「笛吹けども踊らず」で怒り心頭の金正恩委員長の「経済視察」
金正恩委員長が経済視察でまた、また怒りを爆発させていた。
短距離ミサイル発射(5月9日)以来、3週間ぶりに姿を現した金正恩委員長が中国との国境に近い慈江道にある軍需工場を相次いで視察したことはすでに報道されているが、興味深いのは、その際に立ち寄った現地の学生少年宮殿で目の当たりにした悲惨な光景に「激怒した」との報道である。
学生少年宮殿は3年前にリモデリングしたばかりなのに体育館のシャワーの水が出ず、また照明も設置されてないことに金委員長は驚き、「改修してまだ3年しか経ってない建物がまるで10年も使い古されたかのようで情けない」と、施工から施設管理全般にわたる杜撰さを問題にしていた。
全国の主要都市に建てられている学生少年宮殿は科学と芸術、スポーツに長けている小中高の学生らが放課後に教育を受ける英才教育機関として知られているが、金委員長は「幹部らは課外教育・教養分野に対する政策的指導をちゃんと行ってない」と幹部らを叱責し、「実に気分が悪い、大変失望した」と言って、宮殿を後にしたようだ。
「朝鮮中央通信」の報道によると、金委員長は「悪いのは党の政策、方針をきちっと執行しない幹部らにある」と、党や組織の幹部らの姿勢を問題にしたが、党・政府幹部らに対する金委員長の不満、怒りは今に始まったことではない。昨年からの「現象」である。
例えば、昨年7月1日に平安北道・新義州にある化学繊維工場を視察した際には「補修もしないで厩舎のような古い建物に貴重な設備を入れて、試験生産をやろうとしている」ことを問題にし「設備の現代化に先駆けて生産建物と生産環境から一新することを考えるべきだ」と一からやり直すよう命じていた。
この時も金委員長は「現在進めている現代化事業化の規模や展望計画、労力や資材保障状況について聞いても、工場支配人、党委員長、技師長らは誰一人まともに答えられない。いろいろな所を行ってみたが、こんなところは初めてだ」と憤慨し、「幹部らは自らの責任と役割を果たしていない」と不満を口にしていた。
また、この日は、同じく新義州にある紡績工場にも足を運んでいたが、ここでも「工場の誇らしい伝統が生かされてない」と述べ、以下3点問題を口にしていた。
1.工場を科学技術に依拠して生産を正常化する考えもなく、資材、資金、労力がどうの言い訳している。
2.我々式の国産化、現代化が叫ばれているのにこの工場の幹部や労働階級は難関の前に尻込みして、立ち上がろうとしない。
3.工場の党委員会が従業員らの労働条件と生活条件の改善に全く関心を払ってない。
それからおよそ一週間後の7月9日にも今度は両江道・サムジンヨン郡にあるジャガイモ粉工場を訪れていたが、ここでも随行した李相遠・両江道党委員長、梁明哲・サムジンヨン郡党委員長らを前に「技術神秘主義に陥り、経済性のない設備を入れたことで生産に支障を来している」と激怒していた。
さらに、一週間後の16日に咸鏡北道を訪れた際には清津カバン工場、オンポ保養所、塩粉津ホテル、漁郎川水力発電所など7か所を見て回ったが、ホテルの視察では李希容・咸鏡北道党委員長ら地元幹部らに対して「金正日将軍様が亡くなる寸前まで関心を払っていたホテル建設がまだ完了していないとは」とため息をつき、「組立工事が終わって6年も経つのに内装が終わってないとはどういうことか」と現場責任者らを激しく叱責していた。
オンポ保養所でも「保養所の風呂が非衛生的だ。脱衣場もいい加減で、換気も悪く、不快な匂いがする。人民らが保養し、治療する所なのに消毒がしっかりとできているのか疑わしい。こうした環境では治療はできないだろう」と嘆き、「これでは、景色の良い場所に保養所を建ててくれた首領様(金日成主席)や将軍様(金正日総書記)の業績を台無しにし、罪を犯すことになる」と怒り心頭であった。
極めつきは、この後に訪れた漁郎川水力発電所での金委員長の発言だ。
金委員長はダム建設が始まってから17年が過ぎたのに70%しか完成していないことに立腹し「ようやく今日ここを訪れたが、言葉が出ない。さらに許せないのは、国の経済の責任を負った幹部が発電所建設場に一度も出てきたことがなく、竣工式には顔を見せる厚かましい態度だ。発電所を建設する気があるのかないのか分からない」と、内閣を含む経済指導機関責任者らの怠慢ぶりを槍玉にあげていた。
金委員長はかばん工場の視察の際「党の方針を受け、執行する態度が大きく間違っている」として地方党幹部や工場責任者らへの問責を指示していたが、不思議なことに李希容咸鏡北道党委員長は今年4月にあった人事で解任されることもなく、むしろ政治局員候補に「昇進」していた。
巷間言われているように、工期が遅れているからと言って、また建設が党の方針どおり捗ってないからといって、昨今は即「処刑」とか「収容所」送りという過酷な処罰には至ってないようだ。