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南極の雪増加から、海面上昇を考える

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
(写真:アフロ)

逆説のような話ですが、気温の上昇や氷の融解が進む南極で反対に降雪量が増えているようです。こうした調査報告が、9日(月)イギリス南極研究所から発表されました。

調査団が南極の氷床コアから雪を調べたところ、ここ200年間で降雪量が1割も増加していることがわかったといいます。

しかし一体なぜ雪が増えているのでしょうか。

(↑調査団の様子)

降雪量増の原因は?

それは気温上昇と氷の融解にともなって、大気中の水蒸気量が増えているためです。

同じような理由から、日本でも、温暖化が進行することで北陸地方の内陸部などで『ドカ雪』が増える可能性が指摘されています。(参考PDF)

雪増加で海面は低下する?

ところで、南極の降雪量の増加はどのような変化をもたらすのでしょうか。

南極の「雪」が増えるということは、南極の「氷」が解けて海面が上昇する分の一部が、「雪」となって蓄えられているということです。すなわち海面上昇を和らげる効果が期待できるのです。

海面上昇をおさえることが地球全体の急務である今、うまい話のようにも聞こえますが、残念ながらそれほど大きな効果はないようです。

南極の降雪の増加量は年間で272ギガトンということで、これを換算すると琵琶湖10杯分に相当し、かなりの量に聞こえます。しかし実のところ、その量は年間たった0.004ミリの海面上昇を抑えるに過ぎないようです。海面上昇は地球全体で年間平均3ミリといわれていますから、これに比べるとごく微小な変化しかもたらさないことになります。

水没の危機に瀕する国の対策

国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、温室効果ガスの排出量に変化がなければ、2100年までに海面水位は最大98センチも上昇する可能性があるとしています。これ以上温度を上げない努力をすることはもちろん必要ですが、それだけでは水害は防げない段階に達しています。

海面上昇によって水没すると危惧されているのが、キリバス共和国、モルディブ、ツバル、ソロモン諸島といった太平洋やインド洋に浮かぶ小さな島々などです。

その中には、すでに人工島を作るなどして対策に乗り出しているところもあります。またソロモン諸島では、州都に住む住民全員と首都機能を丸ごとほかの島に移すという、前代未聞の計画が動き出しているようです。

海面上昇の問題を考えるとき、その原因にかかわっていない国々が一番大きな犠牲を払うという事実に、疑問を持たずにはいられません。

(ソロモン諸島では既に5島が水没しているという)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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