TBS「ビビット」のみなさまへ 悪意のある放送はホームレスの人を危険にさらすので、やめてください
TBS「白熱ライブ・ビビット」のみなさまへ 悪意のある放送はホームレスの人を危険にさらすので、やめてください
2月2日に水島宏明さんが、下記の記事をYahoo!ニュース個人でアップしました。
水島宏明さんは元日本テレビ「NNNドキュメント」のディレクターで、「ネットカフェ難民」の名付け親でもあるジャーナリストです。
僕は、この記事で取り上げられている1月31日に放送されたTBS「白熱ライブ・ビビット」の内容を記事で知り、とても驚きました。本当にこんな内容で放送されていたのか、と。
リアルタイムでは、僕は番組を視聴していなかったのですが、少し時間は経ってしまいましたが番組の内容をみる機会を得ました。(番組の内容の詳細は水島さんの記事をご参照ください)
番組の内容は、ホームレスの人の生活を丁寧においかけて社会問題として可視化する、などと言う内容とは全く違います。
ホームレスの人が不法行為をしている、近隣に迷惑をかけている、ホームレスの人はこんなに怖い人たちだ、的なことを煽って煽って煽りまくっている、という印象を受けました。字幕(テロップと言うのでしょうか)の書体とかもおどろおどろしいようなものだったりと、かなり驚きました。
こういった番組が放送されることの問題は水島さんがかなり丁寧に書いてくれていますので、僕からは、こういった放送がもたらすもの、ホームレスの人がおかれている状況について書きたいと思います。
よくある取材依頼
僕個人にも、僕が理事長をつとめる〈もやい〉にも、メディアからの取材依頼はとても多くきます。
基本的に、貧困問題やホームレスの問題を取材したいと考えてもらえるのはとてもありがたいことなので、どのようなメディアであっても丁寧にお応えします。
しかし、残念ながら、近頃とても増えているのは、「当事者を紹介してほしい」といった内容の依頼です。
実際に、過去のメールを掘り起こしてみたら、このTBSの「白熱ライブ・ビビット」からも2回、取材依頼をもらっていました。
いずれも内容は「当事者の紹介をお願いしたい」でした。
基本的に「当事者を紹介してほしい」という依頼をもらっても紹介はしません。(日頃から丁寧な関わりをもってくれているメディアや記者・ディレクターの人とは丁寧なやりとりをしてご本人の意思があれば紹介することもあります)
カメラの前で、たとえモザイクなどプライバシーへの配慮がおこなわれるにしても、当事者の人が自分自身の話をする、ということはとても大変なことです。
また、メディア等での拡散により、心ない誹謗中傷をあびる可能性もありますし、本人が望まない形で報道されてしまうリスクもあります。
ですので、それこそ、取材の方も、何度も現場に足を運んだり、当事者の人と接するなかで信頼関係を一から作ってもらうことをお願いしています。
しかし、残念ながら、そこまで丁寧に実直に取材をされる方は多くはありません。
TBS「白熱ライブ・ビビット」の取材陣はどうだったのでしょうか。「犬男爵」「多摩川リバーサイドヒルズ」などの呼称をつける彼らが丁寧な取材をしたとは思えません。そして、取材対象者の了承を得て報道しているのか…など、いろいろな疑問が浮かびます。
放送されることの影響と危険性
そして、ホームレスの人への取材に関しては、より一層の配慮が必要です。なぜなら、彼ら・彼女らは、特に取材を受けることができる人の多くは、あるていど「決まった場所で野宿している」からです。
だからこそ、取材を受けることができたり、やりとりができる、ということでもあるのですが、その「決まった場所で野宿している」ということは、その場所に誰でも行くことができる、ということでもあります。
ホームレスの人の多くは駅や公園、河川敷などの公共の場で野宿しています。ですので、誰でもいくことのできる場所で寝泊まりをしています。
なので、なかには悪意をもった人がその場所に行くこともありますし、ホームレスの人を「対象」に悪意のある行為をすることもあります。
ですので、ホームレスの人の取材をする際には、「そこがどこであるのか特定できないこと」が明確に必要です。
今回の、TBS「白熱ライブ・ビビット」の放送ではどうだったでしょうか。僕にはそういった配慮がなされていた、とは思えません。
この20年間に都内で10代の若者に殺されたホームレスの人は10人いる
ホームレスの人への襲撃の問題をご存知でしょうか。この20年間に都内で10代の若者に殺されたホームレスの人は、わかっているだけで10人います。(ホームレス問題授業作りネット)
頭がい骨陥没、外傷性ショック、内臓破裂。
加害少年・少女の多くは「ごみを掃除した」「あいつらは怠けている」「警察に言わないと思った」などと供述していたそうです。
この少年・少女たちは、自分たち自身でホームレスの人たちの生活を知るなかで「怠けている」「ごみ」だと思ったのでしょうか。僕はそうは思えません。
社会の差別や偏見、大人たちのホームレスの人たちへの「眼差し」が、彼ら・彼女らの暴力行為の背景にあるように思えてなりません。
ホームレスの人の多くは生活が苦しく、住む場所を失い、路上に生きるすべを求めてホームレス状態にいたっています。
決して彼らのテントや小屋は「リバーサイドヒルズ」ではないでしょう。また、こういった姿勢の番組放送がもつ影響というものを真摯に考えてもらいたいのです。
ホームレスの人の4割が暴力を受けた経験がある
2014年に都内の各支援団体の協力で「野宿者への襲撃に関する実態調査」をおこないました。都内でホームレス生活(主に野宿)をしている347名からアンケートをとり、その結果をもとに、東京都に対して(当時の都知事は舛添氏)、啓発活動や襲撃の防止に関する要望等もおこないました。(ちなみに、当時の舛添都知事からは要望内容を施策に反映させる旨を定例記者会見で表明してもらえたのですが、実現する前に辞職してしまいました)
記者会見の書き起こし記事はこちら
この調査からは、野宿生活中に約40%の人が何らかの暴力を受けたことがある、ということがわかりました。
これは、ホームレス生活をすることは、決して安全なことではなく、暴力被害などのさまざまな危険が隣り合わせである、ということを端的にあらわしています。
TBS「白熱ライブ・ビビット」で放送されていたホームレスの人たちは、ある側面から見ると充実した生活をしているように見えたり、不法行為をしながら悪びれない人たちに見えるのかもしれません。
しかし、こういった、彼ら・彼女らが抱えているリスクや、生活実態についてはあまり報道されることも知られることもありません。
そういった安全ではない環境で寝泊まりしている彼ら・彼女らが、配慮のない取材による番組や記事をきっかけに、危険な目にあう可能性がある。
考えただけでおそろしいことです。
丁寧な番組作りを望みます
TBS「白熱ライブ・ビビット」のみなさまへ。悪意のある放送はホームレスの人を危険にさらすので、やめてください。
もちろん、放送局、新聞、雑誌等、それぞれのメディアで各々の基準で番組や記事を作っていることでしょう。それについて僕がどうこう言える立場ではありません。
しかし、丁寧な取材による番組作りを望みます。
ホームレスの人を面白おかしく消費するのはやめてください。差別や偏見を助長するような描き方、ニュアンスでとれるような番組内容は避けてください。
これは、現場で支援活動に従事するものからのお願いです。
以上