デュエルの王 山口蛍に託される使命
国際Aマッチ出場数が一ケタという選手が大半を占める東アジア杯の日本代表。その中において、さすがと言うべき“違い”を見せているのがMF山口蛍(セレッソ大阪)だ。
メンバー23人中ただ1人、ブラジルW杯の全3試合に出場した背番号16は、バヒド・ハリルホジッチ監督が強調するデュエル(決闘)の最強の体現者。タフでラフな闘いが予想される中国との最終戦は、「デュエルの王」としての地位を確固たるものにする90分間となる。
■「フィジカルには自信を持っている。まだまだ走れる」
「復帰したての頃と比べると全然動けているし、いろんな動きもスムーズにできている」
山口は軽やかに言った。右膝外側半月板損傷で昨シーズンの後半戦を棒に振り、今年3月8日、東京ヴェルディとのJ2開幕戦で7カ月ぶりに公式戦復帰。そのころの膝の状態は、「7、8割程度」(山口)に過ぎず、「練習外にプラスアルファのトレーニングをすると水がたまる。連戦が心配」と不安を覗かせてもいた。
そこからの上昇が素晴らしかった。6月のW杯アジア予選のころには不安もほぼ解消し、東アジア杯2試合を終えた今は、「ケガをする前のことは覚えていないくらい。動きに関して今は問題なくやれている」と胸を張る。
今季の山口の場合、普段の戦いの場はJ2。試合のレベルという意味ではどうしても難しい面がある。日頃からいかに高い意識で試合やトレーニングをし、状態を上げてきたかが伝わる。右膝にはアイシング。ケアも怠りない。
北朝鮮との初戦ではダブルボランチの一角として先発した。的確な読みと鋭い出足の寄せでパスコースを限定し、球際ではコンタクトを厭うことなくボールを奪い、ボールを失えばすぐさま攻守の切り替えを行った。前への機動力、推進力があり、戦う気持ちがみなぎっていた。
後半2分には長い距離を走って左足でシュート。後半11分、柴崎岳が投入されてからは左のインサイドハーフとしてプレー。後半40分には怒濤の戻りで相手カウンターを遅らせ、ピンチの芽を摘む場面もあった。
運動量、球際。ピッチ上で起きたあらゆる“デュエル”で、山口は強さを見せた。厳しい戦いになればなるほど、相手がタフであればあるほど、本能を呼び起こされるかのように牙をむいた。
それでも山口自身は物足りなさを感じていたという。「僕個人は、チームでやっている時より動けていた自信もあるし、後半もまだまだ走れる自信はあった」、が、周りの選手の足が止まったこともあり、ピッチ上でのバランスを崩さないように動きを自重していたことを明かした。
■19試合目で日本代表初ゴール
初戦から中2日で迎えた韓国戦では、攻撃でインパクトを残した。この試合のポジションはキックオフ時から左インサイドハーフ。ダブルボランチよりプレーエリアが高くなることで、ミドルシュートを積極的に狙いに行くことを心掛けてピッチに立ち、そのプラン通りのプレーを見せた。
0-1で迎えた前半39分。セットプレーの流れから左サイドの倉田秋がタメをつくって中央にボールを入れ、山口が右足ダイレクトで蹴り込んだ。豪快な一撃だった。
「とりあえず打ったら入ったという感じ」と素っ気なかったのは、試合に勝つことができず、1-1の引き分けに終わったからだ。勝利への執着心は人一倍だ。
ハリルホジッチ監督が毎日繰り返す「日本人はフィジカルが足りない」との指摘には、もちろん耳を傾けながら、その都度、心の中で胸を張っている。
「監督からはフィジカル的な部分が足りていないと言われているけど、僕自身は結構自信を持ってできている」
■デュエルは山口の命綱
2試合を終えて1分1敗、すでに連覇の可能性はついえてしまっているが、このまま引き下がるわけにはいかない。最後の中国戦に勝つことで、日本が直面している危機を乗り越える手立てとしなければいけないという思いがある。
山口にとって東アジア杯は、世界舞台への挑戦権をつかむきっかけとなった思い入れのある大会だ。特に2年前の中国戦は代表デビューを果たした試合。3-3と苦しい内容だったが、残り2試合に勝って優勝し、MVPを獲得。翌年のブラジルW杯切符を手にする足掛かりにもなった。今回も、代表初ゴールを記録。またしても節目の大会となっている。
「プレスに行くことやボールを奪いに行くというのは自分の良さ。そこは、つねに周りとは違うというところを見せていかなくてはいけないと思っている」
中国戦ではメンタルとフィジカル両面で相手を上回り、球際で競り勝ち、90分間走り抜くことが山口の使命だ。その姿は経験値の少ないチーム全体にも影響を与えるだろう。
今季のJ2開幕戦。日本代表のことを聞かれた山口は、「ヤットさん(遠藤保仁)や今野(泰幸)さんは、ザックさんのチームで主力として呼ばれ続けていたからJ2でも呼ばれたのだと思う。監督が代わって、しかもJ2から呼ばれるのは厳しい道のりだと思う」と語っていた。しかし、いざ蓋を開けてみれば、コンディションを取り戻すにつれ、そして厳しい条件や相手になるにつれ、パフォーマンスを高めていくことで、指揮官の信頼を勝ち取ってきた。
「球際というのは、代表の舞台だけじゃない。Jリーグでもそこで負けると試合に持って行かれるところ」。実感のこもった言葉には重みがある。世界のデュエル王へと突き進もうとする戦士の意識はつねに高い。