日本で広がりつつある「気候市民会議」。次の課題は?
2019年頃から欧州で本格的に広がり始めた「気候市民会議」が、日本でも着実に広がりつつある。
2022年7月、「武蔵野市気候市民会議」が自治体主催で初めて開かれ、東京都江戸川区で「えどがわ気候変動ミーティング」(2022年8月〜)、埼玉県所沢市で「マチごとゼロカーボン市民会議」(2022年8月〜)が開かれた。
そして、2023年には、「多摩市気候市民会議」(2023年5月〜)、「あつぎ気候市民会議」(2023年6月〜)、「かながわ気候市民会議in逗子・葉山」(2023年7月〜)、「日野市気候市民会議」(2023年8月〜)、「気候市民会議つくば」(2023年9月〜)と、続々開催中・開催予定となっている。
気候市民会議とは、無作為抽出で選ばれた市民が一定期間、気候変動対策について議論する会議のことをいう。
そして、そこで出された提言を行政の施策に反映させていく。
気候市民会議が有名になったきっかけの一つである、フランスの気候市民会議では、150人の市民が約8ヶ月議論し、149の提言を政府に提出。その後、その提言に基づく「気候・レジリエンス法」が成立した。
気候市民会議の背景についてはこちらに詳しい。
なぜいま欧州各国で「気候市民会議」が開かれているのか?ー日本では気候若者会議の取り組みも(室橋祐貴)
日本初となる地方自治体主催の「気候市民会議」、武蔵野市で7月に開催へ(室橋祐貴)
欧州を中心に広がった取り組みだが、市民の声や首長の関心などによって、日本でも広がりつつある。
他国のような、国レベルの開催には至っていないが、自治体の開催数で言えば、イギリスの28ヶ所に続き、世界で二番目に多い(ドイツも8自治体)。
気候市民会議は、住民の声を聞いているというイメージ作り、利害関係者の多い気候変動対策を推し進めるきっかけになる、政治色が弱いことから、市民、行政双方にとって、日本では受け入れられやすいのかもしれない。
兵庫県川西市では、くじ引き民主主義の取り組みとして、気候変動ではなく、まちづくりに市民の声を反映する「かわにしミライ会議」が開かれ、令和6年度から始まる「第6次川西市総合計画」に意見が反映されようとしている。
「かわにしミライ会議」では、無作為に抽出した市民2,000人のうち、約100人が参加。
さらに、オンラインプラットフォームであるdecidimを活用し、会議で出たアイデアの共有などを行っている(「my grooveかわにし」)。
他にも気候市民会議の準備を進めている自治体が存在し、今後より広く取り組みが進みそうであるが、現状どんな課題があるだろうか?
気候市民会議のスタンダード
イギリスの公益団体involveにより作成された「気候市民会議のスタンダード」によると、気候市民会議を実用的な取り組みにするために、重要な10項目がある。
1明確な目的
2十分な時間
3代表性
4包括性
5独立性
6公開性
7創造的な学び
8効果的に設計された熟議
9集団的な意思決定
10評価
代表性や包括性
これに照らして見ると、まず代表性や包括性の観点において、低所得者や障がい者、外国人などの政治的弱者を参加者に入れる取り組みは不十分である。
フランスの気候市民会議では、2名のホームレスに議論に参加してもらうなど、意識的に政治的弱者を巻き込んでいる。
明確な目的
次に、これは気候市民会議だけではないが、日本の環境問題、気候変動問題への取り組みは、エコ活といった個人の活動にフォーカスが当てられることが多い。
しかし、気候変動の問題は、もっと構造的な大転換が求められており、そのためには行政や大企業のコミットが欠かせない。
その点、気候市民会議の提言を受けて、社会構造を大きく変えるような取り組みが生まれているかと言えば、不十分である。
例えば、武蔵野市気候市民会議の参加者アンケートでも同様の指摘が見られる。
フランスでは、気候市民会議の提言を受けて、鉄道での移動が可能な国内の短距離区間で、航空機を利用するのが禁止されたりしている。
認知度
さらに、フランスやイギリスでは、黄色いベスト運動、エクスティンクション・レベリオン、といった国民の大規模なデモを受けて開催されたことにより、直接的な参加者以外にも会議の認知度が高く、世間的な注目度が高かったが、日本ではそうした前段階の押し上げが弱いため、無作為抽出とはいえ、一部の人にとどまってしまいがちである。
これを非参加者にも伝えるための、積極的な情報発信や、会議後の取り組み、オンラインプラットフォームの活用などにより、部分的な参加者をもっと増やしていく取り組みが求められるだろう。
日本版気候若者会議2023ではオンラインプラットフォームの活用
特に日本では、気候変動への関心が弱く、科学的な知見を持っている人も少ない=いまだに気候変動と人為的な行為に大きな関係はないという言説が跋扈している。
そのため、直接的な参加者だけでなく、非参加者をどう巻き込んでいくかは重要なテーマの一つになるのではないだろうか。
そうした観点から、2021年から開催してきた日本版気候若者会議では、参加者だけでなく、非参加者を巻き込む取り組みとして、オンライン参加型合意形成プラットフォーム「Liqlid」を活用し、より多くの市民を巻き込もうとしている。
オンラインの参加型合意形成プラットフォーム「Liqlid」で意見募集を開始しました(日本版気候若者会議)
いずれにしても、市民を政策の意思決定に巻き込んでいく「気候市民会議」の広がりは、日本の民主主義にとって希望である。
気候市民会議が着実な成果をもたらし、政府レベルや、他のテーマでも同様の取り組みが広がることを期待したい。