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“自殺大国”の汚名返上へ…韓国自殺予防協会に聞く、韓国の自殺防止対策と日韓の共通点(後編)

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
取材に協力してくれた韓国自殺予防協会。右2がオ・ガンソプ会長(写真=著者撮影)

ピーク時に比べると改善傾向にあるものの、未だに自殺率の高い日本と韓国。

それでも日本は2003年~2015年の12年間で自殺率が30%(27.0人→18.9人)も減少しいる。一方で韓国は、ピークである2011年の31.0人と比べても、2016年の25.6人と18%減に留まっている。

両国の差はどこにあるのだろうか。

韓国自殺予防協会のオ・ガンソプ会長は、「韓国は日本に比べてリソースがとても少ないのが現実です」と口を開く。

自殺対策予算は日本の40分の1

「一口にいえば、韓国は予算と人力が不足しています。韓国には中央自殺予防センターがひとつしかありませんし、職員もそれほど多くありません。また自殺予防のためには多くの投資が必要ですが、まだまだ貧弱です。

それでも文在寅政権となって、自殺予防が国家が解決すべき課題のひとつとして位置づけられ、予算も100億ウォン(約10億円)から160億ウォン(約16億円)に増えました。さらに保健福祉部(日本の厚生労働省と相当する)のなかに、新しい独立した部署として“自殺予防政策課”も設けられました。今年度からさらに多くの活動が始まるといえるでしょう」

前年比60%増という予算の引き上げ方を見れば、韓国の本気度が伝わってくる。

ただ、それでも日本の自殺対策関係予算(2016年、673億円)の40分の1に過ぎず、その少ない予算で日本以上に高い自殺率を改善できるのかという、懐疑的な視線もあるのが現実だ。

(参考記事:韓国が長らく抱えてきた「先進国最低レベル」の“3大問題”は改善するか

そうした現実を認めつつ、法整備の面でも韓国は日本に及んでいないと、オ・ガンソプ会長は指摘する。

「日本は2006年に自殺対策基本法が公布され、何度か改定されています。一方で韓国は2011年になって、ようやく自殺予防法が作られました。韓国の法律はまだまだ具体性が足らない。だから今年度、法律も発展させる努力をしていこうと考えています」

自殺の防止や予防においては日本が一歩先を進んでいるようだ。

なぜ日本と韓国の自殺率が特に高いのか

それでも世界各国と比べると、日本と韓国には自殺率が高いという共通点がある。世界保健機関(WHO)が2014年にまとめたリポートによれば、日本はワースト6位、韓国はワースト2位なのだ(約90カ国中)。

なぜ、日本と韓国は自殺率が高いのだろうか。

厚生労働省の「平成26年中における自殺の状況」を見ると、自殺の「原因・動機」としてもっとも多いのは、「健康問題」(1万2920人)だ。次点は「経済・生活問題」(4144人)となっている。韓国も健康問題や経済問題が自殺の原因・動機の多くを占めている。

(参考記事:20年で3倍!! 自殺率が急上昇する韓国社会、日本とはまったく異なる自殺原因とは

しかし考えてみれば、病気に苦しんでいる人や経済的な悩みを抱えている人は、それこそどこの国にも数多くいるはずだ。にもかかわらず日本と韓国の自殺率が特別に高いのは、少々不自然とさえ言えるかもしれない。

そんな筆者の疑問をぶつけると、オ・ガンソプ会長は「私なりの見解があります」と前置きした後で語り始めた。

「韓国と日本には、“自殺を許容する文化”があると考えています。それどころか、自殺を美化するところさえある。

例えば日本では以前、会社を倒産させた社長が責任を取って自殺するということがあったと聞きました。

一見、これ以上ないほどの責任を果たしたように思えますが、冷静に考えれば、その社長はまったく責任を取る行動をしていない。本当に責任を取るのであれば、新たな事業を起こすなどして会社を生かすか、社員の就職先を探すといった行動をするべき。自殺するなんて、無責任です。しかし“責任を取って死ぬ”という文化が成り立っています。

これは韓国も同じです。顕著だったのは、盧武鉉元大統領が自殺したとき。生前はそれこそ全国民が彼を非難していましたが、死後は“どれだけ検察が追い詰めたのか”、“どれだけ新政府が弾圧をしたのか”と世論が180度変化しました。人が死ぬことで、態度ががらりと変わったわけです。

韓国と日本には、誰かが自殺をしたら“どれだけ苦しんだのだろうか”と同情する文化があるでしょう。極論すればそれは、自殺したことを認めてあげるような態度です。私はそういう文化が両国の自殺率が高い背景にあると考えています」

たしかに韓国では著名人や芸能人の自殺があったとき、多くの同情の声が集まる。

(参考記事:「事務所トラブル」から“性上納”まで…なぜ韓国芸能界にはこんなにも自殺が多いのか

もしそんな文化的背景が影響しているとすれば、日韓の自殺問題は他国以上に根深い問題と言えるだろう。

だからこそオ・ガンソプ会長が強調するのは、意識の改革だ。

「“自殺は絶対にしてはいけないこと”。すべての人の意識がそのように変わってほしいというのが私たちの願いであり、目指すところです。

自殺が一度起こると、残された家族や友人にとても悪い影響を与えることになります。最低でも6人に深刻な精神的なダメージを与えるという研究結果もあります。

考えてみてください。自分の家族が自殺をしたら、どれだけ衝撃を受けるか。それは仲の良い友人でも同じ。自殺は絶対にしてはいけない。どんな理由があってもです」

今はまだ“自殺大国”という汚名を返上できないでいる韓国。それでも着実に改善の道を進んでいる。

最後に「私は、自殺はかならず予防できると信じています」と答えてくれたオ・ガンソプ会長。韓国自殺予防協会のこれからの活動に期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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