ゴール直後に「来るな!」 Kリーグで劇的ミドルを決めた元JFL所属のDFが味方を追い払った理由
熾烈な昇格レースを繰り広げているクラブ。
この日は、8月の対戦でホームにてドローに持ち込まれた難敵との対戦だった。
後半24分、メディアから”レーザーシュート”と絶賛されるミドルシュートを決めた。
しかしその直後、味方に「来るな」と追い払ってしまった――。
今秋のKリーグ2(2部)でゴール後に得点者が味方に「来るな」と追い払う”ハプニング”があった。
9月28日、第24節の全南ドラゴンズ-済州ユナイテッド戦。
1点をリードしていた済州のチョン・ウジェのもとに、コーナーキックからのこぼれ球が。「ペナルティエリア内に相手守備陣が多くいる」と感じ、「これを超えさえすれば、GKは反応しにくい」と判断。右足を振り抜いた。
劇的な追加点。
しかし喜ぶ味方を制したのだ。仲間割れか?少し強張った表情で、両手を拡げるジェスチャーを見せた。
理由はここにあった。
「ここ最近は新型コロナのせいで、ゴール後のパフォーマンスに制裁があると聞いた。過度にやると罰金とも聞いていて」
「パフィーマンスをした本人のみならず、一緒にやった人にも罰金だとも」
- 該当シーンの動画。所属クラブ公式チャンネルより
韓国では「まさにこの時代のパフォーマンス」と絶賛されたのだった。
左右のサイドバックを務めるチョン・ウジェにとって、今季2ゴール目を決めた直後の出来事だった。普通なら頭が真っ白になりそうなものだが…彼は「ゴールを決めた瞬間に急にそれを思い出した」という。
「とくにアン・ヒョンボムが一番近くにいて、”こちらに来そうだな”という感じがした。一緒に罰金、というのは避けたかったのでとにかく全員に”来るな”と追い払った」
ただし「瞬間的な盛り上がり」を外した後、チョン・ウジェはチームメイトの祝福に応じ、軽く手を合わせたのだった。試合はそのままアウェイの済州が2-0で勝利した。
日本での「出場ゼロ」から始まった苦労。今では「代表に推薦できる」と言われるまでに
1992年生まれのチョン・ウジェは、運動量と攻撃力に定評のあるサイドバックだ。
じつは日本のクラブに在籍歴がある。高校卒業後の2011年に当時Kリーグで実施されていたドラフト制度で指名されず、日本に渡った。ヴィッセル神戸などのテストも受けるなかで、当時JFL所属だったツエーゲン金沢に「合格」。「鄭宇宰」の漢字名で在籍した。
しかし金沢では一度も出場機会が得られず、2012年韓国に帰国。この年は所属クラブなしという苦境を経験した。
翌2013年にイェウォン芸術大学に入学。大学リーグで活躍した2014年にようやく城南FC(Kリーグ1部)に追加ドラフトで指名された。
ところが苦労はここで終わらない。2014年はシーズン中に監督が4度変わる状況のなか、4試合しか出場機会を得られず。フロントも混乱し、翌年の契約の話がなかなか進まなかった。業を煮やして2部の忠州ヒュンメル(現在は消滅)の入団テストを受けて合格した。
ここからキャリアが好転していく。2015年を主力として過ごすと、2016年に大邱FC(当時2部)からオファーを受け、昇格に貢献。2017年、18年には1部リーグに昇格した同クラブで欠かせない存在になった。
- 済州入団時のインタビュー
2019年にトレードのかたちで済州に移籍。財閥系のチーム(SK)であり、アジアチャンピオンズリーグ出場歴もあるチームからのオファーは「栄転」だった。この年クラブはまさかの2部降格を喫してしまうものの、今季は2部でハイクオリティのプレーを維持。一部メディアからは「サイドバック人材不足のフル代表に推薦できる」との評価も得ている。本人は韓国メディアの取材にこんな言葉を残している。
「嬉しいことだし、再びファンと出会って感謝も伝えたいです(試合当時はKリーグは無観客で行われていた)。サッカー選手として代表入が夢でないわけはありません。しかしまずは与えられたポジションでベストを尽くすことです。そうすればよいニュースも届くと思います。所属チームもまだまだ不安定。目の前の試合に集中します」
このゴールによる勝利で首位を奪い返した済州は、10月31日現在2位に勝ち点6差をつけて首位を走る。韓国でも「男前」と評価されたこのパフォーマンス、「日本での苦境から這い上がった男」によるものでもあった。
- 所属クラブの公式アカウントでも「代表にどうですか?」との動画が
※冒頭の写真はKleague側に許可を得て、Youtube公式アカウントのキャプチャを使用したものです。