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ファルカオが復帰のコロンビア代表。驚異のFW陣を解説!

河治良幸スポーツジャーナリスト

ファルカオが間に合った。

正確にはまだ代表候補30人の段階だが、コロンビアの大エースが当初は「絶望的」と言われた膝のケガから見事に復活を果たせば、ブラジルW杯の3試合目で対戦する日本代表にとっても大きな脅威となる。もっとも多くのサッカーファンは彼の復活と対戦を楽しみにしていたことだろう。

無論だが、コロンビア代表にはファルカオの他にもワールドクラスのFW陣が揃っている。コロンビア代表は主に2トップを用いるが、ペケルマン監督はどのコンビでギリシャとのW杯初戦、さらには日本戦に臨むのか。

著書『日本代表ベスト8 ブラジルW杯・対戦国シミュレーション分析』(サッカー小僧新書EX006)ではコロンビア代表との対戦も詳細にシミュレートしているが、ここでは30人の候補に入ったFWの7人を紹介する。

◆ラダメル・ファルカオ・ガルシア(モナコ) 28歳 フランス・リーグアン 17試合9得点

ペケルマンがキャプテンに指名したコロンビアの大エース。類まれな決定力と攻撃のビジョン。そして勝利への執着心。19歳からA代表に名を連ね、チームの象徴となるべきエースにキャプテンマークを与えることで、幅広い世代から構成される選手たちが1つになることを求めたのだ。

ファルカオを中心にまとまったチームは南米予選で快進撃を見せた。ファルカオは南米予選ではチームがあげた得点の3分の1にあたる9ゴール(3得点はPK)を決め、アシストや起点になった場面も含めると大半のゴールに直接的に絡んでいる。

もっとも、彼は全てを単独で決めるタイプのアタッカーではない。流れの中からの6得点は全てペナルティエリア内から決めているが、3つはディフェンスラインの裏に抜け出したもの。2つがクロスから。残る1得点は中盤から縦パスを右のワイドな位置で受け、マークが来たところで中に切り返し、左足でファーサイドに巻いてゴールネットを揺らす形だった。

ラインブレイクでファルカオの持ち味を象徴しているのが、アウェーのチリ戦で決めたゴール。中盤でMFのラミレスが目の前の敵をかわすと、ファルカオはあっさりとディフェンスの裏を取り、GKとの1対1を制して右足で流し込んだ。ファルカオが完璧なタイミングで動き出したことも見事だが、相棒のグティエレスが手前に引くファルカオとは逆の動きでディフェンスラインを彼の側に引き付けていた。

彼の得点には必ずと言っていいほど、周りのフォローやサポートが絡んでいる。組み立てからフィニッシュまでの流れを仲間たちと共有し、時に自分が周囲を助ける側になりながら、最後は冷静に決めるのがファルカオのスタイルなのだ。

◆ジャクソン・マルティネス(ポルト) 27歳 ポルトガル・プリメイラリーガ 30試合20得点

ザッケローニ監督が名指しで警戒する長身ストライカーで、ファルカオがかつて在籍したFCポルトのエースとして、2シーズン連続でポルトガルリーグ得点王を獲得した。研ぎ澄まされた得点感覚を持ち、ペナルティエリア内の動きの質はファルカオに匹敵。1歳先輩のファルカオを“理想的なFW”として目標にしている。

ポジショニングが前線の中央に固まる傾向が強く、フィニッシュ時のポジショニングがファルカオと重なる場面も見られたが、グティエレスとは前後の関係を明確にしやすい。典型的なポストプレーヤーではないが空中戦に強く、ダイナミックに飛びこんでクロスに合わせるヘディングは高い決定力を誇る。グラウンダーのパスに対しても、球際の厳しい体勢でも左右の長い足で正確にボールを捉えるため、DFに厳しくマークされても一瞬の隙からゴールを奪うことができる。

ファルカオと同じく、強いメンタリティを備えながら冷静さを失わない選手で、メキシコのハグアレスに所属していた時はキャプテンも任された。尊敬する盟友の怪我で最も燃えているのは彼だろう。コロンビアが上位に躍進すれば得点王も現実味を帯びる世界トップクラスのストライカーだ。

◆カルロス・バッカ(セビージャ) 27歳 スペイン・リーガエスパニョーラ 35試合14得点

屈強な肉体の持ち主でありながら、南米でトップクラスの俊敏性を随所に発揮するストライカーだ。ディフェンスラインの裏に抜け出すスピードはファルカオにも匹敵し、横からチャージされてもバランスを失わずフィニッシュに持ち込んでしまう。武器は右足のシュート精度で、GKとの1対1は狙いたがわずに足下を破る。クラブではPKのキッカーとしても信頼を勝ち取ってきた。

コロンビア代表の中でも苦労人として知られ、国内の2部リーグでプレーしていた時はバスドライバーの助手をして生計の足しにしていたほど。2012年にベルギーのクラブ・ブルージュでブレイクすると、スペインのセビージャでも得点を量産し、さらに名声を高めた。

