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48歳の野望 ~IBF世界ライトヘビー級タイトル戦 ホプキンス対ムラートより

杉浦大介スポーツライター

10月26日

IBF世界ライトヘビー級タイトルマッチ

米国ニュージャージー州アトランティックシティ

王者

バーナード・ホプキンス(アメリカ)  

3−0(117-110、119-108、119-108)

挑戦者

カロ・ムラート(ドイツ)

Photo By Kotaro Ohashi

序盤は30歳のムラートが積極的に出たものの、試合巧者のホプキンスが徐々にペースを掌握。相手の強烈なパンチを浴びても驚異的なタフネスとスタミナを誇示し、結局は明白な勝利を挙げた。7ラウンドにはブレイク後のパンチでムラートに減点が告げられたこともあり、判定はより一方的になっている。

今年3月には48歳2ヶ月でタイトルを獲得して史上最年長王者奪取記録を更新したホプキンスは、この日の勝利で史上最年長で防衛を果たした選手にもなったことになる。

戦績を54勝(32KO)6敗2分とした老雄は、「KOしたかったが相手がタフだった。みんなKOが観たいだろうから、少しパンチを貰うように戦ったんだ」と語り、余裕の勝利を強調。一方、健闘及ばず敗れたムラートの戦績は25勝(15KO)2敗1分となった。

ホプキンスらしからぬ(?)打撃戦

史上最年長王者は業界内から尊敬を集めて来た一方で、相手の長所を殺す駆け引きの上手さが売り物だけに、いわゆるカジュアル層にアピールできる選手ではなかった。しかし、そんな48歳のキャリアの中で、今回のムラートとの打撃戦はエンターテイメント性という点では近年トップクラスだったろう。

中盤以降は約18歳も若いチャレンジャーとの打ち合いに応じ、危ないタイミングでコンビネーションを振り廻すこともたびたび。相手が生粋のハードパンチャーではなかったとは言え、その耐久力は驚異としか言いようがない。合計565発のパンチ中の247 発をヒットさせた老雄は、ハートの強さを示したチャレンジャー(486発中の147 発をヒット)に堂々と打ち勝ってみせた。

もちろん反則の応酬も見られたし、コーナーでの攻防時にムラート陣営のセコンドにストップを要請するといったパフォーマンスは余計だった。それでも、トータルで見てこの日のファイトが会場に集まった6324人のファンを湧かせるに十分だったことは事実。試合前には“エイリアン”という新愛称を好んで名乗り、入場時には実際に緑色の宇宙人マスクを被ってリング登場したホプキンスは、その人間離れした衰え知らずの力量を改めて証明したと言って良い。

メイウェザーとのスーパーファイト?

「フロイドが160パウンドまで体重を増やし、俺が160パウンドまで減らせば対戦できる。最高の試合になるはずだ」

今回のムラート戦の前後、王者はそんなコメントを残し続けた。この”メイウェザー戦キャンペーン”を、ホプキンスはフロイド・メイウェザー対サウル・“カネロ”・アルバレス戦の直後から継続している。

152パウンドの契約ウェイトでアルバレスに勝ったメイウェザーと、近年 は175パウンドリミットのライトヘビー級で戦ってきた48歳とのミドル級での対決が実現すれば、普段はボクシングに興味のない層も惹き付けるメガファイトになる。荒唐無稽に思えるが、オスカー・デラホーヤ対マニー・パッキャオ戦のような例もあるだけに可能性ゼロではないだろうか。

ただ、現実的にはこのドリームファイトはファンタジーの域を出ず、大方のメディアからも真剣に捉えられてはいない。

「フロイドとその陣営とこれから話すつもりだ。フロイドこそがパウンド・フォー・パウンド最強の男。どこで誰と戦うかは彼自身が決めることだ」

ゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)のリチャード・シェイファー社長はそう語り、すべてはメイウェザー次第であると主張している。だとすれば、とにかく対戦者選びに慎重なメイウェザーが、これまでミドル級以下で戦った経験がなく、計量後には180パウンドあたりまで膨れ上がりそうな選手との対戦を承諾するとはとうてい思えない。

現実的な今後の相手候補は

最強王者のミドル級進出があるとすれば、相手はGBP傘下でマッチメークも容易なWBO世界王者ピーター・クィリンとなるはず。2006年以降は1度も160パウンドまで落としたことのないホプキンスが本当にミドル級に落とせるのかどうか以前に、メイウェザーの視野にこの老雄はまったく入っていないに違いない。

筆者の情報源によると、来年5月に予定されるメイウェザーの次期対戦者の最有力候補はやはりアミア・カーンだという。

一方、近未来のビッグファイトを望むホプキンスだが、オプションは多くないのが実情。セルゲイ・コバレフ、アドニス・スティーブンソンといったライトヘビー級の強豪はHBOの投資を受けているだけに、SHOの看板の1人となったホプキンスとの対戦実現は困難を極める。そんな状況下で、12月14日にGBPの興行で防衛戦を行なう予定のWBA世界ライトヘビー級王者ベイブット・シュメノフ(カザフスタン/13勝(8KO)1敗)との統一戦に進むのが、最も理に叶い、より現実的な方向性となるのだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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