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「怒るハリル」に呆れる。 20分で失速した理由を理解できているのか

杉山茂樹スポーツライター
原口との争いで優位に立った乾貴士 写真:岸本勉/PICSPORT (本文中も)

 3-3で引き分けたハイチ戦後の記者会見。ハリルホジッチはのっけから怒りっぱなしだった。

「就任以来28試合(正確には31試合)戦ってきた中で最悪」と吐き捨てると、具体的な選手名こそ出さなかったものの、選手のダメ出しを開始した。

「いい入りをして2-0になって、1点取られて、選手の頭の中に何が起こったかわからないけれど、急にストップしてキレてしまい……。こんなひどい試合、見たことない」

 ハリルホジッチは質問への答えもそこそこに、こんなフレーズをしつこいくらい繰り返した。最後まで怒りは鎮まらなかった。「謝罪します。メンバーを選んだ私に責任があります。どんどん批判してください」と、自虐的な言葉も幾度となく飛び出した。

 だが、そう言いながらも、自分に対する反省はまるで具体的ではなかった。何を誤った結果、このような事態に陥ったのか。選手のダメ出しは具体的だったが、自分へのそれは曖昧だった。反省しているようで反省していない。「批判してください」と潔さをアピールしたものの、それはポーズにも見えた。つまり、苦戦の本質を理解しているという感じではなかった。

 苦戦は、この日のスタメンを見た瞬間から予想された。いや、正確に言えば、それは10月6日に行なわれたニュージーランド戦のスタメンを見た瞬間から、になる。

 ニュージーランドとハイチ、強そうなのはどちらか。FIFAランキング的に言えば、113位対48位でハイチだ。W杯予選で敗退し、試合から遠ざかっているハイチの実情を加味しても、せいぜい互角(実際、そうだった)。にもかかわらず、ハリルホジッチはニュージーランド戦にベストメンバーとおぼしき選手を並べた。ハリルホジッチがあらかじめ「招集した選手全員を使いたい」と述べていたことを踏まえれば、ハイチ戦のスタメンは、ニュージーランド戦のスタメンを見た瞬間に読めたも同然だった。

 こんなアンバランスなメンバー構成で大丈夫か。あるいは結果を度外視しているのか。ハイチ戦への疑念は、ニュージーランド戦の開始前から募っていたのだ。

 ハリルホジッチはこの事態を予想できなかったのか。好意的に解釈すれば、予想できたが、予想できなかったように振る舞い、驚いてみせた――となる。そう考えたいが、だとするならば、ハイチ戦後の怒りの表情はポーズになってしまう。

 ハイチ戦に先発し、ハリルホジッチから激怒された選手は哀れと言うべきだろう。二軍的なメンバーで戦う11人に、チームとして機能しろというのは無理な注文だ。過去に一緒に戦った経験がないのだから。2-0でリードをしても、その後に失速することは十分あり得る。驚くべき話ではない。

 例えば、守備の要であるCB2人を、昌子源と槙野智章が組んだことは過去に一度もない。これにアンカーの遠藤航と3人で後ろを固めたわけだが、ミスが出ないほうが不思議だ。

「チームの底上げを図りたい」がコンセプトなら、なぜ、それぞれの試合に従来のスタメンとサブを均等に配置しなかったのか。フィールドプレーヤー10人のうち、従来のスタメンを5人、従来のサブを5人で組ませて、戦おうとしなかったのか。いい頃合いでミックスしなければ、サブの底上げは図れない。戦術も浸透しない。

2試合連続スタメンに値するプレーを見せた長友 写真:岸本勉/PICSPORT
2試合連続スタメンに値するプレーを見せた長友 写真:岸本勉/PICSPORT

 長友佑都以外、ほぼ全取っ替え。これは虫干しも同然の仕打ちに他ならない。このメンバーに何を期待していたというのか。強化になると思っているのか。

「こんなひどい試合は見たことない。私が監督になって3点も奪われた試合はないのだから」と呆れかえるハリルホジッチのほうに、こちらは呆れかえってしまう。これでもし、遠藤、槙野、昌子が使えない選手だとの烙印を押されるならば、アンフェア極まりない。

 ハイチ戦。それでも立ち上がりは上々だった。7分に倉田秋、17分に杉本健勇のゴールにより、あっさり2-0とリードする。サブ組にしては上々の出来と言えたが、同時にハイチの酷さも目につくのだった。

 ハイチのマルク・コラ監督に言わせれば、「前半20分はプレーしていない状態だった。選手はまるで観客のように相手を見てプレーしてしまった」となる。

 約7カ月ぶりの試合で監督も代わっている。チームとしての練習日は2日間のみ。試合勘のなさは、とりわけディフェンス面で露呈した。ひと言でいえばザル。ブロックが形成されず、日本の攻撃を最終ラインの4人のみで受ける状態に頻繁に陥った。これ以上ひどい守備体系は見たことがないと言いたくなるほど、危なっかしい守備だった。

 それでも個人のポテンシャルは高い。局面の打開力はニュージーランドより上だ。試合に慣れてくれば、それなりに力を発揮する。2-0から1点を返すと、ハイチは次第に息を吹き返していった。

「いい入りをして2-0になって、1点取られて、選手の頭の中に何が起こったかわからない……」と語るハリルホジッチだが、相手との力関係を考えれば、チームとして未成熟な日本が2-0から停滞するのは当然。ハリルホジッチの分析に誤りありと言いたくなる。

 問題があるとすれば2-1で折り返した後半だ。後半の日本に何が起きたかと言えば、メンバー交代だ。

反省が具体的でないハリルホジッチ 写真:岸本勉/PICSPORT
反省が具体的でないハリルホジッチ 写真:岸本勉/PICSPORT

 後半開始とともに原口元気、車屋紳太郎が登場した。ハイチに同点ゴールを奪われたのは8分。その時間帯、原口は慣れない右サイドで存在感を失っていた。11分、14分、19分に井手口陽介、香川真司、大迫勇也のスタメン組がそれぞれ出場すると、悪い流れはさらに加速した。

 スタメン組が次々と出場しているのにもかかわらず、後半33分、逆転ゴールを食らった理由はハッキリしている。サブ組ベースの中にスタメン組が加わることで、中心がぼやけ、チームの統制が取れなくなっていたのだ。このミスマッチ感。それを生じさせた監督采配こそ一番の問題だと僕は見る。

 責任が重いのはサブ組よりむしろスタメン組だ。10番を背負い中心選手を自負する香川真司はいったい何をやっていたのか。後半9分まで出場した小林祐希より、明らかに劣っていた。

 確かに、2-1にされたハイチのゴールは遠藤の深追いが一番の原因であり、東口順昭のセーブも3失点中2失点は防げたのではないかと思わせた。しかし、それを言う前に指摘されるべきは、やはりそのアンフェアな起用法だ。これではサブ組は潰れる。W杯最終予選の初戦、UAEとの大一番に、代表経験が一度もない大島僚太をいきなり先発させ、半ば潰した一件を、ふと想起した。愛を感じない起用法である。

 サブ組をスタメンに並べたなら、結果は甘んじて受け入れろと言いたい。ハリルホジッチはいったい何を大騒ぎしているのか。それこそがハイチ戦の一番の問題だ。選手より、分析力に欠ける監督の方が心配になるのである。

(集英社 Web Sportiva 10月11日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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