日本版アーセナルシップとイージスアショア代替案
イージスアショア代替計画は発射機の分離設置・イージス艦の増勢・メガフロートの3種類の方法が提示されています。そして8月25日に自民党国防議連は3案を細分化し8案に分けて再提示しました。
- 分離設置A案(フロート)
- 分離設置B案(民間船舶)
- 分離設置C案(護衛艦)
- 分離設置D案(護衛艦+イージス艦)
- メガフロート/リグ案
- イージス艦増勢A案(SPY-7)
- イージス艦増勢B案(SPY-6)
- イージス艦増勢B´案(SPY-6 ※SPY-7も併用)
分離設置案とメガフロート案は既に契約済みのイージスシステム用のロッキード・マーティン製SPY-7レーダーを用いるので違約金が生じません。一方でイージス艦増勢案はSPY-7をキャンセルしてレイセオン製SPY-6に切り替える案が含まれています。これはアメリカ海軍の新造イージス艦はSPY-6を搭載しているので、連携の為には同種のレーダーの方がより適しているからです。ただしSPY-7の違約金が生じます。
なお分離設置C案とD案は陸上のSPY-7レーダーと海上の護衛艦が連携する案ですが、これに新規のイージス艦を追加建造したものが実質的にイージス艦増勢B´案となるようです。
分離設置A案(フロート)とメガフロート/リグ案は動かないフロートという脆弱な構造物に載せる弱点が問題で実現性が低く、分離設置C案とD案は既存の護衛艦を弾道ミサイル防衛任務に拘束してしまいます。もともとイージスアショアはイージス艦を日本海での対北朝鮮・弾道ミサイル防衛任務から解き、本来の任務である東シナ海での中国海軍との対決に投入させる目的があったので、分離設置C案とD案を採用すると本末転倒なことになってしまいます。
そこで浮上したのが分離設置B案(民間船舶)です。民間船を借り上げて迎撃ミサイルの発射機を搭載し沖合いを遊弋させる「弾庫船」とします。これを陸上のイージスアショアで遠隔操作すれば護衛艦を拘束せず、沿岸設置のフロートと違い海中からの潜水工作員によるテロ攻撃を気にする必要性がありません。ただし自己防御戦闘力は無いので本格的な攻撃には弱く、護衛艦のように最前線には置けません。
自分ではミサイル運用能力を持たず他艦に遠隔操作してもらう「弾庫船」という考え方は、過去アメリカに「アーセナルシップ」という中止された計画が存在していました。そして現在、韓国が「合同火力艦」という同じコンセプトの艦を計画中で実現すれば初の存在となる予定ですが、もしも日本のイージスアショア代替計画が分離設置B案(民間船舶)に決まればこれに続く形となります。
合同火力艦は基本的に地上攻撃用の巡航ミサイルや弾道ミサイルを搭載する計画であり、防空用の迎撃ミサイルを搭載するイージスアショア代替計画とは用途が異なりますが、アーセナルシップには攻撃用ミサイルだけでなく弾道ミサイル防衛用の迎撃ミサイルを搭載する計画も存在していたので、弾庫船という種類の船は攻撃と防御のどちらにでも使うことができます。
- イージスアショアのレーダーを日本海側の陸上に設置
- SM-3迎撃ミサイル弾庫船を安全な後方の太平洋側に配置
- イージスアショアが弾庫船を遠隔操作しSM-3を発射誘導
- イージスアショア自己防御用にESSM迎撃ミサイルを付近に設置
レーダーを日本海側に置きたいのは日本列島を背骨のように連なる山脈でレーダー電波を遮られたくないためで、発射機を海に置きたいのはブースターを安全に海に落とすためです。そしてブースターの無い一段式のESSM迎撃ミサイルなら陸上に置いても問題は生じません。ただしESSMは射程が短いので自己防御用にしか使えません。