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【パリ】デパートは体感する場へ。「ギャルリー・ラファイエット」の大改修

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
パリのデパート「ギャルリー・ラファイエット」(写真はすべて筆者撮影)

物を買うだけならネットでこと足りる、という昨今。デパートはどうなってゆくのでしょう?

16年の沈黙からよみがえり、大統領臨席で華々しくオープンした「サマリテーヌ」デパートについてはこちらの記事でご紹介しましたが、パリのほかの老舗デパートもだまって指を加えて見ているわけではありません。

アールヌーヴォーの傑作

今回紹介するオスマン通りの「ギャルリー・ラファイエット」は、1893年からの歴史をもつデパート。産業革命で生まれた裕福な市民層の登場と時を合わせ、「消費の殿堂」として誕生しましたが、まるで美術館にいるような気分にさせてくれる場所としても親しまれてきました。

建物そのものが芸術品。ステンドグラスのクーポール(ドーム屋根)と中央の吹き抜けを取り囲むテラス状のフロア構成が秀逸です。これは1912年、ナンシー派とよばれるアールヌーヴォーの時代を代表するクリエーターたちによって造られたものです。

デパート中央の吹き抜け空間。赤いオブジェは2021年夏のキャンペーン「Paris Mon Amour(パリ・モナムール)」のデコレーション
デパート中央の吹き抜け空間。赤いオブジェは2021年夏のキャンペーン「Paris Mon Amour(パリ・モナムール)」のデコレーション

ドーム屋根の中央部分
ドーム屋根の中央部分

構造はFerdinand Chanut(フェルディナン・シャニュ)、ステンドグラスはJacques Grüber(ジャック・グリュベール)、鉄細工はLouis Majorelle(ルイ・マジョレル)
構造はFerdinand Chanut(フェルディナン・シャニュ)、ステンドグラスはJacques Grüber(ジャック・グリュベール)、鉄細工はLouis Majorelle(ルイ・マジョレル)

同じ時代に誕生したパリのデパートも同様に、アーティスティックな建築を競い合いましたが、時代とともに形を変えてきたのはむしろ自然なこと。「ギャルリー・ラファイエット」でも、700平米ほどある吹き抜けを利用すれば、3層分2100平米の売り場面積が増設できたわけですが、それはしませんでした。そのため、創建時のオリジナルの意匠が受け継がれ、いまも吹き抜けのフロアからステンドグラスのクーポールを仰ぎ見ることができます。

戦時中は爆撃による危険を回避するため、ステンドグラスはいったん取り外され、再度復活させましたが、それからさらに数十年。このたび、21世紀の大改修が行われ、2年あまりのプロジェクトがこの春、完成をみました。

とはいえ、デパートは常に開いていたので、そんなことがあったとは筆者も含め、知らずにいた人のほうが多いことでしょう。聞けば、テニスコート8つ分はある巨大なテントを建物の上部に築き、デパートの営業にはまったく支障がないように、閉店時間に外側からアクセスする形で作業が進められたのだそうです。

ドーム型の屋根を広げると1400平米。そこにおよそ1900ピースあるというステンドグラスを少しずつ取り外してはアトリエに運び、洗浄したのにち、再び設置。欠損していたものなどは新しく制作し、創建時の状態を再現したのだそうです。

ドーム屋根の外側
ドーム屋根の外側

中央部分。ステンドグラスのガラスピースだけでなく、鉛の枠組みも化粧直しされた
中央部分。ステンドグラスのガラスピースだけでなく、鉛の枠組みも化粧直しされた

また、ドーム屋根の外側にさらに2層の屋根があったのですが、今回のプロジェクトでは外側の屋根を1層に作り直したことで、取り込める自然光の量が増しました。それによって、さらにステンドグラスの鮮やかさが際立ち、館内全体がより明るくなりました。

※改修が完了した館内やドーム屋根は、こちらの動画でもご覧いただけます。

パリの眺望を楽しむ特等席

屋上が開放的なのもよいところ。パリの屋根が眼下に広がり、オペラ座を間近に眺め、エッフェル塔もよく見えるという絶好のロケーションを無料で気軽に楽しむことができます。

歴史をひもとけば、1919年に飛行機がまさにこの屋上に着陸しています。世界初の有人飛行から10数年しかたっていない時期ですから、航空史の草分け的なエピソード。これは「ギャルリー・ラファイエット」の創業者が仕掛けた懸賞金つきのチャレンジで、軍のエース級パイロットとして活躍したジュール・ヴェドリーヌが見事成功させました。パイロットは名誉も懸賞金も獲得しましたが、もれなく罰金もついていたとか。当時すでにパリの低空飛行は禁じられていたのです。

ツーリズム復興の試み

さて、年間の入館者数は3700万人。フランスでもっとも入場者の多い建物といわれる「ギャルリー・ラファイエット」ですが、その3分の2が外国人だそうです。コロナ禍でそれがほぼゼロになってしまったのですから、打撃は相当なものでしょう。

ですが、徐々に戻りつつあるツーリズムの動きを盛り上げようと、この夏にはディズニーランドやムーラン・ルージュなどとコラボレーションして一大キャンペーン「Paris Mon Amour(パリ・モナムール)」を繰り広げています。

屋上に設けられたロゴは記念撮影の人気スポット。背景にエッフェル塔が入るようになっている
屋上に設けられたロゴは記念撮影の人気スポット。背景にエッフェル塔が入るようになっている

キャンペーン期間中は「ディズニーランド」とコラボレーションしたブースなどもある
キャンペーン期間中は「ディズニーランド」とコラボレーションしたブースなどもある

また常設の「エクスペリエンス」として、マカロンづくりが体験できるアトリエや、名門料理学校とコラボレーションした料理教室もあるという具合に、体験を提供するデパートという方向性も打ち出しています。

とにかく足を運びたいと思わせる魅力発信をあらゆる角度から試みているわけですが、芸術品としての建物の価値、デパートという歴史と文化そのものも強力な切り札になるのではないか、と感じさせてくれます。

次にこのデパートを訪れることがあれば、ぜひ建物のディテールを堪能してください。以前よりも美しく感じるように思えるのは錯覚ではありません。歴史遺産を守ろうとする目に見えない努力の賜物なのです。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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