コロンビア代表でのキャリアは浅いが、ペケルマン監督は南米予選の後半戦からはコンスタントに招集している。最終戦ではジャクソン・マルティネスと2トップを組み、得点こそ無かったものの惜しい場面を連発した。攻撃を組み立てるタイプではないが、フィニッシュに迫力をもたらす存在として、日本の守備陣は警戒が必要だ。

◆ビクトル・イバルボ(カリアリ) 24歳 イタリア・セリエA  29試合4得点

MFとして登録されている通り典型的なストライカーではないが、母国の英雄アスプリージャを思い起こさせる加速力はコロンビア代表のFW陣でも随一。ドリブルでもスピードはほとんど落ちず、ボールを持った状態でディフェンスの裏を取ることができる。ドリブル時のボールタッチは右足に偏るため、DFは対応が間に合えばコースを切りやすい。しかし、チャージされても一瞬にして体勢を立て直すと、こぼれかけたボールを足でかっさらい、再び加速して抜け出してしまう。

洗練されたタイプのFWは行動パターンが読めれば止めやすいが、イバルボは局面によって“アドリブ”が入ってくるため、守る側が対応に慣れてきたと思ったところに落とし穴がある。ミドルシュートも強力な武器で、ドリブルと違い左右の足で爆発的な弾道を生み出せる。昨年11月に行われたルギー戦とのテストマッチでは、ロドリゲスのFKから味方が折り返したボールに対し、相手DFが詰めてきたところで右足から持ち替え、左足のハーフボレーで豪快にゴールネットを揺らした。

巨漢だが左右のウィングでも鋭いカットインを見せる俊英に関して、所属するカリアリのチェッリーノ会長は来季のビッグクラブ移籍を明言しており、まさに売り出し中。前が開けば果敢に突っ込んで来るドリブラーで、連携は他のアタッカーに比べると粗削りだが、日本代表の守備陣にとっては最も嫌なタイプかもしれない。

◆アドリアン・ラモス(ヘルタ・ベルリン) 28歳 ドイツ・ブンデスリーガ 32試合16得点

力強くも柔軟なポストワークから、ゴール前でラストパスを呼び込み正確なフィニッシュに結び付ける。2011年のコパ・アメリカではファルカオと2トップを形成し、グループリーグ突破に大きく貢献した。

南米予選でも第5節までは招集されていたが、所属のヘルタ・ベルリンが2部で戦った2012-13シーズンは代表からお呼びがかからなかったが、再び1部に昇格した今季は新加入の細貝萌とともに前半戦の得点王となる活躍でチームの躍進を支え、代表復帰を大いにアピールする活躍を見せている。

現在は1トップのイメージが定着しているが、ヘルタ・ベルリンではギリシャ代表のゲカスとの名コンビで得点を量産したこともあり、行動範囲は前線の中央エリアながら、味方の特徴をうまく引き出す術にも長けている。細貝が彼の特徴を知っているのは日本にとってアドバンテージだが、安定してフィニッシュに迫力を生み出せるタイプだけに起点の動きから警戒する必要がある。

◆ルイス・ムリエル(ウディネーゼ) 23歳 イタリア・セリエA 24試合4得点

南米予選では2試合に途中出場したのみだが“近未来のエース”として期待され、ブラジルの地で大ブレイクを果たす可能性を秘める若手の1人だ。あらゆる方向からのラストパスをノートラップで捉えるアクロバティックなシュートは、守備が堅固なセリエAでも相手の脅威となっている。

ペナルティエリア内の落ち着きは素晴らしく、ブロックやGKの動きを読み切ったインサイドキックのフィニッシュは高い確率でゴールネットを揺らす。23歳でW杯を迎える若手で愛嬌に溢れるチームの人気者だが、天使の顔をした悪魔の様なストライカーだ。

MFのハメス・ロドリゲスとはアンダー世代の代表から一緒にプレーしており、A代表でもホットラインの形成が期待される。難点はケガの多さで、今季の前半戦はクラブで実力を発揮できなかった。本大会に向けて、ペケルマン監督に重用されるかどうかはコンディションにかかっているだろう。

◆テオフィロ・グティエレス(リーベルプレート) 29歳 アルゼンチン・プリメラリーガ 13試合5得点

コロンビア代表のアタッカー陣では唯一、南米のリーグに在籍するテクニシャン。アルゼンチンリーグで首位を走るリーベルプレートの主力で、得点力に加えてアシスト力が魅力のアタッカーだ。

南米予選で先発した10試合中の8試合は全てファルカオとのコンビで6得点を記録。大エースにとって最良のパートナーと言える。大柄ではないがクサビを受ける動きがうまく、ファルカオが引けば裏へ、逆なら手前とうまくポジションをズラしながら、フィニッシュのイメージをシンクロさせる。まさしく“阿吽”のコンビネーションだった。

仮にファルカオが日本戦を欠場した場合でも、2トップの1人はグティエレスになることが予想される。南米予選において、得点の大半がFWの素早いポストワークを起点にもたらされたものであり、豪華なFW陣の中でもその動きに優れるのがグティエレスであるからだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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