける人も多い中でビジネスクラスは、人数が増えれば増えるほど敷居が高くなる。だけどエコノミークラスの狭い席での移動は可能であれば避けたいというニーズも多く、ビジネスクラスよりも安く、エコノミークラスよりも少し高い程度で利用できるプレミアムエコノミーは一定の需要があるだろう。

憧れのビジネスクラスも従来よりも安い往復20万円台で買えるようになったがハードルは高い
憧れのビジネスクラスも従来よりも安い往復20万円台で買えるようになったがハードルは高い

 気になる金額であるが、9月3日成田発・9月6日ホノルル発の組み合わせで往復13万4020円(燃油サーチャージや空港税などの諸経費1万9020円を含む※4月24日に調査)となっている。ビジネスクラス利用で同じ日程だと往復約26万円であることから約半額の水準となる。エコノミークラスが往復7万9020円となっており、プレミアムエコノミーにしても約5~6万円のアップであれば、快適度を考えても積極的に利用する旅行者もこれまで以上に出てくるだろう。

 夏休み期間中のプレミアムエコノミーの相場はお盆の時期を除けば往復20万円前後(空席状況に応じて変化する)で購入できる。年配者や富裕層に加えて、新婚旅行やグループ旅行でプレミアムエコノミーを選ぶ人も今後増えそうだ。

プレミアムエコノミー専用の機内食は和食・洋食から選べる(写真は洋食メニュー)
プレミアムエコノミー専用の機内食は和食・洋食から選べる(写真は洋食メニュー)
プレミアムエコノミー専用の機内食(和食メニュー)
プレミアムエコノミー専用の機内食(和食メニュー)

特典航空券が取りやすくなった。プレミアムエコノミーも対象

 加えて、ハワイへのリピーター客にとって大きいのはANAのマイレージプログラム「ANAマイレージクラブ」の特典航空券が取りやすくなった点だ。これまではハワイ線の特典航空券は繁忙期を中心に1年前(ANAの場合は355日前)の予約開始日でも争奪戦が繰り広げられてきたが、座席数が増えたことで既に特典航空券の予約が入りやすくなっている。

 エコノミークラスは往復4万マイル、プレミアムエコノミーは往復5万8000マイル、ビジネスクラスは往復6万5000マイル、ファーストクラスは往復12万マイル(いずれもレギュラーシーズンの場合)となっており、プレミアムエコノミーやビジネスクラス、ファーストクラスといった上級クラスを選ぶ選択肢もあるだろう。

ANAのホノルル線では初となるファーストクラスも特典航空券で予約できる
ANAのホノルル線では初となるファーストクラスも特典航空券で予約できる
エコノミークラスもクラス最大となる13.3インチのパーソナルモニターを搭載
エコノミークラスもクラス最大となる13.3インチのパーソナルモニターを搭載

 今年限定ではあるが7月11日搭乗分までのA380での運航便では、有償で販売されているプレミアムエコノミー、エコノミークラスの航空券に空席があれば、特典航空券での特典予約が可能であるキャンペーンを実施しており、マイルを使っての特典予約が更にしやすい状況になっている。73席も設定されたことで、通常の航空券及び特典航空券の両方で予約も取りやすくなり、一度利用することでプレミアムエコノミーのリピーター需要を取り込める可能性は十分にあるだろう。

 まさに「ちょうどいいシート」として、往路は7時間20分、復路は8時間25分のフライトにおいて、73席のプレミアムエコノミーを積極的に選ぶ利用者が増えそうだ。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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