【全文】北朝鮮、韓国に「領海侵犯するな」と警告。謝罪から一転”揺さぶり”は文在寅政権に効くか。
23日に発表され、韓国社会を依然として賑わせている北朝鮮領海内での「韓国人銃殺」に続報が届いた。
「北からの異例の謝罪文の3日後に、今度は警告」
朝鮮中央通信が27日に「南朝鮮当局に警告する」との記事を配信(以下に全文)。「被害者の遺体捜索はいいが、決してこちらの領海には入るな」と警告してきたのだ。これが韓国メディアに即座に報じられ、27日午前の国内最大のポータルサイト「NAVER」の政治部門アクセスランキング1位となった。
【全文】”異例”北朝鮮の「韓国人銃殺謝罪文」を読み解く。”連絡来た”だけで喜べない「南北の食い違い」
内容は「やることはやった」だからこそ「怪しい行動はするな」
日本語に訳すと460文字程度の短い記事では、まず「南側に起きた事件の顛末を調査通報し」、そして「最高指導部の意思に奉じ、必要な安全対策を強化した」とした。要は「報告も対策した=やるべきことは全部行った」という点を強調したのだ。
そのうえで「潮流に乗って発見しうる遺体を拾得した場合、慣例通り南側に渡す手順と方法も考えている」と。当然南側は遺体の送還を臨むだろうから、その準備もある、と。
この後、「韓国側が海上の南北軍事境界線付近を捜索しているとの報告があった」、「領海侵犯も確認できた」そして「我々は、南側が新しい緊張を誘発しうる西海(黄海)海上軍事境界線無断侵犯行為を直ちに中止するように要求する」と警告したのだ。
先の「謝罪文」も韓国側とすれば「困る」話になりうるか
北側は「やることはやった」という立場だが、じつのところ、韓国にとっては解明されていない「ブラックボックス」がある。
南北双方が一致している点は、被害者の韓国人男性(47歳の公務員)がすでに銃殺されたという点だ。
しかし遺体の行方については、南北で見解が異なる。
南:銃殺後、油をかけて燃やされた。
北:大量の出血により死亡と認識。その後、被害者が使用した浮遊物を燃やした。
北の話が事実なら、遺体が発見されるはずだ。ちなみに現場付近の海流は「恒常的に北から南に流れている」という。
国民的関心の高い事件だけに、これを捜索するのは当然の流れだろう。ところがこれが「北の領海で見つかれば、送還します」という話だと、深層が闇に葬られる事態も起きうる。
つまり北側で発見されず、という話になり、南側でも見つからずということになれば手の施しようがなくなる。
また、遺体の発見は事件の根本的関心にも関わってくる話だ。
被害者本人が「越北(韓国を脱し自ら北に渡ること)」を望んだのか。
あるいは同僚が「漁船での喫煙時に転落したのでは」と話しているように事故で北朝鮮領海に入ってしまったのか。
この点は韓国では未だに謎となっているのだ。前者を予想するメディアが多いが、仮に更なる証拠品が発見され、後者である点が発覚したのなら、間違いなく文在寅政権の新たな火種となる。「国境警備で、国民を守れなかったのか」という問題がより大きくクローズアップされるだろう。
肝心の”警告”の趣旨はあいまい……
北側は「すでに捜査過程で領海侵犯があった」と発表しているが、具体的な資料は示されていない。この点は韓国軍側から反論があるだろうか。いずれにせよ北としては警告を発しておけば、南側の「ギリギリの捜索」への抑止力になると考えたか。
文在寅政権は、今年7月の「脱北者が国境沿いの川を泳いで北朝鮮に帰国」という出来事により、すでに「国境警備」の点から批判を受けている。また今回の「銃殺事件」でも、対立する保守メディアから「被害者死亡の情報確認後、一晩明けて一般公開」というタイムラグを指摘され、また北への抗議が「遺憾」という言葉に終わった点を批判された。同時に22日に事前録画の映像を通じ行った国連演説で、「本件の死亡情報を知りながら、内容を差し替えず、北への抗議を入れなかった」点も批判されている。
事件への対応によっては、再び批判と左右対立を巻き起こしかねない状況だ。この点は3日前の「謝罪」時に、「朝鮮日報」など保守メディアが予想していた、北朝鮮による揺さぶりとも捉えられる。
いっぽう、27日のインターネットメディア「NEWS1」は「遺体送還の意思は、北の対南関係への変化の兆しか」という記事を発信。今回の警告とて、全てが悪いことではないと論じた。
以下、北側からの全文を紹介する。
南朝鮮当局に警告する
朝鮮中央通信社報道25日
我々は、現在の北南関係の局面であってはならない不幸な事件が発生したことに関連して、南側に起きた事件の顛末を調査通報した。
そして最高指導部の意志を奉じ、北南間の信頼と尊敬の関係がいかなる場合にも毀損する出来事が絶対に追加発生しないように、必要な安全対策を強化した。
我々は、西南海上の西海岸全地域での調査を組織し、潮流に乗って発見しうる遺体を拾得した場合、慣例通り南側に渡す手順と方法も考えている。
しかし、我々の海軍の西海(黄海)艦隊からの通知によると、南側では、去る9月25日から、数多くの艦艇、その他の船舶を、捜索作戦と推定される行動に動員させながら南側水域を侵犯しており、このような南側の行動は、我々の当然の警戒心を誘発させ、別の不幸な事件を予告している。
我々は、南側が自らの領海でいかなる捜索作戦を繰り広げようとも意に介さない。
しかし、我々側の領海侵犯は絶対に見逃せず、これに対して厳重に警告する。
我々は、南側が新しい緊張を誘発しうる西海(黄海)海上軍事境界線無断侵犯行為を直ちに中止するように要求する。
主体109(2020)年9月27日 平壌
※筆者による翻訳