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焦るインド、iPhone輸出で中国などに敗北のリスク 原因は高関税とサプライチェーン制約

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
インド初のアップル直営店開店式、ファン持参の1987年製Macに驚くクックCEO(写真:ロイター/アフロ)

スマートフォンの輸出拠点としての台頭を目指すインドは、部品関税の引き下げを検討している。高関税は、インド製造業を保護するのではなく、むしろ国内製造業にとって不利な状況を作り出しているからだ。

「メーク・イン・インディア」にアップルなど協力

英ロイター通信の報道によれば、インドのチャンドラセカール電子・情報技術副大臣は、シタラマン財務相に送った書簡で、同国がスマホの輸出競争で中国やベトナムに敗北する恐れがあると指摘し、グローバル企業を誘致するために「迅速な行動」が必要だと訴えた。

スマホ製造はモディ政権が掲げるインド製造業振興策「メーク・イン・インディア」(インドでの製造)の重要政策課題だ。モディ首相は2023年6月の訪米時、米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)や米グーグルのスンダー・ピチャイCEO、米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOなど、米国とインドのテクノロジー企業幹部らと会談し、これらグローバル企業に対し同振興策への協力を呼びかけた。

アップルは、製販両面でインドを重視している。製造面では、中国への過剰依存からの脱却を図るべく、電子機器受託製造サービス(EMS)大手の台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などと協力し、インド生産の拡大を進めている。

ホンハイは主に中国工場からアップルの最新スマホ「iPhone 15」を出荷している。その一方で、インド工場での出荷時期を、中国工場の出荷開始時期からわずか数週間の遅れにとどめるなど、インド生産拠点と中国生産拠点のギャップを縮める取り組みを進めている。

iPhoneの最新機種は、他の台湾EMS大手がインドに持つ工場でも生産されている。和碩聯合科技(ペガトロン)と緯創資通(ウィストロン)などのインド工場である。

ベトナムやタイなど、携帯電話の輸出競争で先行

ロイター通信によれば、インドは世界第2位の携帯電話市場であり、2023年は生産量が前年比16%増の440億米ドル(約6兆4800億円)に成長した。

これは、PLI(プロダクション・リンクト・インセンティブ、生産連動型優遇策)と呼ばれるインド政府の補助金制度によるところが大きいと、インド政府はみている。PLIは、インドにサプライチェーン(供給網)への投資を呼び込み、規模の経済の創出、輸出強化、雇用創出促進を目的としている。インドで製造される製品の売上高増加分に対して4〜6%が補助金として支払われる。

だが、ロイター通信によると、インド議員やアップルなど企業のロビー団体は、高関税が、現在一極集中状態の中国サプライチェーンからの移行を妨げている、と指摘する。加えて、ベトナムやタイ、メキシコなどの国では部品関税を引き下げており、携帯電話端末の輸出競争でインドに先行している。

チャンドラセカール副大臣は焦りを募らせている。同氏は、書簡で「地政学的変化により、サプライチェーンは中国から移転せざるを得ない状況だが、インドが今すぐ行動しなければベトナムやタイ、メキシコなどに移ってしまう」と指摘した。

インドのサプライチェーンには制約があり、同国製の携帯電話は中国などから高性能部品を輸入して作られている。だが、これらの部品は、インド政府が地場メーカーを保護するために設けている高関税の対象となり、これが最終製品のコスト高につながっている。

インドでは現在、一部の携帯電話端末の部品に20%の関税を課している。チャンドラセカール副大臣は、これを15%に引き下げる必要があると訴えている。

目標は年1000億米ドル生産、輸出50%

2023年のインドのスマホ生産における輸出比率は25%にとどまったが、中国は生産額2700億米ドル(約39兆7700億円)のうち63%を、ベトナムは生産額400億米ドル(約5兆8900億円)のうち95%を輸出した。

インドは2029年までに世界の電子機器製造のシェア25%を目指しているが、現在はわずか4%にとどまるという状況だ。チャンドラセカール副大臣によると、インドは携帯電話の生産を年間1000億米ドル(約14兆7300億円)以上に拡大し、うち50%を輸出するという目標を掲げている。

副大臣は、「目標を達成するために、関税政策を転換する必要がある。国内市場ではなく、輸出に重点を置く必要がある」と強調した。国内需要の増加は、インドのスマホ製造業の収益性維持に役立っている。だが同氏は、「国内市場はまもなく飽和状態に達する」とし、強い危機感を示した。

  • 1ドル=147.31円で換算

筆者からの補足コメント:
アップルとそのサプライヤー企業は、2〜3年の間に、年5000万台以上のiPhoneをインドで生産することを目指しており、その後数千万台を増産する計画です。この計画が実現すれば、インドは世界iPhone生産の4分の1を占めシェアを拡大することになります。ホンハイは、インド南部カルナータカ州で工場を建設しており、その第1段階計画では、iPhoneを含むスマホを年2000万台製造することを目指しています。インドの大手財閥タタ・グループは2023年10月、カルナータカ州ベンガルール近郊の工場をウィストロンから買収することで同社と合意しました。タタは、iPhoneの製造を手がけるインド初の現地企業となります。南部タミルナドゥ州チェンナイ近郊にあるホンハイの既存工場と、タタが買収した工場での生産拡大計画を合わせると、アップルは今後2〜3年で年5000万〜6000万台のiPhoneをインドで生産することになります。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年2月16日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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